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満開の未来を祈り、遺灰を撒く 〜櫻坂の4年目〜

櫻坂デビュー3周年に寄せて、3rdアニラから新参者最終公演まで、グループ史に残るであろう激動の1週間を振り返りながら、櫻坂の未来に思いを馳せます。
※この記事は多分にポエムを含みます。香ばしさが苦手な方はご注意ください。


11/25-26 3rd YEAR ANNIVERSARY LIVE

Day1

3rdアニラ1日目。土生瑞穂の旅立ちの日。

土生は幾度となくフォーメーションの真ん中に立ってきたメンバーでした。長身を活かした目を惹くパフォーマンス、中性的な格好良さと女性的な美しさを行き来するビジュアルは、間違いなくTAKAHIRO先生が生み出す櫻坂のコレオグラフィーの軸となっていました。特に4th以降はその傾向が顕著に現れていたと思います。

土生の卒業を強く意識させる「思ったよりも寂しくない」、「隙間風よ」〜「桜月」
始まりの曲「Nobody's Falut」
三期生と演出チームによる渾身の「静寂の暴力」
オリジナルメンバーに最も近い形でパフォーマンスする最後の「Start over!」「承認欲求」
土生との別れを想い、3年目の歩みを振り返るようなセットリストでした。

卒業セレモニーでは
小林由依との「302号室」
齋藤冬優花との「少女には戻れない」
上村莉菜との「僕たちの戦争」
欅坂としての過去を振り返るユニットメドレーも披露されました。

そしてサプライズで土生からメンバーにメッセージを送る場面も。
土生の旅立ちの日であると同時に、土生が櫻坂を4年目へと送り出すような卒業セレモニーでした。

Day2

そして3rdアニラ2日目。櫻坂は未来を描きます。
Start over!を除いて、土生のポジションを様々なメンバーが担当。

遠藤光莉がサプライズ復帰した「Buddies」
不確かな4年目の未来と、それでも進む意思を歌うような「Dead end」
理性・野生チームでステージをわかれ、BACKSメンバーの持つパワーも示した「摩擦係数」
7thBACKSメンバーによる「条件反射で泣けて来る」
土生との別れ、大きな喪失を描くような1日目の「桜月」から一転、喪失から立ち上がる強さを描くような2日目の「五月雨よ」
正真正銘メンバー全員での「BAN」
三期生の決意を示す「マモリビト」
そして未来を見据えた「Start over!」「承認欲求」

ここに残るメンバー全員で歌う「僕のジレンマ」と「思ったよりも寂しくない」
大団円の「櫻坂の詩」

ユニット曲なし、7thBACKSによる条件反射カバー、桜月/Cool、静寂の暴力/マモリビトといった今年リリースした楽曲さえ、ストーリーの構築を優先し日替わりで披露するなど、3年目の充実感を示す2日間でした。
なんとZOZOマリンスタジアムの最多動員数を更新し、3rd YEAR ANNIVERSARY LIVEは大成功で終了しました。

11/30 小林由依 卒業発表

「小林由依 卒業のお知らせ」

3rdアニラの熱狂冷めやらぬ中。
その日はいつか来ると、きっと遠くないと、皆が覚悟していたけれど、あまりに突然でした。
11/30 22:00、小林由依の卒業が発表されました。

改名時は胸を張ってグループの名を言えないこともありましたが、
今は胸を張って、誇れるグループになれた実感があります。(小林由依)

小林由依 公式ブログ(2023/11/29)

小林は残っている一期生の中で最年少であり、一期生全員を見送って最後に卒業するのだろうと勝手に思い込んでいました。

欅坂後期、幾度となくセンターに立ちグループを救ってきた存在。
「サイレントマジョリティー」と「黒い羊」、そして「誰がその鐘を鳴らすのか?」
欅坂という物語の、始まりと終わりの楽曲でセンターに立った唯一のメンバー。
改名後も、叩き上げの圧倒的なパフォーマンスでセンターを支えてきました。

土生に続いての、小林の卒業。
土生を中心にフォーメーションを構成し、小林をセンターの副砲にすることでパフォーマンスの火力を高めるという、3年目の王道的なアプローチから脱却せざるを得ない出来事です。

また小林は菅井友香と同じように、櫻坂史における欅坂のアイデンティティそのものであり、欅坂の物語を終わらせる宿命を背負ったメンバーです。
そして、その物語を終わらせるタイミングは、二期生の成熟と三期生の成長によりグループが多くの手札を持つ今しかない。

先日配信されたさくみみにて、齋藤は小林の卒業に言及しました。

ゆいぽんの卒業が、グループにとって、致命的ってならないくらい、グループが強く、個人個人も強くなっていて。そういうこともあるんだろうなって。卒業のタイミングじゃないですけど。(齋藤冬優花)

さくみみ #317

3rdアニラを成功させ、グループが勢い付いている今だからこそ、というのはファンのみならず、チームの認識でもあるのでしょう。

国立代々木競技場 第一体育館

小林の卒業コンサートの会場は、国立代々木競技場 第一体育館。
「欅坂46 THE LAST LIVE」が行われた場所。
皆が最前列で、欅坂46の終わりと、櫻坂46の始まりを見届けました。

平日開催とは言え、3rdアニラを成功させた今のグループにはキャパシティが小さすぎる代々木。(個人的にはたまアリのスタジアムモードでやって欲しいくらいです。2日で約60000人。地元だし。)
それでもチームが小林の卒コンを代々木で開催することに拘るのは、無観客の代々木で行われたラストライブの日から、あの地に彷徨う「亡霊」の葬式を執り行うためなのだと思います。

櫻坂の二年目

欅坂46とは、前向きなお別れをします。(菅井友香)

KEYAKIZAKA46 Live Online, but with YOU!

