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CADとCADとデータと紙

2次元図面が主流で3次元モデルになかなか移行しない件と、いまだにデータではなく紙ベースでのやりとりが主流の件の2つについての考察。
最初に言っておきますがあくまで個人の考察です。

3次元モデルになかなか移行しない件

これは“規格の充実と認知がカギ”である。
JIS B 0060 デジタル製品技術文書情報という規格が2015年に制定されて年々内容が更新されて、充実してきている。
まず3次元で設計している人でこの規格を知っている人がどれほどいるだろうか。
そしてこの規格に基づいてのモデリングを意識している人はどれほどいるだろうか。

2次元の規格ならば最新とは言わずともそれなりに皆さん知っていて、完璧ではないにしろそれに基づいて設計をしている。
例えばすみ肉溶接記号を基線の上側に書いた場合は、矢印の反対側を溶接するという指示であることはほとんどの設計者が知っているだろう。
3次元モデルの場合は簡易3D溶接形状及び/または補足幾何形状で指示する、(そしてそこに指示記号を記入する)ということをどれほどの設計者が知っているだろうか。

2次元図面の書き方(製図の規格)というのは、そもそも日本では1930年に日本標準規格製図(JES第119号)が制定されている。今から約100年近く前の話だ。

もちろん図面を描くという行為はそれ以前から行われている。
例えば清家正という方が1926年に『科学的研究に基ける製図論』という本を出している。
本著は私の手元にないが、1957年に発行された新機械製図学のはしがきを引用すると
“我が国の製図は明治20年代に英国系統の製図として輸入されたものがそのままの形、旧JIS・DINから、さらに新しくはアメリカ系統のものまでが入りくんで、せっかくJISでわが国独自の形に統一しようとしても、今なお正に文字通りの混乱である”
と述べられている。
先人の苦労がしのばれる。

2次元図面、製図というものには100年以上の長きにわたってそのお作法が磨かれてきた。
図面というものは、関係者への情報共有を目的として作られる。そのためのお作法が磨かれてきたわけである。

そしてそれは手書きの製図であろうと2次元CADを使っての製図だろうと変わらない。
これに対して3次元モデルのお作法に関してはまだまだ歴史が浅い。

3次元モデルを手書きで作るというのは断片的に鳥瞰図を作るというのはあれど、3次元の情報全てを書き出すことは不可能であり、3次元CADの使用自体も設計者の実務での活用が広がってきたのは割と最近のことである。

3次元モデル作成に当たっての規格の充実はまだまだこれからというところだろう。

余談だが「お作法に関してはまだまだ歴史が浅い」「設計者の実務での活用が広がってきたのは割と最近である」と書いたが3次元CAD自体が生み出された年代は2次元CADとあまり大差ない。

2次元CADは1960年代初めから70年代初めにかけてSketchpad、CADAM、ADAMなどが誕生したのに対し3次元CADは1970年代初めから80年代初めにかけて開発されたCATIAが誕生している。
では何故、3次元CADは2次元CADほどには普及していないのだろうか。

二つの理由を挙げる。

一つは元々CADができる前から手書きで二次元の図面を描いていたので2次元CADの方が設計者は取っ付きやすかった。
もう一つは、パソコンスペックの問題。今でこそ割と重たいデータも設計者個人が割り当てられているPCでサクサクと動くようになった。

さて、設計者が設計をするとき、まずは3次元のモデルを頭の中にイメージする。
それを時にはポンチ絵などを書き起こして、2次元図面を作成する。
この一連を大昔は手書きでやっていた。
そのような状況で製図がパソコンでの作業に置き換わっていくとなったときに、やはり2次元CADがまずは相性がよかった。

そこから年月を経てパソコンのスペックがどんどん上がり、ソフトも洗練されて3次元CADが設計者の普段使いで使えるものになってきた。

しかしCADが出る前から手書きで書き続けられて規格が作られてきた2次元図面と異なり3次元モデルにはそういったものがほぼ無い。これから作っていく必要がある。
ここに2次元図面から3次元モデルへの移行の難しさがある。
2次元図面で表現されたものは製造業内部における共通言語となっていて、基本的には設計者が描いた図面は、分かりにくい・分かりやすいといったことは一旦おいておくとして、皆が理解できる。
図面に表現されるのは形状だけではなく、加工や組立における基準点であったり、各所の精度、加工法、表面性状、その他もろもろの情報が書き込まれる。
これらがある一定の規格のもとに描かれており、長年運用されているため共通言語として成り立っている。
3次元モデルの規格が充実され、より広く、より深く、製造業にかかわる人たちに認知されて初めて2次元図面の取り扱いから3次元モデルの取り扱いが主流になっていくように思う。

いまだに紙ベースでのやり取りが主流の件

これに関しては二つ理由があり、それは2次元3次元共に言えることである。

一つ目は大きなデータのやり取りが面倒であること。
数GBクラスのデータともなるとメールでは送れず、大容量データの転送サービスも会社によっては使用禁止だったりする。
クラウドフォルダで共有するというパターンもあるが、会社ごとの独自のシステムがあったりする。
データの共有だけでいちいち手間がかかってしまう。

二つ目はデータ形式がバラバラであること。これは本当に手間であり、設計の実務を担当すると非常にストレスになる。

dxf形式のように共有用の拡張子にインポートして色んなCADソフト間で共有する方法があるが、各ソフト間で完璧に情報を変換することはできない。

線がずれたり、寸法がずれたり、縮尺がずれたり、コメントの文字がやたらと大きくなったりやたらと小さくなったりといったことは日常茶飯事である。

データをお客さんに送ったはいいが、寸法がズレてて分からないとか、一部のデータが壊れていて見られないとか、こういう連絡が来てもなぜ不具合が出てるのか特定することすらできないこともある。

異なるCAD間でファイルが開けないとかデータがおかしくなることがある、いうのはまだわかる。同じCADでもバージョンが違えば、古いバージョンのCADで新しいファイルデータは全く開けなくなる。
同じCADの同じバージョンですら、設定が異なれば正しく表示されないこともある。
こういったことが積み重なって設計実務を担う設計者にとって非常にストレスとなる。

一社の中で開発、設計、製造(加工と組立)まで一気通貫でやりきる体制であればこの手の不具合は生じないが、現実としてそのような会社はほぼ無い。

紙でやり取りすればこの手の不具合は一切ない。
はっきり言って現状では紙でのやり取りの方が早くて楽で便利だと思えるシーンはたくさんある。

多種多様なCADが乱立する中で、製造業の各社がそれに合わせた環境を作るのは難しい。あるメーカーは色んな機能を搭載したいわゆるハイエンドな三次元CADを採用していたとしても、そこから仕事を請け負う下請け企業あるいはその下請け、1次・2次・3次…下請け企業にはハイエンドな三次元CADを十分そろえる資金力がないところもある。
異なるCAD間でデータをやり取りする必要性というのは無くならない。
CADベンダーはたくさんあり各社データの互換性を高める努力もしているが、まだまだ扱いにくいというのが一設計者の実感である。

※マメ知識
JISは2019年に日本工業規格から日本産業規格に名称が変わっています。

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シン・実際の設計|春夏裏山 (note.com)

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