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書評(エッセイ)

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【書評】書きたいものを見極める『べらぼうくん』(万城目学)

【書評】書きたいものを見極める『べらぼうくん』(万城目学)

変わった人だなあというのが読み始めた印象だった。
万城目学が小説家になるまでの紆余曲折が綴られたエッセイ集なんだけど、浪人したり(京大生だったことに驚き!頭いい!)、工場勤務したり、工業勤務で貯めたお金を引っ提げて上京して小説家を目指したり、行動力が半端ない。うらやましい。
でも節々に感じる「この人きっとおもしろい人なんだろうな」というテンション。関西人だからだろうか。独特のノリというものを文章か

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【書評】当たり前過ぎて忘れてたけど『くもをさがす』(西加奈子)

【書評】当たり前過ぎて忘れてたけど『くもをさがす』(西加奈子)

かんちがいしていた。
タイトルの「くもをさがす」の「くも」を私は「雲」だと思っていたのだけど、いざ読み始めてみたらスパイダー、つまり虫の方の「くも」のことだったのだ。
この本は旦那さんとお子さんとカナダに滞在中にがんになった西さんの闘病記(本人は「闘病」という言葉を避けているけど)で、初のノンフィクション。
タイトルの「くも」の正体を、西さんは亡くなったおばあちゃんだと言っている。
なぜなら、がん

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【書評】「生」をまっとうすることの難しさ『無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』(山本文緒)

【書評】「生」をまっとうすることの難しさ『無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』(山本文緒)

最初に断っておくと、この本を気分が落ち込んでるときや悲しい気持ちでいるときに読まない方がいいかもしれない。
著者・山本文緒は58歳の若さですい臓がんステージ4と判明し、余命を宣告される。そして亡くなってしまうまでの様子が自身の手でこの日記として書かれている。
闘病日記と言えば最後に、「今は治ってます!元気です!」となりそうなものだけど、私たちは著者がもうこの世にいないことを知っている。知ったうえで

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【書評】積み上げていく希望という名の積ん読『好きになってしまいました。』(三浦しをん)

【書評】積み上げていく希望という名の積ん読『好きになってしまいました。』(三浦しをん)

私はとにかく三浦しをんのエッセイが大好きだ。
クスリと笑えて、真剣味がある内容もどこかお茶目な雰囲気は壊れず、全体的に柔らかい文章が特徴的だと思う。「今月はどこにも出かけてない!」と言いつつも、面白いエピソードに事欠かない三浦しをんの日常が私はとても羨ましく感じる。

待ちに待った最新エッセイ集は、もちろん文句なんか出るわけない。コロナ禍以前に書かれたものが多いので、旅情エッセイもたっぷりだし、書

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【書評】とある女芸人の人生の「きれはし」『きれはし』(ヒコロヒー)

【書評】とある女芸人の人生の「きれはし」『きれはし』(ヒコロヒー)

女芸人・ヒコロヒーのエッセイは、そんな一文から始まる。
なんというか、この一文を読むことで「あ、明るい感じのエッセイじゃないな?」と想像してしまう。
うん、まあ、決してポジティブな内容ばっかりのエッセイじゃなかった。
でもエッセイって著者の生活に寄り添った文章なわけだし、必ずしもすべてが「日々の生活をこんな風に頑張ってます!」とガッツのある文章である必要は私はないと思ってる。
なぜなら、希望を享受

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【書評】芸術は本当に爆発だ『最期の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』(二宮敦人)

【書評】芸術は本当に爆発だ『最期の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』(二宮敦人)

小説家・二宮敦人さんの妻は東京藝大の彫刻科に籍を置く学生だ。
東京藝大はなんとあの東大よりも倍率が高く(藝大の絵画科は17.9倍の倍率!)、入学するには困難を極める……とのこと。
そんな高き倍率を潜り抜けて入学した藝大には、どんな科があり、どんな学生がいるのか?
それを潜入取材したレポ的なものが本書である。

私がこの本を読んでいちばん感動したのは、学生たちに打算がないことだ。
藝大は美校(美術学

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【書評】楽じゃないわ!とツッコミをありがとう『イルカも泳ぐわい』(Aマッソ・加納愛子)

【書評】楽じゃないわ!とツッコミをありがとう『イルカも泳ぐわい』(Aマッソ・加納愛子)

私は大食い動画やゲーム実況を見るのが好きなのだけど、ときどき気になるコメントがある。

「ご飯食べてるところ撮って流してるだけでお金もらえていいですね」
「ゲームをプレイしている動画を流しているだけで稼げて楽な仕事ですね」

こんなようなコメントを見かけたことがあって、モヤモヤしていた。
楽な仕事なわけないだろう!
どんなご飯を食べるか?
どんなゲームをするか?
どこをカットするのか?
テロップは

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[書評]通じないなら、通じるまで粘る『地獄の楽しみ方』(京極夏彦

