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大阪ダービー回顧録<後編> 桜は咲き乱れ、太陽もまた昇る


大阪なんか大嫌いだ!!


こんな言葉から書き始めた大阪ダービーの回顧録後編である。後編になってようやく試合が始まる。

前編 
①無料部分 梅田地下迷宮からのヤンマースタジアム周辺
②有料部分 ヤンマースタジアム内の描写

後編
③無料部分 大阪ダービーの試合描写
④有料部分 驚くべきヤンマースタジアムの観客席の生態と再び地下迷宮へ

①と③の無料部分だけをつなぎ合わせて読んで頂いても話の大枠はわかるようになっている。が、この記事の神髄は有料部分に現れている。特に①と④を対で読んで頂きたいと著者としては強く思っている。

というわけで……。

時を戻そう……。


時空転移


……。

……。


……。




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……。


スタジアムグルメのエリアを堪能し、コンコースへと戻ると、ピンクの人だかりが出来ていた。何をしているのだろうか。奥の方の少し高くなっているところに、拡声器を持った若い男性が立っていた。

彼はコールリーダーだろうか。周囲をサポーターが囲んでいる。人数はおおよそ50~100名ほどで、若い女性は少なく、年配の男性が多い印象であった。

「今日はね、大阪ダービーですね。うーん、えーっと、あっちは、ガンバだけが大阪のチームだなんて言ってますが……」

コールリーダーと思しき男性が何か話しているのだが、非常に頼りない口調でボソボソと話していた。なんとも締まりのない挨拶だと、正直言って思った。こんなぼんやりしてて大丈夫なのだろうか。もう少し大きな声を出さないと……。余計な心配をしてしまう。


しかし、頼りなさげなコールリーダーの口から宿敵ガンバ大阪の名前が出た瞬間であった——。



周囲を取り囲んでいたサポーターが声を揃えてぶ。



しらねーな!!

しらねーな!!


しらねーな!!


しらねーな!!




突如、ビリビリと空気が震え、雰囲気が一変した。この空気感が味わえるのはJリーグのスタジアムだけだ。これは、あくまでもサポーターたちの戦争ごっこである。しかし、それは紛れもなく本物の戦いなのである。

静寂が訪れ、周囲の大人達はコールリーダーが口を開くのを待っている。


「まぁ、なんというか、ガンバの方は、例の件でびびって今日は大人しいみたいですね。」

ここで、軽い笑いが起きた。恐らく、人種差別的なメッセージと取れる横断幕を出した浦和レッズのサポーターが処罰された事件のことであろう。


「でもまぁ、度が過ぎたことはせずに、みんなで熱く応援していければと思います!今日はほんまやりましょう!」


オ オ サカ!! オ オ サカ!!
 
オ オ サカ!! オ オ サカ!!



太鼓が力強く叩かれる。Deep Purpleのスモークオンザウォーターのメロディに乗せて、セレッソサポーターは歌い始めた。

この試合を通じて何度も聴くことになったチャントであった。

オッオッオー オッオッオオー
つ ぶ せ ガンバ!!

オッオッオー オッオッオオー
つ ぶ せ ガンバ!!


低く重い歌声に空気が激しく震える。

鼓膜が激しく振動している。

同時に、心も震えて始めた。

狭いコンコースでは、滅多矢鱈に声が反響するためとんでもない音圧になっていた。隣で見物していた人が「すげー!!熱気を感じるね!!」と言っているのが聞こえた。

コンコースに響き渡った「つぶせガンバ!」の歌声は、うららかな春の陽気に戦いの彩りを加えていった。

大阪を二分する大一番が始まろうとしている——。

さて、コンコースでの会合が一段落したようなので、座席に戻った。ぼくの席は、バックスタンドのホーム寄りの位置にあった。

すぐ後ろは通路になっていたのだが、席が見つけられなかった子供が5,6人立ち見をしていた。並んで座れる席がなかったのだろう。

子供の一人が「ヤバイ、フォルラン!キック、めっちゃきれとるで!」とカン高い声で驚いていた。どうやら自分でもサッカーをしている少年のようで観察が細かい。

確かに、偉大なるディエゴ・フォルランは練習時から異彩を放っていた。崩れた体勢から軽く蹴り抜いたボールが、凄まじい勢いでゴールに吸い込まれていくのが見えた。先入観もあるかもしれないが、やはり別格の選手のように見える。

ところで、ガンバのゴール裏から「倉田のニヤニヤが止まらない」という横断幕が出ていたのだが、あれは何だったのだろうか。無性に気になったので後にガンバサポーターに聞いたところ、倉田という選手はよくニヤニヤしているのだそうだ。それ以上の詳しい事情は現在も判明していない。

