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てんかんの理解と対応【まとめ版】

てんかんの理解と対応

”てんかん”と聞くと、けいれんが起きる怖い病気、というイメージを抱くことが一般的ではないでしょうか。
今日は、教育・保育現場、療育などの福祉現場で対応をお願いされることの多い、てんかんについて、その理解を深めながら、適切な対応について考えていきたいと思います。


てんかんとは

てんかんとは、特発性(これといった原因のない、遺伝的要素でもないと考えられるもの)、または症候性(脳の損傷、例えば脳卒中や認知症など明らかに脳に器質的損傷をきたす原因があって、それによりてんかんが引き起こされているもの)のてんかんがあります。

発症は乳児期や幼児期に多く、多くは就学前に発症します。
10代から60代の発症は多くはなく、高齢になればなるほど、症候性てんかんの原因となる脳卒中や認知症を発症するリスクが高くなり、それに付随する形でてんかんの発症も増えていきます。

てんかんの症状

てんかんの症状、発作は、イメージの根強い”けいれん”発作だけではありません。けいれんを伴わない、部分発作というものが存在します。また、けいれんが起きる発作は全般発作と呼ばれ、発生機序の異なる発作です。

部分発作

部分発作には、単純部分発作複雑部分発作があります。

単純部分発作は、運動発作、感覚発作、自律神経発作、精神発作の4類型があります。単純部分発作では意識消失を起こすことはありませんので、その一部始終を本人も覚えています。

運動発作は、眼球や頬、口回りなど顔面や頭部の一部分の筋が、不随意(自分の意思とは関係なく)に動く発作です。

感覚発作は、視覚などの5感の認知に異常をきたす状態です。
具体的には、目の前にチカチカした光が見える、そこにないはずの物の音や声が聞こえる、何も食べていないのに変な味がする、などです。

自律神経発作は、自律神経系の異常によって引き起こされる症状を感じる状態です。たとえば、めまい、胃や腸などの消化器の不快感などがあります。

精神発作は、言葉のでなくなる言語障害、記憶障害、興奮したり泣いてしまうような情動発作などが見られます。

複雑部分発作は、意識がなくなる発作です。ボーっとして動きを止め、呼びかけにも反応しなくなります。数十秒から数分間持続します。

ひとそれぞれ症状はちがう

このように見ていくと、てんかんでは実にさまざまな症状がみられることがわかると思います。

しかしすべての症状を念頭に置いて、てんかんを有する対象者に対応する必要はあまりありません。

それは、発作の原因となる発作点がひとそれぞれ違うからです。

たとえば運動発作がよく起きるという症例では、脳の運動をつかさどる部分に発作点と呼ばれるものが存在します。

そこに過剰な電気的興奮が出現し、神経細胞に誤作動を起こすことでてんかんの症状は発生します。

なので、運動発作が主体のてんかんのお子さんが、
「おなかが変な感じがする・・・」と言ってきても、もしかすると自律神経発作では、、、と過度に心配する必要はありません。ほかの原因を考えましょう。

ただし高齢者では、脳の器質的損傷(脳卒中や認知症など)が進行していく場合があり、その過程で多様な症状が発展的に出現していくことは想定されます。

全般発作

脳全体が激しく興奮して起こる、意識消失を伴うてんかん発作です。欠神発作、ミオクロニー発作などがありますが、ここではいわゆる代表的なてんかんとしてイメージされる、強直間代発作について、ご説明します。

強直間代発作
強直相(手足をピーンとつっぱるようなけいれん)から始まります。およそ30秒程度で間代相(全身の筋肉がびくびく、がくがくと関節が曲がったり筋肉が緩んだりを繰り返す)に移行します。およそ30秒から90秒、全体として2分以内程度で次第に収まっていきます。

けいれんのはじめ、奇声をあげたり叫んだりして始まることがあります。
発作中は口から泡を吹いたり、よだれが出たり、下からは排せつ物が漏れ出ることもあります。

顔面蒼白、発汗、唇が青くなるチアノーゼなどの症状もみられるため、顔つきが変わって見え、けいれんのショックと相まって見ている側は強いトラウマを感じる場合もあります。

発作後は自然睡眠に移行する場合が多く、30分から1時間程度で回復します。

脳の過剰な電気興奮によって引き起こされるので、脳が極限まで疲れ切ってしまいますので、経過としては納得できる症状です。無理に起こさないようにしてあげることが大事です。

