在間 ミツル

エッセイスト。身の回り半径3m以内で起きたこと、感じたこと、考えたことを綴ります。 お…

在間 ミツル

エッセイスト。身の回り半径3m以内で起きたこと、感じたこと、考えたことを綴ります。 お気に入り記事は有料で公開(不定期)。申し訳ありませんが、諸事情により2024年4月以降当面コメント返し出来ません。

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海は必ず凪ぐ

ちょっと前まで、私は夢なんて持っていなかった。この歳で夢を語るなんて、バカげたことだと思っていた。そしてどうやって死にゆくか、いかにこの世に未練なく、きれいさっ…

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取り敢えずバター醤油

今日の夕飯は豚肉のトマト煮にした。 私が持っているタサン志麻さん著のレシピ本の中のメニューで、家族に大好評の一品である。特別な材料を使わず、たいして難しくなく手…

在間 ミツル
6時間前
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ついうっかり

先日やっと、お気に入りのTシャツを出した。袖にちょっと透け感があって、涼しげなデザインのものである。 白だから、色んなボトムスに合わせやすくて便利だ。最近はちょっ…

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距離を詰める人々

レジに入っていると、我々との距離を必要以上に『詰めて』来られるお客様が必ず一定数いらっしゃる。 コロナが第五類に移行するまでは殆どいらっしゃらなかったが、このと…

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『あること』と『ないこと』

自分に今「ないこと」に着目するのは簡単である。 思う存分使えるお金がない。病気知らずの健康な身体がない。誰もが見とれる美しい外見がない。大谷翔平や藤井聡太のよう…

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強張った身体と心を抱きしめて

残念なことだが、最近姑にやや認知症と思しき症状が出始めている。 私が最初にそれを疑ったのは、舅が入院したことを知らせた二ヶ月ほど前の頃だった。 夫が噛んで含めるよ…

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周りの世界

先日、会話したことのない知り合いの車に乗せてもらう機会があった。 どちらも女性。一人は私より年上で、もう一人はぐんと年下である。 年上の人とは普通に会話が弾んだが…

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納豆は誰のもの

土曜日の我が家の夕食はカレーに決まっている。 私が楽団の練習に行くからである。作り置きが出来、量の調節を各人で好きにしてもらえるカレーは、サラダでも添えておけば…

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真の親孝行

木曜日から弾丸関西行きを決行して、昨夜無事帰ってきた。 両方の両親と顔を合わせ、会話をした。なんのかんのと墓参りも出来て、全てのミッションを恙なくこなせてホッと…

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物事の裏表

忙しい時に限って、更に忙しくなる用事が重なったりする。 今回の私の関西行きは正にそれだ。 老健に入所中の舅の通院の付き添いに行く為に来たのだが、どうせなら自分の…

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なんとかなる人

新人のIさんは無事に出勤してくれて、順調に仕事を覚えてくれていっている。 しかし入社初日にMさんがバリバリに厳しく教えたらしく、翌日私が初めてお目にかかった時はと…

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チビとノッポ

中学三年生の時の同級生には、下の名前が私と同じ子が二人もいた。当時は女の子の名前に『子』を付けないのが流行ったらしく、同級生にはそういう名前の子が多かったが、全…

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しょうがなく作る

今度、新しい人がウチの売り場に入ってきた。Iさんという、若い方である。 「在間さん、教えてね。連休明けからお願い」 Yさんにいきなりそう言われて、目が点になってしま…

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チマチマムシムシ

器用か不器用か、と訊かれたら即座に『不器用です』と答える自信があるけれど、細かい作業が嫌いかというとそうでもない。むしろ好きである。 料理は私の苦手分野の筆頭だ…

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ファッションショーは鏡の前でどうぞ

ゴールデンウイーク中日の昨日はご来店されるお客様もあまり多くなかったが、一応特売期間になっているので、それ目当てのお客様は結構来られた。 キャリーケースは今買え…

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母と娘

母は今でも時折、私を自分の思い通りに動かそうと、あの手この手で画策してくる。 昔と違うのは、私の方が 「ああ、またやってるな」 と客観的にそういう母の姿を眺められ…