[書評]通じないなら、通じるまで粘る『地獄の楽しみ方』(京極夏彦

「言葉は通じないんです」

いやいや何を言っているんだって思うでしょ?
実際この文章を読んでいる時点であなたには少なくとも言葉は通じているはずだ。
でも、京極夏彦は言う。
「言葉は通じないんです」と。

「みんな勘違いしているんです。自分の気持ちは必ず伝わると思っているんです。でも、その気持さえも言葉にできないんですよ」

今の自分の気持ちを表したときに、例えば「悲しい」という感情が中心にあったと

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[書評]汚くありません、朝井リョウなら『そして誰もゆとらなくなった』(朝井リョウ)

[書評]汚くありません、朝井リョウなら『そして誰もゆとらなくなった』(朝井リョウ)

疲れてしまった日。
何も上手くいかなかった日。
理不尽な目に遭った日。
そんな日は、「そうだ、朝井リョウのエッセイを読もう」(「そうだ、京都にいこう」のナレーションで)と思ってほしい。

朝井リョウは弱冠24歳で直木賞をとった天才作家だ!……と思っていた。
彼のエッセイを読むまでは。
この「そして誰もゆとらなくなった」は3部作エッセイの最終巻にあたり、もし前作を未読の人がいたら早く本屋に走った方が

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[書評]鍵穴を見つければより楽しく『物語のカギ 「読む」が10倍楽しくなる38のヒント』(渡辺祐真/スケザネ)

[書評]鍵穴を見つければより楽しく『物語のカギ 「読む」が10倍楽しくなる38のヒント』(渡辺祐真/スケザネ)

私は漫画もほぼ読まないし、映画もほぼ見ないし、ドラマもほぼ見ないし、アニメもほぼ見ない。
「ほぼ」と保険をかけたのは、何事も例外はあるということである。
ただ、日常的に触れるのは圧倒的に活字や文章が多く、中でも小説は私にとっては欠かせない存在だ。
そんな「小説」=「物語」をより深く読み、より深く愛せるようにしてくれるのがこの本というわけなのである。

本書は「カギ」と称して様々な物語の味わい方を提

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[書評]いい作品はぶっ飛んだ思考と行動から生まれる『文豪どうかしてる逸話集』(進士素丸)

[書評]いい作品はぶっ飛んだ思考と行動から生まれる『文豪どうかしてる逸話集』(進士素丸)

国語の教科書に必ず載っている「文豪」という存在の作品。
もう字面からすごいよね。
「文」に「豪華」の「豪」なんだもの。
「文学」ってどんだけ華やかな世界なんだろうと一時は夢想する。
しかーし、これを読むともう、ほんと文豪ってしょーもない。
しょーもないことで悩み、しょーもないことで喧嘩をし、しょーもない理由で怒る。
つまりまあ、現代を生きる私たちとそこまで変わらない性格だったということがこの本を読

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[書評]拝啓、鳥類学者さまへ『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ』(川上和人)

[書評]拝啓、鳥類学者さまへ『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ』(川上和人)

長年、鳥類を研究してきた著者による鳥類学と鳥類学者の実態を綴ったエッセイ。
研究職を在り方やどんなことを研究しているかが学べる1冊にもなっている。

ところであなたは鳥は好きだろうか?
私は正直、どちらでもない。母は鳥が好きでよく鳥類図鑑を眺めていたり、庭に来る鳥の種類を当てたりしているけれど。

私の住む地域は一歩行けば田んぼがり、でも大きな駅が近かったりとど田舎ではないけれど都会でもない微妙な

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[書評]多様性は気持ちのいい言葉?「信仰」(村田沙耶香)

[書評]多様性は気持ちのいい言葉?「信仰」(村田沙耶香)

「気持ちよさの罪」は村田沙耶香が「個性」や「多様性」について語ったエッセイです。
あるときから著者は「クレージーさやか」と呼ばれるようになります。その呼ばれ方は作家仲間がラジオで付けてくれた愛あるあだ名でした。しかし、いつの間にかそのあだ名だけが独り歩きをし、テレビ出演をする際には「クレージーさやかであること」が求められるようになってしまったのです。
深夜番組の打ち合わせでは、

と言われる始末。

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[書評]アウトローな生き方の闇『文豪はみんな、うつ』(岩波明)

[書評]アウトローな生き方の闇『文豪はみんな、うつ』(岩波明)

文豪と呼ばれる人たちを、精神疾患のという切り口から読み解いていく本です。

紹介されているのは、夏目漱石、有島武郎、芥川龍之介、島田清二郎、宮沢賢治、中原中也、島崎藤村、太宰治、谷崎潤一郎、川端康成の10人。

7割が統合失調症で、あとは躁うつ病であったり、パニック障害の文豪もいます。

現代のように精神疾患という分野の医学が発達しておらず、島崎藤村の父はその病から座敷牢に入れらていました。
総じ

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