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他者理解の進め方 ステップ3

これまで、他者理解の進め方について、まずステップ1ではどのように自分を知るか、そしてステップ2では他者を認知し、自分と他者とはどうやら違う存在らしいということを知る、という物でした。

今回はそこからさらに進んで、他者の見えている世界を想像する力について、考えていきたいと思います。


他者の視点取得

他者はどうやら、自分とは違うらしい、という理解がさらに進むには、他者が見ているものは自分とは違う、ということを理解しなければいけません。

ものの見え方は、自分が見ているものと、他者が見ているものは違う風に見えている、という物の見え方を「くるん」と回転させて、相手にどう見えるかを想像するような課題が、他者の視点取得を育てていくには適しています。

心的回転課題

このような課題を、心的回転課題「メンタルローテーション課題」と言います。

たとえば、コグトレプリントでは、スタンプ、鏡写しなどがその前段階の、頭の中でイメージを操作する課題になります。

コグトレ広場HPより

この課題ができてくると、本格的な心的回転課題に挑戦していきます。

下のプリントのように、自分には「平」という形に見える立体の物があるとして、それを上下左右からさまざまな動物が見ていて、それぞれの動物から見える「平」という物体の形はどのように見えるか、という課題です。

みんなの教育技術HPより

三つの山問題

これは、三つの山問題としても有名です。

三つの山問題

子どもが見ている位置とは違う位置に人形を置き、その人形からは山がどのように見えるか、という課題です。
幼児では、自分が見えているように答えますが、他者視点が育ってくると、人形の見える風景を想像しながら答えることができるようになってきます。

この時、実際に山の裏側に回ってみることで、風景が変化するというような経験を積むことでも、視点が立つ場所によって入れ替わるのだということを実体験できます。

それを繰り返していくことで、心の中で空間を操作することができるようになってきて、プリントなどの2Dの世界でも、心的回転操作ができるように進めていきます。

模倣運動やダンスも有効

実際に身体を使って、心的回転をさせるのも有効です。

たとえば、前に立つ先生と子供が向かい合っているとして、先生が
「右手をあげて」といって自分の右手をあげます。

そうすると子供たちからは、左側が上がっているように見えます。
ここで他者視点の取得が完成している子は特段何も考えずとも自分の右手をあげることができますが、他者視点の取得が進んでないお子さんは、見たままに左手をあげてしまいます。

または、「先生、それは左手だよ」という子供もいるかもしれません。
そのように疑問を子どもが持った時に、指導のチャンスです。

「○○くん、では右手をあげたまま先生の後ろに立ってごらん。」
と伝え、先生の後ろ側に来るように回転しながら移動してきてもらいます。この時、先生も右手をあげ続けます。

そうすると、後ろに来た時には子どもが「あれ、いっしょになったよ!」というと思います。

もう一度戻ってもらうと、また左右が違う状態になります。

このように、自分からは左手のように見えても、相手の視点に立つとそれが右手である、ということを実体験として理解させながら、模倣運動やダンスを進めていくのもいいでしょう。

キツネ・ハト課題

認知症の検査でも使われたりしますが、このキツネ・ハト課題も他者視点が育っているかを確かめるには有効な手段です。

キツネ・ハト課題

図にあるポーズを検査者がとり、それを模倣させる検査です。
まずは上段のキツネができるかどうかを見ます。これは純粋に模倣能力があるか、視空間認知能力があるか手指の巧緻性はどうかというものを見ています。

下段のハト課題では、掌が自分の方に向くようにして、ハトが作れるかどうかを見ます。

https://toyokeizai.net/articles/-/705224?page=3  東洋経済オンラインより

上の画像の、よくある失敗例にあるように、掌をこちらに向けてハトをつくった場合、他者視点の取得が進んでいないことを示しています。

どういうことかというと、先生の作ったハトを見た子供は、先生の手の甲を見ることになります。
それを真似しようとして、自分も手の甲が見えるようにハトをつくると、先生側には掌が見えてしまいます。

簡単にできる課題なので、あそびの中などで確かめながら、他者視点を取得するための、心的回転が十分に行えているかを考えながら、支援を深めていくことが重要だと思います。

あそびの中で育てる他者視点

子どものころから、手遊びなどはよくやると思います。
たとえば、右手はグーで、左手はチョキで、などの手遊びはまさに心的回転課題を取り入れた遊びだと思います。

また、お面をつくって自分の顔に着けて遊ぶというのも、自分がお面の顔を見えるようにつけてしまうと相手には見えない、ということを学ぶのに有効です。

公園あそびでは、かくれんぼ、かくれおに、缶けりなどが有効です。
鬼の視点をイメージして、ここなら隠れても見つからないだろうというところを想像したり、今鬼はあそこにいて自分は見えていないはず、、、と思いながら移動をしたㇼ、缶をけりに行ったりする、というのもかなりのトレーニングになります。

最近ではそのようなあそびをしている子供も少なくなりました。
遊ぶ場所が限られている、というのもありますが、そもそもこのような他者の視点が十分に育たず、ゲームとしての難易度が上がっている、ということも背景にはあるようです。


今日はここまでにしたいと思います。
次回以降、共感、そして誤信念の理解について取り上げていきたいと思います。
ぜひ、お楽しみに!

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