在間 ミツル
2週間前
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海は必ず凪ぐ

海は必ず凪ぐ

ちょっと前まで、私は夢なんて持っていなかった。この歳で夢を語るなんて、バカげたことだと思っていた。そしてどうやって死にゆくか、いかにこの世に未練なく、きれいさっぱり自らの生きた恥ずかしい痕跡を消すか、そんなことばかり考えていた。
世の中は怖くて厳しいもので、生きることは辛く苦しいもの。他人は先ず警戒し、おそれ、避けるべきもの。そんな風に感じていた。
この世は限りなくグレーで、自分はその中で辛うじて

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取り敢えずバター醤油

取り敢えずバター醤油

今日の夕飯は豚肉のトマト煮にした。
私が持っているタサン志麻さん著のレシピ本の中のメニューで、家族に大好評の一品である。特別な材料を使わず、たいして難しくなく手間がかからない(志麻さんのメニューはどれもそう)のにとても美味しく出来るので、私も大変重宝しているメニューの一つだ。
少し多めに作って、在宅する日の夫の昼食用に置いておけるのも良い。

『おふくろの味』を懐かしむことはあっても、自分の匙加減

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ついうっかり

ついうっかり

先日やっと、お気に入りのTシャツを出した。袖にちょっと透け感があって、涼しげなデザインのものである。
白だから、色んなボトムスに合わせやすくて便利だ。最近はちょっと暑い日もあるし、そろそろ着てもよさそうだなあ、なんてウキウキして出してみたら、悲しいことに裾の方に小さな茶色いシミが付いていた。
目立たない場所だし、裾をインして着てしまえば傍目にはわからない。出していたってよく見ないとわからないくらい

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距離を詰める人々

距離を詰める人々

レジに入っていると、我々との距離を必要以上に『詰めて』来られるお客様が必ず一定数いらっしゃる。
コロナが第五類に移行するまでは殆どいらっしゃらなかったが、このところ物凄い勢いで増えつつあると感じる。
レジ台に身を乗り出し、顔をこちらに近づけてお話しになる・・・。
お買い上げ頂くのは嬉しいが、あんまり有難くない行為である。
耳が遠い訳ではなさそうだ。

こういうお客様には大体共通する特徴がある。

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『あること』と『ないこと』

『あること』と『ないこと』

自分に今「ないこと」に着目するのは簡単である。
思う存分使えるお金がない。病気知らずの健康な身体がない。誰もが見とれる美しい外見がない。大谷翔平や藤井聡太のような抜きん出た才能がない・・・
当たり前なのに、ともすれば人は欲張りになり、ないものだらけの自分を嘆く。

「あること」に着目するのは難しい。意識しなくても当たり前に自分に備わっている事実を、わざわざ取り出して「ああ、自分にはこれがある」とあ

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強張った身体と心を抱きしめて

強張った身体と心を抱きしめて

残念なことだが、最近姑にやや認知症と思しき症状が出始めている。
私が最初にそれを疑ったのは、舅が入院したことを知らせた二ヶ月ほど前の頃だった。
夫が噛んで含めるように入院の経緯を説明し、なるほど分かった、と納得の返事をしていたにもかかわらず、翌日には『みんなが何か大事なことを隠している』とパニックになり、二十四時間体制で駆けつけてくれる看護師さんを呼んでなだめてもらうという騒ぎになってしまったので

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周りの世界

周りの世界

先日、会話したことのない知り合いの車に乗せてもらう機会があった。
どちらも女性。一人は私より年上で、もう一人はぐんと年下である。
年上の人とは普通に会話が弾んだが、年下の人とは長い沈黙の時間があった。
この時のことを夕食時夫に話すと、
「お前、それようまあ平気やなあ。オレやったら、気ィ遣って無理やわ。なんか喋ろうとするわ」
と呆れられてしまった。
車という二人きりの密室で、ニ十分ほど黙ったままでい

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納豆は誰のもの

納豆は誰のもの

土曜日の我が家の夕食はカレーに決まっている。
私が楽団の練習に行くからである。作り置きが出来、量の調節を各人で好きにしてもらえるカレーは、サラダでも添えておけば十分なので、私が出かける時にはとても有難いメニューなのだ。
早くから作っておけるし、温めなおすのも簡単でいい。
夫の大好物でもある。「明日はカレーね」と言えば、すっかりえびす顔だ。
つまりカレーはあちゃこちゃ出かける主婦である私にとって、ど

