【豆島さんの新企画参加②＃夜行バスに乗って】骨皮筋衛門、夜行バスの平和を守る

激しい雨が降る中、夜行バス「風林火山号」に帳面のーと町のエリート警察官、太山デイブが乗り込んだ。

長い手足を優雅に動かしながら乗り込むデイブに乗合春のりあいはるが軽く頭を下げると、

「しっ！今日は極秘任務なんだ。いくら僕が有名でも他の乗客と同じように接してくれたまえ」

とウインクをする。

乗客全員に感謝の思いを込めて会釈をしていたのであるが春はあいまいな笑顔でデイブのうぬぼれをスルーした。

最近、帳面のーと町発新宿行きの夜行バスがザワついているとの情報を得た骨皮筋衛門が潜入捜査に入った。潜入捜査中は外部との連絡を絶つのが筋衛門のやり方だが、2週間も音信が途絶えるのは珍しい。

筋衛門の潜入調査対象となった「春と風林火山号に乗って新宿に行こう！」ツアーは春休みシーズンとも重なり連夜満員の人気ツアーだ。事件が起きればすぐに中止となるはずだが、何事も起きていないため毎晩運行されている。

初日に拳銃騒ぎが終点の新宿バスタで起きたが、それはプロポーズのサプライズだった。だから夜行バスがザワつくという情報は誤情報だと思われたのだが。

「いや……これはなにか……ある！」

と筋衛門は闇に消えた。次の日には「何もなかった」もしくは「危険は去った」と戻ってくると考えられたが筋衛門は戻ってこない。そこで自らの判断でデイブが夜行バスに極秘で乗り込むことにしたのだ。

「夜行バスとはこういう仕様になっているのか」

物珍しそうにデイブがキョロキョロする。座席の間は十分な空間があり180度近く倒せる座り心地の良い椅子にはレストフットもついている。

「僕の長い手足でも快適にすごせるぞ」

自家用ジェットでしか移動をしたことがないデイブには全てが新鮮でワクワクする体験だ。外は激しい雷雨なのにバスの中はひたすら快適であった。

「普通、こういう天気の場合は事件のひとつやふたつ……」

とつぶやきかけたデイブの前にすっと手が伸びてきた。

「な、なにごと！」

と素早く横を見ると老婦人が

「デイブさん、どうぞ」

とミカンを差し出したのだった

「レディからの差し入れとはありがたいがなぜ私の名を？」
「デイブさんを知らない人なんて帳面のーと町にいませんよ、ほほほ」

事件が起きる気配など全くない雰囲気を乗せ、バスは帳面のーと町を出発した。

乗車中、デイブは隣の老婦人からお菓子から夜食まで様々なものを渡された。一度は断ろうとしたのだが「老い先短い者の言うことは聞くもんですよ」と押し切られ、ひたすら食べ続けるはめとなった。そのせいだろうか。瞼は重くなり、あっという間に意識が遠のいた。

「ご乗車ありがとうございました。まもなくバスタ新宿、終点でございます。このたびは「春と風林火山号」にご乗車いただき誠にありがとうございました。またのご乗車お待ちしております」

とのアナウンスで目が覚めたデイブ。バスタに着いたとき隣の老婦人にお礼を言おうとしたが既にいなかった。

「年の割に行動が素早いな」と呟きながらバスを降りるとトランクルームのところでなにやら騒ぎが起こっていた。慌ててデイブが駆け寄るとそこには先ほどの老婦人が倒れていた。

「だ、大丈夫ですか！腰でも痛むのですか！」

と声をかけるデイブをいまいましく睨みつける老婦人。車内での優しい雰囲気とはガラリと変わった態度にデイブは驚いた。よく見ると横には骨皮筋衛門がおり、老婦人の手には手錠がかけられている。

「す、筋衛門！このバスに乗っていたのか！気づかなかったぞ！」
「うむ。気づかないように乗るのが俺の得意技だからな」
「この老婦人はいったい……」
「こいつは老婦人ではない」

と筋衛門が言いながら老婦人の顔に手を伸ばす。ビリビリビリ。老婦人の皮がはがれ人相の悪い男が現れた。

「こいつはルーヴルから里帰り中の名画「踊る阿呆に見る阿呆」を狙う怪盗だったんだ」

以前「踊る阿呆に見る阿呆」を盗むのに失敗した怪盗はチャンスをうかがっていたそうだ。「夜行バスがザワつく」は怪盗が動き出したとの暗号で、筋衛門はこの2週間ずっと怪盗を捕まえるチャンスを探っていたのだそうだ。

「私だけでは動きが消えすぎて怪盗に警戒されていたのだがデイブが夜行バスに乗り込んだことで動き出してくれた」

デイブがあまりに目立つので筋衛門が乗っていないと考えた怪盗は、隠れ蓑に最適なデイブと共に行動することで名画に近寄ろうとしたが、まんまと筋衛門のヒラリ・クルリ・プルン・ボスンにやられてしまったというわけだ。

「すごいヒラリ・クルリ・プルン・ボスンだったな」
「ヒラリ・クルリ・プルン・ボスンを生で見れるなんてラッキー」

トランクルーム周辺の乗客が興奮している。

「この捕り物、デイブがいなかったら成功しなかった」
「そ、そうかぁ。ははは」

こうして帳面のーと町発新宿行き夜行バスの平和は守られた。

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突然の腰痛にもう参加できないと思いましが、なんとか2作目を投稿できました🙌豆島さん、楽しい企画をありがとうございます😊

骨皮筋衛門と名画「踊る阿呆に見る阿呆」の最初の事件はこちら👇

すっごく馬鹿馬鹿しい事件なんですよ♪