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書評(ホラー)

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[書評]信じることは罪なのか?『食べると死ぬ花』(芦花公園)

[書評]信じることは罪なのか?『食べると死ぬ花』(芦花公園)

いやはや、えらいものを読んでしまった。
ホラー小説の類に入るのだろうけど、幽霊が出て来たり、心霊現象がほぼ起きない。
登場する人物はちょっと人生につまづいてしまっている人たち。
いや、ちょっとじゃないかな。
上手く立ち回れなかったり、ボタンの掛け違いだったり、なんというか、不器用でもあり、ズルくもあり、とにかく「人生上手くいってません」という人たちが主人公の連作短編集である。

その弱さにつけこむ

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【書評】私たちが住む土地の秘密『骨灰』(冲方丁)

【書評】私たちが住む土地の秘密『骨灰』(冲方丁)

「骨灰」とは「こっぱい」と読む。
なかなか聞き慣れない言葉だから、ちょっと調べてみた。
本来は「細かく打ち砕くこと」らしいけれど、この小説からしておそらく「骨が焼けて灰状になったもの」だろう。

そんな骨灰がもたらす恐ろしい祟りがこの物語の主軸になっている。
主人公・松永は大手の企業「シマオカ」のIR部に勤める至って普通のサラリーマンだ。
あるとき、工事のやり方や「シマオカ」そのものを貶めるような

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[書評]怪物がそこにいる『閲覧注意 ネットの怖い話 クリーピーパスタ』(ミスター・クリーピーパスタ編)

[書評]怪物がそこにいる『閲覧注意 ネットの怖い話 クリーピーパスタ』(ミスター・クリーピーパスタ編)

海外版ネットの怖い話を集めたホラー短編集。
タイトルの「クリーピーパスタ」とは「身の毛がよだつ」という意味の「クリーピー」と「コピー&ペースト」から造られた造語である。
なんの知識も持ってなかった私は、「パスタ」という響きが可愛く思えてしまったのだけれど可愛いお話など一個もなかった……。

いわゆる海外のネット掲示板(2チャンネルのような感じかな?)などに投稿された怪談(日本でいう「くねくね」や「

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[書評]興味本位で集めるな『ほねがらみ』(芦花公園)

[書評]興味本位で集めるな『ほねがらみ』(芦花公園)

医師であり語り手の「私」は怪談を集めるのが趣味で、本書はその記録として書かれている体を取っている。
いわゆるドキュメント形式のホラー小説なのだ。
「私」は怪談を集めていくうちに、なぜか各怪談に共通点があることを見出す。
やがてその怪談は怪異となり、「私」を恐怖体験の当事者にしていくのだった……。

著者はカクヨム出身で、本書はTwitterで話題になったらしいのだが私はまったく知らなかった。
とい

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[書評][まとめ]書評ライターがおススメする、秋の夜長に読みたい短編ホラー6選

[書評][まとめ]書評ライターがおススメする、秋の夜長に読みたい短編ホラー6選

「あれ、おっかしいな、もう秋なのに……」という暑さが全国的に続いています(しかし、北海道の一部は氷点下だったとか……)。
さすがにエアコンはかけていませんが、扇風機が手放せない日々。
そろそろ暑さとはさようならしたいですね……。
そんな長く続く残暑を吹き飛ばす、ホラー短編集を集めてみました。
どれも書評ライターの私が、この夏に読んだものばかり。
どの本もAmazonなどで購入できますので、興味を持

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[書評]恐怖 角川ホラー文庫ベストセレクション(朝宮運河編)【理性を凌駕する恐怖】

[書評]恐怖 角川ホラー文庫ベストセレクション(朝宮運河編)【理性を凌駕する恐怖】

角川ホラー文庫が30周年を記念して、書評家であり怪奇・幻想ライターの朝宮運河が編んだ珠玉のホラーアンソロジー第2弾!

収録されいる作家は、宇佐美まこと、小林泰三、小松左京、竹本健治、恒川光太郎、服部まゆみ、坂東眞砂子、平山夢明の8人。
この中の3人が鬼籍に入っているという事実が少し悲しいけれど、作品はこれから読み続けられていくのだろう。

前回は「再生」というタイトルのアンソロジーで、より心霊現

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至福の恐怖をあなたへ【再生 角川ホラー文庫ベストセレクション】(朝宮運河編)

至福の恐怖をあなたへ【再生 角川ホラー文庫ベストセレクション】(朝宮運河編)

何故に人は「恐怖」を自分から求めるのだろう。

「怖い」「恐ろしい」と分かっているものに、どうして自分から近づくのだろう。

と、ホラーというものが基本的には苦手としている私は思っていたわけである。だって、怖いんだもの。血だらけの女性や、真夜中に増える階段の数とか、動くベートーヴェンの肖像画とか、そんな怖いものをどうして自分から求めてしまうのだろう。

最近になってホラー小説を読むようになった私は

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