改名発表時の菅井友香のスピーチ。櫻坂として生まれ変わることは、欅坂との前向きな別れをするためでした。しかし当時のグループの力と、コロナ禍という環境では、前向きな別れが出来たとは言えなかったことは確かです。

思えばこのグループは、1年目も2年目も、桜吹雪の舞い散る景色を、花束を抱え旅立っていく背中を、蝕んでくる過去からの声と戦ってきました。

2nd TOUR 2022 "As you know?" 東京ドーム公演初日。
空席の残る2階席。
欅坂46 Overtureに、声出しが規制された中でも歓声が上がる会場。
Overtureが鳴り止み、刹那、メンバーの泣き声が響き渡りました。その後披露された幻の9thシングル「10月のプールに飛び込んだ」には、森田ひかるの姿はありませんでした。真実はまだ誰も知り得ませんが、「欅坂46を、超えろ。」と掲げて始まったグループが、あの日大きな挫折を味わったことは間違いありません。
それでもツアーファイナル、渾身の「不協和音」と「砂塵」で何とか二度目のツアーを乗り越えました。今思えば、砂塵の後に菅井から漏れ出た笑顔が一縷の希望だったと思います。
そして紅白の落選を経て、2周年を祝うファンミーティング「Buddies感謝祭」へ。

一つ一つの振りは全部、実は与えられたものじゃなくて、メンバーが作っていく世界です。そこからどう変わっていくんだろうって作ってくれるのがメンバーで、それを一緒に盛り上げて一緒に形を作ってくれるのがBuddiesの皆さんで。だからこそ、ライブが面白い。だからこそ、僕はずっと見ていたい。一緒に、応援していきましょう。(TAKAHIRO)

櫻坂46 2nd YEAR ANNIVERSARY 〜Buddies感謝祭〜

トークパートでのTAKAHIRO先生の言葉や、念願であったメンバー全員での「Buddies」披露など、グループへの愛情を確かめた暖かな二日間を経て、少しずつファンダムの動きも活発になっていきます。
そして5thシングル「桜月」
長いコロナ禍は終わり、三期生が合流。
櫻坂は3年目にしてようやく、発火点を迎えました。

「Start over!」と「黒い羊」

グループの大きな転換点となった「Start over!」では、「黒い羊」を引用するようなコレオグラフィーが取り入れられました。

欅坂ラストライブ DAY1、黒い羊の分岐ルート。
平手(=僕)が小林を拒絶する正規ルートから一転、小林(=僕)は理佐に手を引かれ、光の中へ消えていきました。向かう先はきっと櫻坂へ繋がるDAY2であり、他者と触れ合う選択をする櫻坂としての未来だったのだと思います。

そしてStart over!。藤吉夏鈴が小林の手を引き走り出します。

緑色の過去から、壁を破って、暗闇の中へ。そこに差し込むのは白い光。

そして藤吉は、小林を強く抱きしめる。
今度は決して、離さないように。

君は僕の過去みたいだな 僕は君の未来になるよ

Start over!

Start over!で最も重要なパートとも言えるこの歌詞は、君=欅坂、僕=櫻坂として描かれているようにも解釈できます。
欅坂として孤独な過去を歩んだ櫻坂が、過去の自分と対峙する「君は僕の過去みたいだな」
そして過去の僕に、他者と触れ合う選択をした現在、続いていく未来を示す「僕は
君の未来になるよ」
改名後初めての、欅坂の「僕」へのメッセージと解釈できる歌詞。

欅坂との接続を強く意識させるStart over!から、プロダクションチームの中では過去ともう一度向き合うための準備が、小林卒業のための準備が始まっていたのだと思います。

「隙間風よ」と「誰がその鐘を鳴らすのか?」

そして満を持しての小林センター曲、「隙間風よ」
既にたくさん考察されていますが、「隙間風よ」のMVには、「KEYAKIZAKA46 Live Online, but with YOU!」にて、改名発表後にパフォーマンスされた「誰がその鐘を鳴らすのか?」を彷彿とさせる演出があります。