このまま起きないんじゃないか、脳に障害が残るんじゃないかと不安になりますが、2分程度の短い発作であれば、基本的には後遺症などは残りません。

冷静に、受診の段取りをつけるなど、次に取るべき行動に移りましょう。

二次性全般化発作

部分発作は脳の一部の過剰興奮による発作、全般発作は脳全体の過剰興奮による意識消失と一部けいれんを伴う発作で、その発生機序が異なるため分けて考えられます。

部分発作が主体であれば、部分発作に基本的には気を付けていればいいわけで、過度に心配をして放課後デイなどで受け入れを断ったりすることはもってのほかですし、特別に扱ったりすることは必要ありません。

ただ、知識として片隅に置いておきたいのは、二次性全般化発作とよばれる、部分発作をきっかけに全般発作に移行する場合がまれにあります。

このことからも、日ごろからけいれん時の対応方法等については、事前に周知と訓練、発生時の対応フローなどを作成しておくことをお勧めします。

また、普段の部分発作よりも時間が長い、頻度が多い、何か変だと感じることも重要です。

日ごろから、些細な発作であっても、種類と発作の時間などを記録しておくことをお勧めします。

てんかん発作のきっかけとなる要因

てんかん発作のきっかけとなるのは、以下のようなものがあります。

読書てんかん、などという珍しいものもあります。

これらも基本的には、それぞれの対象者の方に応じたきっかけとなる要因が異なりますので、計算やパズル、読書、ゲームをさせてはいけない、、、と過度に心配をする必要はありません。

なにで発作が誘発されやすいか、ということはそれぞれの対象者さんに伺っておくことが重要です。

けいれん発作時の観察のポイント

けいれん発作が起きると、誰でも驚いて、的確な判断や行動ができなくなると思います。

私自身も、息子がけいれん発作を起こしたとき、ふがいないことにかなり取り乱してしまいました。

専門学校でけいれん発作のことについては勉強していたとは言え、初めての発作に立ち会った時には生きた心地がしませんでした。

あせらない

本当に、この一言に尽きます。
焦ってはいけません。何もできなくなります。

まずは落ち着いて、何が必要かを考えます。
何度かけいれん発作を起こしているお子さんの場合は、座薬をもらっていることと思います。

まずは座薬を準備しましょう。ご家族がいる場合はその方に頼みましょう。

そして自分は、子供の周りの安全確保を行いながら、いつから発作が始まったのか、記録を取っておきましょう。

けいれんしながら机の脚や壁などに頭など大事なところをぶつけないように、家具を移動したりクッションを活用したりしましょう。

記録は、スマホのメモ機能を使うといいと思います。
スマホも時計も近くにない!という場合にあ、口で「1.2.3.4.…」と数えてもいいです。とにかく、時間経過がどれくらい経ったか、というのが今後とても大事になってきます。

発作が2分程度でおさまれば。。。

だいたいの発作は2分程度でおさまります。
それ以上続けて発作が起こるようでしたら、5分以上の発作に移行することが多いです。急いで、座薬の挿肛、救急車の要請を行います。行った後すぐにけいれんがおさまったとしても、またすぐに次の発作がやってくる可能性もあります。

座薬の挿肛や、救急の要請が無駄になったり迷惑になったりすることは一切ありません。

迷わず座薬、迷わず救急車を呼びましょう。

早い段階での座薬使用と救急要請の意義

救急車を呼ぶ、というのはどこか大げさで、ためらってしまうという方もいるかもしれません。

それもそのはず、けいれん発作の多くは2分程度でおさまり、そのあとは何事もなかったかのように眠ってしまったり、後遺症も残らない、ということがほとんどだからです。

病院でも、5分以内の発作なら、小発作だから様子を見て、次回の受診時に伝えてくれたら・・・と言われることもあります。

けいれん重積発作

多くのけいれんは2-3分で終息する場合が多いのは事実です。
しかし、まれに15分を超えるような大発作、けいれん重積発作というものに移行する場合があります。

通常、5分以上けいれんが続くと、基本的に自然にけいれんがおさまることは難しく、重積発作に移行する場合が多いとされます。

そして重積発作の最も怖いところは、30分を超えると脳に後遺症が残る、命の危険があるなど、通常のけいれん発作とは似て非なるものになるという点です。

けいれん発作が起きて、座薬の準備をしていると、それこそ1-2分はかかります。
保育施設などでは、保護者の方に連絡を取って、座薬使用に関する許可を口頭で得る必要があるというところも多いと思います。

