1月から高橋源一郎さんの小説指南「小説でもどうぞ」に挑戦し始めました🙌
文章修行のため公募チャレンジをしています。毎月応募できる「小説でもどうぞ」に今年1月からチャレンジしています🙌
こちらは月末締切・翌々月の1日に結果発表となるのでしばらくの間は毎月1日は「落選供養」をお送りすることになります。私、一度手を出すとお題を制覇しないと気が済まない質なんです💦
なのでお時間のある方は落選供養にお付き合いください💦
「落選供養」をするとあまり落ち込まずにいられます。noteの温かい世界が私を癒してくれるのでしょう✨
第30回「小説でもどうぞ(お題:トリック)」で選ばれた素晴らしい作品はこちら👇他の方の作品を読むと「落ちるのも納得」です。やはり公募に挑戦することは失うものはなく得るものばかりなんですね♪
では落選供養参ります!
「願い」 はそやm
子供の頃からトリックアートが好きだった。壁や天井からつかめそうに見えるのに手を伸ばしても触れず、近寄ると平面な絵に驚き、ひたすら感動した。どうして立体に見えるのだろう、不思議で楽しくて仕方なかった。夏休みの家族旅行先でトリックアートの美術館を見つけると入りたいとせがみ必ず見学した。目を輝かせいつまでも見入るので親も「そんなに好きなのか」と苦笑したものだ。大人になる頃にはだいぶ落ち着いたが、今でもトリックアートには心惹かれる。トリックアートみたいに人を驚かせたかったな。あれ?なぜこんなことを急に思い出したのだろう?
「トリックアート!」
「え?」
突然、子どもの声がして立ち止まる。
「トリックアート!」
さっきより大きな声に周囲を見回した。そういえば季節は秋。もうすぐハロウィンだということに気づく。トリックアートのことを思い出していたからトリックオアトリートを聞き間違えたのか。しかし、子どもの姿は見当たらない。ワンワンと流れる街中の宣伝を聞き間違えたのであろうと再び歩き出そうとすると、
「トリックアート!」
と更に大きな声が聞こえてきた。
少し不気味になりながら、
「誰かいる?」
と聞いてみる。
「いるいる」
と返事がある。声のする方を見ると、大きなカボチャの横にハロウィンの仮装をした少女が立っていた。
「トリックアートじゃなくてトリックオアトリートでしょ?」
と子どもらしい言い間違いに思わず笑みを浮かべ近寄る。
「今、お菓子を持っていないから、そこのコンビニで……」
と言いかけて息を呑んだ。少女とカボチャは実物ではなかった。壁に描かれているトリックアートだったのだ。じっと見ていると再び少女の口元が動く。
「トリックアート!」
「ぎゃっ」
飛び上がった。人生で最高といってもいいくらい高く飛びあがった。「ぎゃっ」という声が出たのも初めてだ。文章でしか見たことがない「ぎゃっ」を自分でも言えるのかと、ぼんやり考えながらもトリックアートの少女が話している現実に膝をガクガクさせた。
「ね?トリックオアトリートじゃなくてトリックアートでしょ?」
「ひっ!」
逃げたいのだが、足が地に貼りついたように動かない。私の背後を歩行者が行きかう。助けを求めたいのに声が出ないし目はトリックアートに貼りついた状態になっている。周囲からはよくできたトリックアートをまじまじと見つめている人間としか思われないだろう。
「驚いた?」
ガクガクと首を縦に動かす。驚かない人間なんていないだろう。そんなに怖がらないでよーと呑気に少女は話しかける。
「普通、なんで話せるのとか聞かないかな?」
そっか、驚き過ぎて声が出ないのねと少女が嬉しそうに笑う。逃げなくてはと思うのだが足をまだ動かせない。こんな状況まずいとわかっているのに動けない。逃げなきゃ、逃げな……。この時、私は恐怖で動けないのではなく興味が勝って「動かない」ことに気づいた。子どもの時に感じたトリックアートへの感動に近いものが沸き上がりワクワクして「自ら動かない」のだ。
「ど、どうして喋れるの?」
私の中で興味が恐怖に勝った。
よくぞ聞いてくれました、と満足げに少女がほほ笑む。
毎年、ハロウィンの仮装を楽しみにしているし、友達と大人を驚かせてお菓子をもらうのが楽しみだったのよね。でも、だんだん大人が本当に驚いていないのに気づいて。どうしても心の底から驚いて欲しいなって思って色々と工夫をしてみたのに、どうしても成功しないのよ。毎日毎日驚かす方法を考えていたら、夏休みに見たトリックアートってなんだかトリックオアトリートに音が似ているなって気づいて。トリックアートって遠くから見ると触れそうなのに触れなくて不思議でしょ。ビックリもしちゃう。そう思った時、これだって思いついたの。
「これだ?」
うん!触れそうで触れない絵が喋ったら心の底から驚くだろうって。毎日毎晩トリックアートの仮装になりきりたいって願ったらなっちゃいました。
と自慢そうに語ったところで目を伏せる。
「どうしたの?」
「でもね、いくら声をかけても歩いている人が立ち止まらないし驚かないの」
「ああ、まさかトリックアートが喋るなんて思わないものね。無視されちゃったか」
だけど、あなたは気づいて驚いてくれた。膝がガクブルした人、初めて見たよと嬉しそうに微笑むのでこちらも「どういたしまして」とつられて笑う。
「ねえ、一緒に「トリックアート」しない?」
「……。いいね!」
そういった途端、見ている景色が壁から歩行者道路へと切り替わった。
トリックアート……トリックアート……。
少女と共に行き交う人々に今日も声をかけ続ける。
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