誰がその鐘を鳴らすのか? 
隙間風よ

息をする度に 逃げてくものとは
ずっと溜めてた こっそり吸い込んだ希望の空気

どうせなら その穴を 大きく開いて
この胸の わだかまり 風になって出てけ

隙間風よ

風になった「わだかまり」は、あの日の舞台を燃やしていく。
彼女たちの背中には、それでも小さな灯火が燃えている。

続いて、最後のシーンを解釈する上で、櫻坂46展「新せ界」5章のキャプションを振り返ります。

その根(※)からは櫻坂46が生まれる前のさまざまな歴史や記憶が、愛情という名の養分として吸い上げられている。

櫻坂46展「新せ界」— 5章「大樹」
※「五月雨よ」アートワークにて使用された大樹。

小林は灰を撒く。彼女が願うのはきっと、満開の櫻の日。
欅坂としての歴史と記憶が宿った遺灰が、次の春に向けて櫻の大樹を育てていく。

グループは、未来へ進むための火葬を執り行うフェーズへ向かいます。

12/2 櫻坂三期生、新参者最終公演

三期生による「語るなら未来を…」

新参者最終公演ダブルアンコールにて突然披露された、三期生による「語るなら未来を…」

25日に卒業した土生はかつて、「エキセントリック」と「語るなら未来を…」で代理センターを務めました。
欅坂の色彩が強いエキセントリックは難しくとも、櫻坂初期の路線に近い語るなら未来を…は、土生の卒業セレモニーで披露する選択肢があったはずです。
土生がセンターを務めるカタミラは、25日のライブを見た多くのファンが望んでいたものだと思います。私は終演後、やはり最後にもう一度見たかったと思ってしまいました。
しかし、それは土生が最後に残すグループの未来への祈りにもなり得えるが、その瞬間に、もう取り戻せない思い出にもなり得るのです。
三期生がやることに意味があり、土生がやらないことに意味があった。
だからこそ、チームはこの楽曲をグループの未来である三期生に託す選択をしたのではないでしょうか。
この選択は、欅坂時代から一途に示してきた「楽曲のメッセージを届ける」という姿勢でもあり、自らの旅立ちの日さえもグループの4年目への花道として捧げた、土生からの最後のプレゼントだと思うのです。
終演後すぐに、土生が自身のInstagramにて三期生へのメッセージを投稿したことも、グループが示すメッセージを補強しているように感じました。

欅坂から続く櫻坂としてのストーリーを紡ぎ、グループの未来へと繋いでいくために。
きっと土生の想いは、三期生に強く受け継がれていきます。

純粋な櫻の遺伝子

新参者のセットリストは1st TOUR〜1stアニラ期を思い出させるものでした。櫻坂の始まりの追体験であり、通過儀礼のような意味合いがあることは明らかです。

ここで、TOKYO FM「TOKYO SPEAKEASY」にて語られた、TAKAHIRO先生による櫻坂46観を振り返ります。

欅坂の世界は、どんどん行けば行くほど、自分の中に入っていって、社会から離れていって、自分の中の世界を深めていく。多分そういう子たちもいっぱい居て、それだからこそ、私も同じように、その子と一緒に苦しみを感じることで、「同じように感じている人が居る」と寄り添えるのが欅坂で。
櫻坂はそれの逆の、アンチテーゼで。同じような境遇で、同じような環境だけれども、それでも、自分は人と触れ合って一歩前に進んでみるという姿を見せることで「そういう答えもあるんだ」って言う風に感じて(振り付けを)作っていることが多いんだ。同じような人が、だけれども違う方向で、新しく道を切り開いていくのが櫻坂のスタート。(TAKAHIRO)

TOKYO SPEAKEASY (2022/08/25)

欅坂のアンチテーゼとして櫻坂を捉える以上、櫻坂初期を追体験するような新参者において、語るなら未来を…が披露されたことは必然なのかもしれません。
それは決して、孤独に寄り添ってきた過去を否定するものではない。
櫻の根には、欅があるという、グループの歴史との対峙です。

小林の卒業コンサート後、純粋な櫻坂の遺伝子を持つ三期生に欅坂の楽曲が継承されていくのかはわかりません。しかし、三期生が受け継いでいくものは、絶望の中で、それでも、と他者と触れ合い前に進むことを歌ってきた櫻坂としての精神性なのだと思います。

私たちはその物語を咀嚼することで、何一つ問題は解決しないけれど、絶望と向き合う小さな勇気を受け取るのではないでしょうか。

光で満ちた、新しい世界へ

二期生中心史として始まったこのグループで、献身的に後輩を支えてきた一期生の卒業は何度経験しても寂しいけれど、今の櫻坂はワクワクするような未来を想像させてくれます。
人は喪失を乗り越える強さを持っていることを教えてくれます。

プロダクションチームは来るべき小林の卒業を見据えて、着実に、3年目を進んできたのだと思います。

四度目の春を前に、執り行う火葬。
満開の未来を祈り、櫻の大樹の根に遺灰を撒く日。
全ては、まだ見ぬ人と出会うために、まだ見ぬ世界と出会うために。

いつかたどり着く 私たちの場所

「はじめまして」も、「ひさしぶり」も。
ありったけの愛を込めて、きっと、彼女たちは歌い続けます。

元気かい?君に会いたかったよ。

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