そうこうしていると、おそらく早くても3分は経過するはずです。
この時点でけいれんがおさまっていないとなると、いよいよ5分を超える大発作の危険性が見えてきます。

座薬挿肛をためらわない

一刻も早く、座薬を挿入します。
座薬は手袋をつけて、とがっているほうを少し水でぬらすとスルリと入りやすくなります。けいれんによって座薬が押し出されやすいので、しばらくは肛門部分を押さえておきましょう。
実は、この時に挿肛する「ダイアップ座薬」というものは、けいれん発作を予防するためのお薬です。お薬を使用して効果が表れるまでには15分ほどかかりますし、必ずけいれんを止めることができる、というお薬ではありません。しないよりはマシだし、もし2回目3回目のけいれんが起きた際に、予防効果が高まる、という程度の物です。

もし本当に、このけいれんが30分を超える大発作である場合は、一刻も早く病院に連れていき、注射などの処置をしてもらう必要があります。

救急要請もためらわない

救急車を呼んでから、自宅に到着するまで、7分~8分かかるといわれています。
田舎ではもっとかかるでしょう。
実際に、わたしの息子が自宅でけいれん発作をした際に、救急隊が到着したのは、要請から15分後のことでした。
それでもまだ、息子はびくびくとけいれんしていました。

そしてすぐには出発できません。
経過を離していたり、搬送先を決めたりするのに、10分くらいは走り出さなかったと思います。
この時点で30分手前ギリギリ。ようやく息子のけいれん発作はおさまりましたが、もちろん意識はなく、ぐったりしている状態。

そこから病院まで、15分程度。
もし、けいれんが止まっていなかったら、、、ゆうに30分は超えていたと思います。

この経験から、もしけいれん発作が起こった時には、すぐ救急要請。
救急車が到着した時にはたとえけいれんしていてもすぐ搬入してもらって、搬送先は○○病院、すぐ出発をお願いしよう、、、

と家族で話し合いを持つこともできました。

このことからも、小児施設や教育機関で働く方には、座薬の使用や救急要請はためらっていただきたくないですし、座薬を預ける、緊急時に使用してもらう、ということについてもできるだけ前向きに検討していただけるとありがたいなと思います。

けいれんを経験した保護者は、脳裏に、かわいいわが子が表情を変えてびくびくとけいれんし、よだれをたらし、苦しそうにしている様子や、その後意識がしばらく戻らず、「もうこの子はこのまま起きないんじゃないか」とか「起きても障害が残るんじゃないか」というような恐怖心が焼き付いています。

そのことを少しでもご理解いただいて、有事には素早い対応をお願いしたい、と一人の親として切に願います。

成長の伴う症状の緩解と予防薬の相対的減薬

てんかん発作は火山の噴火

てんかん発作はよく火山の噴火にたとえられます。

身体の小さな赤ちゃんの時代には、脳も未熟で、簡単に発作、噴火を起こしてしまいます。

自分の力で止めることはできませんので、主に治療としては抗てんかん薬という予防薬を飲むことになります。

テグレトール、イーケプラ、フィコンパなど、様々な種類があります。

それらの薬が、火山の噴火口に蓋をしてくれるようなイメージです。

薬は、体重が増えていくにつれて、同じように増やしていきます。
こうすることで、体の中の薬の血中濃度を下げないようにコントロールして、身体の大きさに合わせて蓋も大きくしていきます。

ある程度身体も成長し、症状も落ち着いて、コントロールできているなとなれば、先生によってはお薬の増加をストップさせることがあります。

身体が大きくなってくることによって脳も成熟し、自分自身でてんかん発作を抑える力がついてくることで、てんかんが緩解していくお子さんが少なからずいます。

相対的減薬

そのため、体重は増えるけれど、薬は増やさない、という相対的減薬というものを試します。実際には薬の量は変わっていないけれども、体の中の血中濃度としては減っていく、という状態です。

これでしばらく様子をみて、発作が起こらないようなら、さらに減薬を検討していきます。

このような時期は、てんかん発作を起こすリスクも高まりますので、保護者の方はもちろん、保育の先生、学校の先生にも情報を共有して観察を強化してもらうことが重要です。

予防的に、お薬を飲み続けたらいいのでは?
と思われる方もいるかもしれませんが、お薬というのは諸刃の剣。
いいこともあれば副作用もあります。

とくに抗てんかん薬は、長期服用によって薬剤性パーキンソニズム、と言われるパーキンソン症候群に似た症状が出ることがあります。
手の震え、動かない、精神疾患の引き金などです。

辞められるのであれば、積極的にやめることを検討していく必要はあると思います。


今日はてんかんというテーマについてお話をしてきました。

このコラムが、日々、育児に奮闘していらっしゃる保護者の皆様、学校教育の現場で指導に当たってくださっている皆様、または療育の現場で支援をしてくださっている皆様の日常の一助になれば幸いです。

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