Honda IGNITION× HAX Tokyoコラボ事例――高い熱量で走り切るための支援
2023年6月公開の記事でお伝えしたとおり、HAX TokyoはHonda(本田技研工業株式会社)の「IGNITION Studio」とのコラボレーションを実施しました。
プログラム期間中はHAX Tokyoのディレクター陣がオンラインによる座学研修を担当したほか、希望するHonda社員との個別面談を実施しました。プログラム最終日にはIGNITION Studioに参加した社員によるピッチイベントを開催し、第1期が閉幕しました。
コラボレーションの経緯やプログラムの感想について、HondaでIGNITION Studioの運営を担当する程塚 梨乃氏とHAX Tokyoの市村慶信、岡島康憲、藤牧友が振り返りました。
自由なゴール設定と、個々の自走をアシストするIGNITION Studio
――まず、IGNITION Studioを実施した経緯について教えてください。
程塚氏:弊社では以前から取組として、「IGNITION」という新規事業創出プログラムがあります。これまでにHonda社員が個人で検討していたテーマが採択されて、複数のスタートアップが起業に至っています。一方でプログラムの出口に起業の道筋があることで、資金調達可能な練度が欠かせないといった側面がありました。結果的に参加ハードルが高くなっているという課題がありました。
そうした経緯からIGNITIONにエントリーする前段階としてIGNITION Studioを企画しました。期間中は事業開発の基礎を座学で学びつつ、自ら行動して仮説検証できるプログラムを提供しています。
2023年の春頃から準備を開始していた際に、HAX Tokyoの藤牧さんからご提案を受け、今回のコラボレーションが実現しました。Hondaはこれまで製造業で成長してきましたので、IGNITIONにもハードウェアにちなんだ提案が多い傾向があります。そこでHAX Tokyoが持つ専門的な知見を参加者に共有できると、より深い学びが提供できるという点に魅力を感じていました。
藤牧:HAX Tokyoでは更に多くの方に活用できるよう、プログラムの拡充を検討していました。その一環として、スタートアップに加えて大企業間の新規事業創出に向けた取り組みも推進することで、日本のスタートアップエコシステムをより強固にしたいという思いがありました。そうした中でタイミングよくIGNITION Studioのお話を伺い、ぜひご協力したいとご提案したところから、今回の取組につながりました。
――IGNITION Studioでは、あえて起業にフォーカスしなかったということは、ゴール設定も参加者個人に委ねているのでしょうか。
程塚氏:はい、IGNITION Studio参加後も、IGNITIONへの応募は任意です。今回はあくまでもIGNTIONで培ったノウハウとベンチャーキャプたるなどの外部専門知見を体系化した研修というかたちで社員に提供しています。
個人で温めてきたアイデアでも、業務で携わっていた領域でも広く受け入れ、最終的には何かしらの形でビジネスとして花開くための第一歩としてIGNTION Studioを活用してほしいと考えています。
熱意を維持したまま、アイデアを実現するには
――期間中はHAX Tokyoディレクターの市村さんと岡島さんがHondaの皆さんをサポートしました。スタートアップの育成ではなく、社員の研修という形で関わるに当たって、心がけた点はありましたか?
市村:参加者のモチベーションを高めながら、自分のアイデアを深めて披露する場だと認識したので、考えているアイデアの価値を高め、実現するために必要な要素を伝えるという点にフォーカスしました。今回のIGNITION Studioで発表して終わりにしてほしくないという思いもありましたし、ここで得たことを日常の業務や個人のプロジェクトにも還元できるようなアプローチを心がけていました。
岡島:Hondaという企業にいながらにして、新しい会社を作ってみようかなと思っている時点で、人として魅力的だなと思いますね。そういう人たちの熱量に水を差したくないという気持ちが第一にありました。
アイデアの駄目な部分を探したり、改善するアイデアを考えるのでは無く、どこを伸ばすことで勝ち筋が見えるかということを伝えることで、アイデアを形にする方法を一緒に考える仕掛け作りに注力しました。私自身、もともと企業に勤めていたので、企業人が独立して会社を作る姿勢には共感しますし、リスペクトを感じています。
市村:こうした起業家向けの講義はこれまでに何度も経験していますが、Hondaの方は総じて熱量が高いと感じました。講義後に質問をメールで受け付けても、ほとんど来ないケースの方が多いのですが、IGNITION Studioでは毎回問い合わせをいただいて、講義後に個別に時間を設けて面談で回答することもありました。
当事者視点だから伝えられること
――二人からのメンタリングや講義を通じて、印象に残っていることはありますか?
程塚氏:特にメンタリングで印象的だったのは、「ビジネスを作っていく上で、自分自身のモチベーションをどのようにコントロールするか」というお話をされていたことです。
なるべくモノを作らずに価値を検証していくというセオリーもある中で、「小規模でもモノを作ることで自分やチームのモチベーションを保てるのであれば、やったほうがいいよね」というアドバイスをされていて、目から鱗が落ちる思いでした。
岡島:事業の失敗とか計画通りに進まないという事以上に、チームの熱量やモチベーションが消えた瞬間に、スタートアップは事業が止まるんですよね。資金調達や顧客開拓と同じぐらいモチベーションの維持は重要で、過去に実例も見てきたのでIGNITION Studioでもお伝えした経緯があります。
プロジェクトを継続する上で常に振り返ることができるよう、モチベーションの原点を言語化することも重要だと思います。それは研究者であれば任期かもしれないし、ある人はお金かもしれない。個々にモチベーションが違う中で、「最終的なゴールは上場だよね」と画一的なコミュニケーションをメンターが図っていると、どこかでスタートアップの心が折れる瞬間が来てしまいます。そういった先々に起きうることも踏まえて、大事なことは正しく伝えようと思っていました。
回を追うごとにプログラムも進化
――IGNITION Studioの今後について、聞かせください。
程塚氏:今後も継続して研修プログラムを実施する予定です。その際は引き続きHAX Tokyoの皆さんにもご協力いただきたいと考えています。第1クールを終えて、さまざまな気づきがあったので、次回にも反映していきたいと思います。
市村:今回のプログラムを通じて、アイデアから課題設定に落とし込む道筋やマネタイズに対する考え方など、重点的に取り組んだ方がいいポイントもわかりました。次回のIGNITION Studioでは座学だけでなくワークショップを通じて、よりHondaの皆さんに役立つプログラムを提供していきたいですね。
――HAX Tokyoとしては、今後どのようなコラボレーションを考えていますか?
藤牧:今回を機にIGNITIONに携わるHondaの皆さんとHAX Tokyoチームが密にやりとりできる環境が整いましたが、今後はHondaや住友商事のさまざまな部門同士がコラボレーションできる機会に発展していくことを期待しています。
一方でHAX Tokyoというプラットフォームを、さまざまな企業に活用いただくための取組も引き続き推進していく予定です。
取材・文:越智岳人(シンツウシン)、記事中の写真提供:Honda
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