スタジアムにはサポーターの愛情も満ちているが、悪ふざけもたくさんある。みんな全身全霊でJリーグというコンテンツを楽しもうとしているのだ。

大阪は異境の地だけど、そこにはサッカーがあって、サッカーを通じれば深く共感することが出来る。大阪も悪いところじゃないかもしれないな。

と、その試合が始まるまでは思っていた。

セレッソ側には「This is our city」という横断幕も見つけることが出来た。大阪は自分たちの街だというダービーを意識したものであろう。

キックオフの時間が近づくと、ガンバ大阪サイドのゴール裏には昇る太陽を模したコレオグラフィー(人文字)が掲げられた。言うまでもなく色合いは青黒である。そして、中央に掲げられた横断幕には「陽はまた昇る」と記されている。これは、J2に降格していたことを踏まえての表現であろう。

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一方、セレッソ側では、ピンクのタオルマフラーを掲げて試合前のセレモニー的な曲が歌われた。Power and the Gloryという曲らしい。

Wow Wow Wow CEREZO We Belong To You, CEREZO
Wow Wow Wow CEREZO We Give You Joy, CEREZO
あきらめたりしない 恐れない
誉れ高く 勝利こそあれ

しっとりとした優しい雰囲気の歌だ。戦の名乗りとしては、少し上品過ぎるのではないかと、「この時は」思った。

そして、ピンクに染まったセレッソ側からもビッグフラッグが掲げられた。しかし、旗が大きすぎるのか、それとも何かトラブルがあったのか、うまくビッグフラッグが開かなかった。

それをみて、前に座っていた中年の女性が「あかん、もっと広げんと、下手クソやわー」と呟いた。いや、呟いたというより、大声で突っ込みを入れたというべきか。ここは大阪だ。ボケに対しては突っ込むのがマナーなのだろう。


というわけで……。


2014年J1第節

セレッソ大阪 vs ガンバ大阪

Kick Off!!


セレッソ大阪
GK 21 キム ジンヒョン
DF 14 丸橋 祐介
DF 17 酒本 憲幸
DF 23 山下 達也
DF 30 ゴイコ カチャル
MF 5 長谷川 アーリアジャスール
MF 6 山口 蛍
MF 13 南野 拓実
MF 20 杉本 健勇
FW 8 柿谷 曜一朗
FW 10 フォルラン

Bench
GK 1 武田 博行
DF 3 染谷 悠太
DF 7 新井場 徹
MF 2 扇原 貴宏
MF 11 楠神 順平
MF 18 ミッチ ニコルス
FW 9 永井 龍

監督 ランコ・ポポヴィッチ
ガンバ大阪

GK 1 東口 順昭
DF 21 加地 亮
DF 8 岩下 敬輔
DF 5 丹羽 大輝
DF 4 藤春 廣輝
MF 27 内田 達也
MF 15 今野 泰幸
MF 13 阿部 浩之
MF 19 大森 晃太郎
FW 9 リンス
FW 7 遠藤 保仁

控え
GK 16 河田 晃兵
DF 3 西野 貴治
DF 22 オ ジェソク
MF 10 二川 孝広
MF 11 倉田 秋
MF 17 明神 智和
FW 20 佐藤 晃大

監督 長谷川健太


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栄華の絶頂にいたセレッソと絶不調のガンバ、明暗分かれる両チームの状況を象徴するような幕開けとなった。

開始早々、セレッソのエース柿谷曜一郎が中盤でボールを受けると、猛然とドリブルで駆け上がっていく。

そして、ディフェンスを振り切って思い切りシュートを撃ち込んだ。シュートこそ外れたものの自信がみなぎっているのが感じられる。

そして、セレッソのCKとなり、MF南野拓実キッカーとなった。

ゴール前に供給したボールが誰にどう当たったのかはわからなかったが、最後にはペナルティエリア外へとコロコロとこぼれていった。

そのボールをMF山口蛍が拾って、強烈なミドルシュートを蹴り飛ばした。しかし、このシュートをGKの東口順昭が驚くべき俊敏性を発揮して弾き返す。試合の熱気に煽られて、ぼくは思わず拳を握っていた。なんと面白い試合なのだ!

セレッソが圧倒する展開が続くのかなと思ったのも束の間、ガンバも黙ってやられてはいない。今日はダービーなのである。セレッソゴールへと一気に攻め上がるとMF阿部浩之がミドルシュートを撃ち返した。

ガンバ フォルツァ アレ
いったれ!! いったれ!!

