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【#シロクマ文芸部4月】④バタービール

1カ月の全お題を使って一つの物語を作るチャレンジをしています。レギュラー部員は月初めにお題を全部教えてもらえるので思いつきました。今日はその4回目。

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春の夢であるならば、どんなに良かったことでしょう。風車の揺れが止まり出てきたのは、男が探し求めていた女でした。風車で異変を起こしていたのも、花吹雪を操って男を攻撃していたのも、この女だとわかり男はショックを受けました。

男はやいばを下ろし叫びました。

「姫!」

男はこの国の王子で女は隣国の姫、結婚式を控え将来は素晴らしい国王と妃になると噂されるだけでなく、お互いを深く愛していました。

この国には結婚式の前に王子が花束を持ってフィアンセを迎えに行く習わしがあり、王子は姫に最高の花束を用意しようと張り切っていたのですが、なかなか姫に相応しい花が見つかりません。家来に国中の花屋をまわらせましたが、王子は気に入らず自分で探すことにしました。

ある日、王子が国のはずれにある谷間で白くはかなげに咲く花をみつけました。清楚な雰囲気が姫にぴったりです。

「この花で花束を作れば姫は喜ぶだろう!」

そう思い手を伸ばすと小さな男の子が前に走り出てきました。

「王子様、この花はやめて」
「こんなにたくさんあるのになぜだ?」
「これは僕達に必要な花なのです」

それを聞いて王子は、他の花を探そうとしましたが、白い花を見ると欲しい気持ちが高まります。その気持ちをなんとかこらえようとしましたが、どうしても我慢できずに男の子を無視して摘んでしまいました。

泣いている男の子をそこに残して王子は姫の元へ急いだのですが。花束を見せた瞬間、姫は「あっ」と小さく叫び消えてしまいました。

それからずっと王子は姫を探していたのです。その姫が今、目の前に。しかも自分を憎々し気に見つめ花吹雪で攻撃をしかけてきます。風車の動きまでおかしくしているのです。

「姫、どうしたのです?」
「近寄るな!」

そう言った姫は手を振り回し、その動きにしたがって花吹雪は王子に襲いかかりました。

愛しい姫が相手では王子は手も足も出せません。意識も段々と薄れ今にも倒れそうです。遠巻きに見守っていた村人も助けたくても怖くて動けずハラハラしていたその時、

「王子!刀を風車に向かって投げるのじゃ!」

と声が聞こえました。風車になら投げられる、そう思った王子は全身の力を込めて刀を風車めがけて投げると見事に当たり回転が変わりました。

「ぎゃー!」

姫が恐ろしい形相で叫びます。

「姫!」

王子は近寄ろうとしますが足が動きません。

「どうしたことだ?」

不思議に思って下を向くと草が足に絡みついていました。

「これは!」

と驚く王子の横にいつの間にか賢者がいました。

「あなたの仕業ですか!」
「ちいと姫様に用があってな」

そう言って賢者は姫に近寄り背中をポンポンと叩きます。すると姫の口からポロリと黒いものが出てきました。

「あら?私はなぜここに?」
「姫!」
「姫はこいつに操られていたのじゃ」

賢者は姫の口から出てきた黒いものをつまみ上げみんなに見せました。じぃっと見つめると黒いものはジタバタと動きわめいています。

「ハナセハナセ~!」
「こいつは谷間にひそむ魔物でワシが谷間に封印していたのだが」

はて、どうして動き出したのかのうと賢者が言うので、王子は自分が谷間で花を摘んだ話をしました。

「それが原因じゃ。白く清らかな花は魔物を封印するためにワシが植えたものなのじゃ」
「僕は、それを知らずに摘んでしまったのですね」
「その男の子は白い花を守るエルフだったのじゃろう」
「僕はなんてことを」
「もう150年も前のことじゃ知らなくても仕方あるまい」

そう言って賢者は姫をじっと見つめました。

「この姫は魔よけの白い花によう似ておる。この国は安泰ということじゃな」

と呟き、

「姫を大切にし国を守りなされ。ワシはこいつを封印し谷で暮らすことにしよう」

その言葉が終わると賢者は姿を消してしまいました。

その後、王子と姫は結婚し国民に愛される王と妃になりました。

谷間近くの村では4月になるとバタービールを毎日、谷間に届けます。今はもう誰もいませんが、バタービールを届ける古い習わしはいまだに続いています。

「どうして誰もいないのに届けるの?」
「この国の決まりだよ」

父親が子どもにそう言うと、どこからかホッホッホという声とバタービールを飲む音が聞こえた気がします。ふと見るとバタービールの入ったジョッキが空になっていました。

「父さん!ジョッキが空だよ!」
「明日もお持ちしなくてはな」

父親は空のジョッキと子どもを抱え、村へと戻っていきました。

(おしまい)

楽しかったです😊

今年は小説でも創作大賞にチャレンジしたいのですが、どの部門がいいか悩んでいます。やはりファンタジーでしょうか?それと漫画原作?モヤモヤとしばらく頭を悩ませることになりそうです。

とりあえず、この作品は「#オールカテゴリ部門」に応募してみましょう。創作大賞は楽しく参加することに意義があるのです。

小牧幸助部長、今週もありがとうございました。

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