新しいジョン・ハルの教科書の読み方:オプション編

以下では下記の続きを書きます。
新しいジョン・ハル教科書の読み方(服部レポートの活用とデリバティブの勉強方法)|服部孝洋(東京大学) (note.com)

前回、ハルの書籍の9章まで議論しましたが、10章からは下記の通り、オプションの話題が続きます。

第10章 オプション市場の仕組み 
第11章 株式オプションの特性   
第12章 オプションを用いた取引戦略   
第13章 二項ツリー   
第14章 ウィナー過程と伊藤の補題   
第15章 Black-Scholes-Mertonモデル   
第16章 従業員ストック・オプション   
第17章 株価指数オプションと通貨オプション   
第18章 先物オプション

まず、10章は基本的なオプションの商品性に加え、プット・コール・パリティ、11章はオプションのトレーディング戦略の説明です。13-15章ではシンプルなオプション公式を出す議論があり、それ以降がストックオプション、株・通貨オプション、先物オプションという流れです。

まず、13章から15章以外については、私が「国債先物オプション入門」という論文をJPXから出しており、下記を読むことを勧めたいです。

https://www.jpx.co.jp/derivatives/products/jgb/jgbf-options/tvdivq0000003qr3-att/jgbopreport.pdf

このレポートの評価は読者にゆだねたいですが、私自身は分かりやすくかけていると考えてます。私のレポートの最大の特徴は、先物オプションに絞って説明しており、かつ、実際の具体例を豊富に取り込んでいることです。まったく予備知識がなくても、冒頭から読んでいけば、概ねのオプションの商品性や基本的なコンセプトが理解できるとおもいます。

第16章と17章については記載がありませんが、16章についてはストック・オプションに関する最低限の説明、また、17章については私のレポートを読んでもらえれば、為替と株について問題なく理解できるとおもいます。

逆に、私のレポートで圧倒的に欠けているところは、第13から第15章のオプション公式の導出への流れです。ただ、これは以前も説明したとおり、この部分を説明した書籍があまりに膨大にあるため、差別化がしようがないという判断をしており、意図して書いていません。

一言記載しておくと、この部分についてはある程度、厳密に知りたいと思うと、確率論から勉強しなければならないということになります。もちろん、オプションの理論で論文を書きたい学生や、あるいはそもそも理論物理や数学専門の学生である場合(金融機関にクオンツで入りうる典型的な学生)であれば別ですが、そうでない場合は、個人的にはあまりこの辺りに深入りせず、まずはデリバティブやオプションの全体像についてバランスよく勉強したほうがいいと思います。

テキストについては書店に行き、いくつかみて読みやすそうなものを選べばいいとおもいます。私は学生時代は、バクスター・レニーの「デリバティブ価格理論入門」という本が好きでした。その他でいえば、例えば、「実務家のためのオプション取引入門」という本を読むと、むしろハルよりも数式での説明を抑えて、直感的にブラック・ショールズのオプション公式を説明しようとしています。これらは一例ですが、いくらでも類似本があるので、書店にいって、自分が読みやすそうなものを手に取るのがいいと思います。ちなみに、バクスター・レニーの序盤に、「ブックメーカーのたとえ話」という部分があり、大学時代の友達とこの部分が好きだという話で昔盛り上がったのを覚えていて、これについてはどこかで記載しようとおもいます。

私の記憶が正しければ、私が入社時、クオンツのグループの新人は、ハルのテキストをざっと読んだ後、シュリーブの「ファイナンスのための確率解析」という本を輪読していた記憶があります。私の同期のクオンツは全員理系の修士以上で、かつ、大学時代にファイナンスをまったく勉強していない人ばかりだったので、こういう形になったのだとおもいます(もう20年近く前なので記憶があいまいな部分もあるのですが)。今では証券会社でこういうことをやっている金融機関は少ない印象ですが(少なくとも野村では私が知る限り、今はこんなことはしていない)、金融危機前の証券会社は資金的に余裕があり、研修みたいなものの時間や資金を割く余裕があった気がします。

また、お勧めしたいのは、youtubeで勉強するということですね。大学生なら講義を受けるというのも手ですが、Black Scholesなどと打ち込むと、その説明やレクチャーが出てきます。そのため、それをざっと見れば、ハルの第13から第15章の内容であればおおよそイメージができるとおもいます。

したがって、私のJPXのオプションのレポートを読んでもらい、本屋にいって自分に合ったテキストを探し、BSのオプションの公式をざっと理解してもらえれば、10章から18章まで(300ページくらい)、知識の確認という感じで、あっさりと読めるとおもいます。

今日、ハルの章立てをざっと読みていて感じたことは、ハルの書籍だと、仕組債やストラクチャリング・ビジネスについては薄いな、と思いました。私がデリバティブの本を書くなら、この部分を厚めに書くと思います。

というのも、私の経験では、金融商品について触れるとき、オプションそのものをトレーディングするというよりは、金融商品にどのようなオプションが内包されているかを理解することが重要であると感じるからです。金融商品を買うことの怖さは、僕らが知らぬうちにオプションを売らされるポジションを取らされるなど、知らぬうちにオプションのポジションを有する点です。仕組債はしばしばトラブルになりますが、その背景には、このような側面があるとおもいます。したがって、読者にこの部分の仕組みを伝えることは、デリバティブ教育という観点では重要だと感じました。

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