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真の親孝行

真の親孝行

木曜日から弾丸関西行きを決行して、昨夜無事帰ってきた。
両方の両親と顔を合わせ、会話をした。なんのかんのと墓参りも出来て、全てのミッションを恙なくこなせてホッとしている。

実家の両親の喜び様ったらなかった。
父は普段は寡黙で、電話に出ても殆ど喋らずに母に交代してしまう。だが一昨日はずっと喋りっぱなしだった。
母も他愛ない近所の話をいつものように止めどなく口にしつつも、何度も『嬉しいわあ』と繰り返

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物事の裏表

物事の裏表

忙しい時に限って、更に忙しくなる用事が重なったりする。
今回の私の関西行きは正にそれだ。

老健に入所中の舅の通院の付き添いに行く為に来たのだが、どうせなら自分の両親の顔も見ていこう、と思い立ち、約五時間かけて実家に帰省した。
父とはコロナ禍以来、実に四年ぶりの再会である。二人とも元気そうで、安心した。久しぶりに三人で食卓を囲み、沢山話をした。
疲れはしたが、やはり来て良かった。

実家に泊まりは

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なんとかなる人

なんとかなる人

新人のIさんは無事に出勤してくれて、順調に仕事を覚えてくれていっている。
しかし入社初日にMさんがバリバリに厳しく教えたらしく、翌日私が初めてお目にかかった時はとても表情が硬かった。よろしくお願いします、という顔も緊張で強張っている。
真面目なMさんは使命感で、いきなりかなりぎゅうぎゅうと仕込んだようだ。
そこで先ずは緊張を取るのが先決かな、と思い、いつもより関西色濃いめで話しかけてみたのだが、戸

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チビとノッポ

チビとノッポ

中学三年生の時の同級生には、下の名前が私と同じ子が二人もいた。当時は女の子の名前に『子』を付けないのが流行ったらしく、同級生にはそういう名前の子が多かったが、全く同じ名前の子はその二人だけだった。
尤も漢字の表記は三人三様だったから、厳密に言えば『音』だけが同じだった、ということになる。
その内の一人がKさんだった。
Kさんは歳の離れたお兄ちゃんと弟に挟まれた真ん中っ子だった。お父さんは早くに病気

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しょうがなく作る

しょうがなく作る

今度、新しい人がウチの売り場に入ってきた。Iさんという、若い方である。
「在間さん、教えてね。連休明けからお願い」
Yさんにいきなりそう言われて、目が点になってしまった。

何を隠そう、私はレジの基本対応を正式に習っていない、売り場で唯一の人間である。
なんでも私の入社当時は超人手不足で、前任の課長が『新人はすぐに現場に出して、慣れさせて覚えさせよう』と言いだし、その無謀な計画が私一人にのみ、適用

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チマチマムシムシ

チマチマムシムシ

器用か不器用か、と訊かれたら即座に『不器用です』と答える自信があるけれど、細かい作業が嫌いかというとそうでもない。むしろ好きである。
料理は私の苦手分野の筆頭だが、豆ごはんを作るために、エンドウ豆の皮を剥いたりするのは好きだ。
餃子を包むのにも夢中になる。
子供の頃はよく蕗の筋取りを手伝わされたが、鼻息をスースー言わせながら、指先を灰汁で真っ黒にして一心不乱にやっていた。
栗の皮むきはちょっとしん

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ファッションショーは鏡の前でどうぞ

ファッションショーは鏡の前でどうぞ

ゴールデンウイーク中日の昨日はご来店されるお客様もあまり多くなかったが、一応特売期間になっているので、それ目当てのお客様は結構来られた。
キャリーケースは今買えば一割引きである。この辺の学校事情はよく知らないが、近々修学旅行がある学校が多いらしい。そんな感じの親子連れが大勢来られた。
少しでも安く準備したい親御さんのお気持ちがよく分かる。この時期は色々お金かかるよねえ、と昔を思い出しながら眺めてい

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母と娘

母と娘

母は今でも時折、私を自分の思い通りに動かそうと、あの手この手で画策してくる。
昔と違うのは、私の方が
「ああ、またやってるな」
と客観的にそういう母の姿を眺められるようになったことと、そういう母を目にしても怒りも悲しみも湧かなくなったことである。
私を支配下に置こうとする母を遠くにただ遠くに在る、自らの人格とは切り離した個の存在として認め、良い意味で冷めた目を以てその行動をじっと眺める。
こう書け

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