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DNAの仕業

最近お世話になりだした美容師さんは、東北のご出身である。
私と同じく、アウエーな土地で暮らしている事になるので、やたら親近感が湧いてしまう。あるある話で盛り上がる。

こちらに来て驚いた事は何かと尋ねると、まずは人身事故の多さ(そもそも電車の本数が桁違いに少ないので、ほぼ聞いたことがないという事だった)と、冬に僅か1cmの積雪で『大雪警報』が出る事(彼女の地元だと『もう春だねえ』というレベルだそう)だと言っていた。

私にも同じ問を返されたので、考えてみた。
以前は北陸に居たこともあるので、大雪警報については私も彼女と同じ感想を持った。

そして私には"文化の違い"を強烈に感じて驚いた事がもう一つある。『驚いた』というより『戸惑った』と言った方が良いのかも知れない。

こちらの人がとても"真面目"である事だ。
冗談が通じないことがあり、ちょくちょく慌てる。

私は現在職場で"研修中"の名札を付けている。名札にはベッタリとふたばマークがはられているのだが、なんだか若々しくて気恥ずかしい、と夫に言うと、
「じゃあ、高齢者マークにしてもらえや」
とからかわれてしまった。何言うてんねん、失礼やわあ、と家では大笑いしたのだが、この会話を職場で披露した所、微妙な空気が流れ、同僚の一人が固まってしまった。
どうリアクションしていいのか、わからないようだった。気の毒な事をした。

その時、関西に住んでいる私のおじから以前聞いた一件を思い出した。
おじはその頃、勤めていた会社を定年退職した後、他社に出向して働いていた。たいして忙しい業務ではなく、のんびりとした職場だったそうだ。
東京の親戚と集まる機会があった折、一人がおじに向かって今はどんな仕事をしているのか、と尋ねてきたのでおじが、
「いやあ、毎日油売ってますよ」
と言うと、その親戚は真面目な顔をして、
「そうですか、石油を取り扱っておられるんですか、凄いですねえ」
と言ったという。
おじは、
「話が通じん」
と爆笑しながらそのやり取りを教えてくれた。

これほど極端ではなくても、こちらの友人との会話の際にはよく似たような場面に遭遇する。
関西だと当然のように笑える場面で、笑いが取れない。真面目に受け取られてびっくりする。
階段を一段踏み外したようなというか、正面に投げた球をヒョイと避けられたようなというか、あれ?という置いてきぼり感がある。

夫は自ら発起人となって、職場に『吉本新喜劇を見に行く会』を作ってしまうほどの生粋の関西人であるし、当然妻である私も同様のノリを有した人間である。
ついつい、『自虐ネタ』や、『ツッコミを期待したボケ』を発してしまう。考えてするのではなく、DNAが勝手に私にそうさせる。

しかし残念な事だが、関西にいる間は普通だったこのノリは、こちらでは通じないことの方が多いようだ。
美容師さんにそういった話をすると、
「そうですねえ、関西の方は会話のテンポが速すぎてついて行けない、って感じがする事もありますねえ。個人差も大きいとは思いますけど」
と言われてしまった。

『郷に入っては郷に従え』という。やむを得ず"真面目路線"で行くとするか、と考え始めている今日この頃である。
暫く苦労しそうだ。





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