ガンバのチャントには、時々大阪らしい言葉が出てくるのが面白い。「いったれ!いったれ!」なんて、いかにも大阪である。応援の圧力、より正確に言うとゴール裏から発せられる音量については、ガンバのほうがずっと大きかった。

ぼくがいる位置はガンバのゴール裏からはだいぶ離れていたにも関わらず、これだけの迫力が感じられるのは流石としか言いようがない。

一方で、セレッソのゴール裏は人数の割には元気がないと感じた。とはいえ、バードウォッチング用の高性能双眼鏡で覗いていると、いかにも「セレ女」というようなギャル風の女性の中にも、跳ね回って応援している人が見られた。新規のファンが一気に増えたため、どうやって応援したらいいのかわからない人も多いのかもしれない。

セレ女ブームとは言うけど、ほとんどの人はすぐにいなくなっていく。そんなことを言う人もいたのだが、残っていく人も必ずいるはずだ。これまでサッカーを観ていなかった人を巻き込めるブームは悪いことではない。

今のJリーグの最古参サポーターは、Jリーグブームによってサッカーを見始めた人がほとんどなのだから。まさお、カレーよ。アルシンドになっちゃうよー。

さて、セレッソがボールを支配する展開が続いたが、ガンバはしっかりゴール前を固めて、容易にはシュートまでさせない。しかし、その時であった。

山口蛍が柿谷に縦パスを出し、同時に加速してペナルティエリア内にいる柿谷のほうへと走って行った。その山口蛍へ向かって針の穴を通すようなリターンパスが通る。流れるような美しいコンビネーションプレーであった。

ペナルティエリア内で後ろ向きにボールを受けた山口蛍は、軽くボールに触って横に流した。

そこに待ち構えていたのが世界のディエゴ・フォルランであった。

苦しい姿勢になりつつもGKのいないところを選んでシュートをねじ込んだ。玄人好みの巧みなシュート、美しいゴールであった。爆発的な歓声がうなり上がり、セレッソゴール裏が熱狂の渦に巻き込まれていくのが見える。

ディエゴ!ディエゴ!ディエゴフォルラン!

フォルランは、山口蛍や酒本と肩を組んで喜んでいた。それを見て、なんだか幸せな気持ちになった。フォルランにとっては、ダービーの緊張感はあまり関係ないのかもしれない。

調べてみるとマンチェスターダービー(シティvsユナイテッド)、マドリーダービー(アトレティコvsレアル)、ミラノダービー(インテルvsA.C.ミラン)などの激戦を経験してきた選手なのである。


隣のおじいさんが「ガンバが静かになったなぁ」と呟いた。

奥様らしき女性が「もっと黙らせなあかんねん」と力強く答えている。


ここは大阪。ぼくが見ているのは大阪ダービーなのだ!東京の観客席とはひと味違う。周りの人が、大声で独り言を言う環境が段々と好きになっていた。東京では、隣り合った人が話し出すことはほとんどない。

そもそも都市というのはそういうもののようで、ブラジルに行ったときも、大都市であるサンパウロやリオデジャネイロでは、あまり話しかけられることはなかった。

逆に、レシフェやクイアバという地方都市に行くと、通りがかった人が次々と話しかけてきた。わざわざ車を降りて、記念写真を撮ろうと行ってきた人もいた。

ただ、大阪はひと味違う。都市じゃなくて田舎なのかというとそういうわけではない。

ここは、大阪なのだ。

そして、今は大阪ダービーなのだ!!


白熱の大阪ダービーは加速していく。

そして、ヤンマースタジアムの観客席も、想像していなかった方向へと加速していった。

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この先が一番読んで欲しい部分なのだが……。まことに恐縮ながら構成上有料コンテンツとさせて頂く。せっかく書いたものなので、無料で読んで欲しいという気持ちもあるのだが、無料でハイレベルな記事を書き続けるのはなかなか難しい。

続けて行くには多少なりとも収入になるような枠組みの中で仕事として取り組んでいくことが必要だ。もちろん、好きだからお金などいらないという人もいることだろう。しかし、ぼくは有料メディアを運営して、プロとして記事を出していく道を模索した。

ただ、OWL magazineは、薄謝なれども原稿料を著者に支払っているが、代表であるぼくの原稿料は……(嗚咽をしているような音がコンコースに響き割っている)。というわけで、OWLをもう少し大きくしなければ……。というわけで……。

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この後は大阪ダービーの描写と、観客席レポート。観客席については、東京陣にとってはこれ以上ないほど特殊な出来事が起こっているのだが、大阪の人に言わせれば当たり前なのかもしれない。

そして、ちょんまげ隊の花見からの再び梅田地下迷宮へ——。そこで感じたことが、この大阪への旅で一番伝えたいことであり、この先の物書きとしての人生に最も影響を与えている閃きであった。

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