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春侯爵詩片

ただ一人
その山の前に
立っている

幼い頃に
足を踏み入れて
仲間たちと
峰に登り
谷に降り

何かを
無言のうちに
語りかけられた


ただ一人
その川べりに
立っている

幼い頃に
足を踏み入れて
仲間たちと
魚を捕まえ
ザリガニを掴み

何かを
無言のうちに
与えられた


しかし
もう
誰も
いない

山に登る者も
川の流れに入る者も
絶え果てた

私の中に
何か
残っているのか

ただ一人
立ち尽くしている

しかし
私の中に
それは
ある


山神につかわされた
名も知れぬ
青い葉の枝の記憶が

いなくなったのは
私だったのだろうか

果てしなく
早送りの
日々が
飛び去ってゆく中に

ただ一人
立ち尽くしている


■エニグマ、“ReturnToInnocence”を聞きながら。
■画像はヤフー、渓流画像より。

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