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【書評】とにかく見方を変えよう作戦『ミライの源氏物語』(山崎ナオコーラ)

源氏物語を実は読んだことがない。
何回かチャレンジしたことはあるのだけど、いかんせん長い。
あと口語訳が合わなかったのかかなり読みにくかったことに加えて、そこまで恋愛物語に興味がなかったのもある。
いや……だって……プレイボーイのラブストーリーなんか読んで何が面白いんだろうと思ってたんですよ、ごめんなさい。

と、まあ私の前置きは置いておいて。
この本は源氏物語を読んでいなくても大丈夫(フワッと「平安時代の恋愛物語なんだな」ということだけは知っておいた方がいいけど)。
源氏物語に蔓延る差別や偏見などを現代に照らし合わせて解釈していこうというのがこの本の主旨で、源氏物語の本文などを引用しながら本文は進んでいく。

この本を読んで改めて知ったのだけど、平安時代の恋愛というのは基本的には通い婚で(男性が女性の家に通う)、女性は顔を見せないから男性は夜這いはするし、強制的に行為に及び朝になり顔を見て男は帰っていく……。
女性は父親か男性の経済力に頼って生きていくしかなく、家柄によっては落ちぶれたり貧困に喘いだりする。いや、女性が生きにくい時代すぎる!!

著者も言っているから仕方のないことなんだけど、平安時代と現代では社会規範がそもそもちがう。
女性が夜這いに遭って強制的に行為に及ばれてもそれは犯罪ではないし、妻が何人いても重婚の罪は問われない(そもそも婚姻関係が曖昧)。
現代から見れば「とんでもない!」と思われることが多々判明するのが源氏物語の時代の社会規範。平安時代に生まれなくよかったと心から思った。

その社会規範を批判するのではなく、現代の言葉、例えば母親の面影をずっと追っている光源氏には「マザコン」という言葉を当てはめて読み解いていく。種類は「ルッキズム」から始まり「マウンティング」や「トロフィーワイフ」など多岐に渡る。

詳しい内容はもちろん読んでほしいのだけど、私がこの本を読んで思ったのは現代社会は確実に規範やモラルや風紀を進化させて今があるということ。
当たり前だけど性犯罪は取り締まられてるし(甘いと思う部分はあるけれど)、重婚も犯罪、他人の家に夜這いをかけたら不法侵入。
「そんなこと当然だろ!」と言うかもしれないけれど、「平安」という時代を経なかったら夜這いは犯罪にならなかったかもしれない。
許されてきたことが許されなくなったということは、誰かが声を上げて「やめよう」「これは犯罪になる」と言ったわけである。
その前例としてこの本を読むのはアリだと私は思うのだ(「不倫」や「トロフィーワイフ」「ルッキズム」などは犯罪ではないけれど、多様性が叫ばれる現代では注目される言葉だと思う)。

源氏物語に限らず、法律や風紀やモラルはたくさん失敗やたくさんの犠牲を払って築かれてきた。それはこの源氏物語の中にあるような、女性性がないがしろにされた事実もまた一つのきっかけなのだと思う。

それにしてもこの本を読むと俄然、源氏物語の興味が湧く。実は河出書房新社の日本文学全集の源氏物語は買って積ん読になっているので、早く読みたくなった。

ただのプレイボーイの華やかな恋愛小説だと思っていたけれど、この本を読むと源氏物語はの読み方はもちろんのこと、社会の見方も変わっていく。多様性を強く意識させられる時代にもぴったりだ。
男性にも女性にも読んでほしい一冊になっている。

西桜はるう


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