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【劇評271】手塚治虫ワールド満載。十八代目勘三郎のDNAを受け継ぐ清新な『新選組』。

 新しい風が、舞台を吹き抜けた。

 八月納涼歌舞伎第一部は、手塚治虫原作、日下部太郎脚本『新選組』は、創意と工夫に満ちている。

 わずか一時間十五分の上演時間で、新選組の小史が要領よく語られる。そればかりか、混迷する現在に揺さぶられるふたりの青年の成長譚としても楽しめる。
 歌之助の深草五十郎、中村福之助の鎌切大作の対照的な個性が、舞台を弾ませている。若い二人の意気込みがまっすぐに伝わってきて心地よい。

 手塚作品の歌舞伎化は、なんと初めてだという。これまで、なぜ、試みられなかったかが、いぶかしく思えるほどだ。人間のドラマを大きなスケールで描くが、『新選組』では、復讐の連鎖がいかに愚かしく、虚しいかがテーマとなっている。ウクライナ紛争に揺れる世界が、この幕末の物語に二重写しになっている。


 秀逸なテーマばかりではない。舞台の細部に遊び心が散りばめられている。『ブラッックジャック』や『三つ目がとおる』『火の鳥』のキャラクターが、巧みに取り入れられ、また舞台背景には、お地蔵さまに混じって、「ひょうたんつぎ」が登場するとなれば、手塚マニアにはこたえられない。
 もとより手塚治虫は、コミックの世界に並ぶ者のいない巨匠である。けれども、古めかしさはなく、コミックの飛躍に満ちた発想が、歌舞伎に斬新な命を与えていた。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。