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【本紹介】ころんで学ぶ心理療法②


遠藤裕乃 著

逆転移の傾向と対策


ベテランのセラピストはどのようにして失敗事例を克服したのかを検討する

失敗例と成功例の違いは何か

①セラピストとしての役割意識が保たれているか
→「セラピストとして自分は今何をすべきか」が明確にあること

事例 厳しい家庭環境で育って現在友人関係を形成できない30代女性
「先生はどんな子育てをしていらっしゃるのですか」
失敗例:ここは私の個人的なことをお話しする場ではないので困ってしまうのですが
成功例:私がどんな子育てをするのか気になるのですね。Aさんから見て私はどんな父親(母親)に見えるのでしょうか

「先生の子どもに生まれたならどんなによかったか」
「どうせ私は先生にとって患者のひとりにすぎないのでしょう。本当の意味で甘えさせてはくれない」
失敗例:自分のことをただの患者などと言わないでください。もちろんあなたのことを大切に思っています。
成功例:私の子どもだったら幸せだと思うのですね。セラピストとしてあなたのことを大切に思っているし、お役に立ちたいと思っていますよ。

→失敗例は、クライエントの発言をセラピスト個人に向けられたものと思い、距離を極端に縮めたり、極端に遠のいたりしてしまう。
→成功例はクライエントの欲求を受け止めつつ冷静な態度をとっている。

マラソン選手にとってのコーチと同じような役割
→コーチは選手がどんなにしんどくても担いで代わりに走ることはせず、選手が走り続けるためのサポートをする
→セラピストもクライエントの不幸を埋め合わせるのではなく、罪悪感wp感じるでもなく、クライエントが自分について理解できるように手助けをする

初心者のうちは個人としての自分の上にセラピストという役割意識の衣を纏っているイメージを繰り返し思い浮かべると◎

②「手ごたえ」はどのくらいか
同じ困難場面に遭遇しても、セラピストがこれまでにそのケースにどの程度の手ごたえを感じているかによって変わってくるといえる

事例 数年間ひきこもりだったが1,2年セラピーを続けるうちに少しずつ外に出るようになった青年

「ぜんぜんよくなってない!面接料を返せ!」「それでも専門家か!なんとかしろ!」

失敗例:私なりに一生懸命やっているのですが・・・・
失敗例:私にできそうなことはもうありません
成功例:いままでの面接は全く役に立っていませんか?私はそれなりの成果があると思うのですが、あなたの感想をもう少し具体的に聞かせてください。どういうところから全然よくなってないと思うのですか。
成功例:ちっとも治ってないと思うのですね。ところで今回眠れなくなったきっかけについてもっと詳しく教えてくれませんか。あなたを眠れなくさせたのはどういうことか一緒に考えましょう。

→失敗例は自分の労力に対して見合った反応が得られないと感じていた
→成功例は今までの面接の中である程度面接の効果を認めてくれていたし頼られている感じがあった

セラピストは自分の無気力や疲労感の理由を客観的に理解することで、理想と現実のギャップに気づく必要がある

③期待の現実性は適切か
→クライエントのアセスメントが適切か、セラピストが自分の援助能力を適切に評価できているか

事例 職場でそっけなくされたことがきっかけで何もかも不安になってしまった30代女性

「もう自分ではどうしようもないんです、先生どうにかしてください。このままでは私は一生だめな人間で終わってしまう」
「何もかも不安で八方ふさがりなんです」 といって泣き崩れる

失敗例:そんなに不安にならないでも大丈夫だから。これまでも何とかやってきたではないですか
失敗例:そんなに不安でたまらないなら、明日から仕事を休みなさい
成功例:あなたが今、ものすごく不安になって、混乱しているのが伝わってきます。ところで、「八方ふさがり」「どうしようもない」というと、例えば、どういう状況なのですか?どういうことから「もう職場にはいられない」と思うのですか
成功例:例えば、2・3日休んだらどうなりますか。逆に休まないで続けるとしたらどうなりそうですか

→失敗例はセラピストの期待とクライエントの実像がずれている
→いらだちや焦りがセラピスト側の期待の裏返しであることに気づく(逆転移をりようする)と、アセスメントを現実レベルに調整することができる

初心者がベテランに近づく第1歩は
「逆転移を恐れるな、起きたらそれを情報として使え」という発想をもっておく

④援助動機の源泉はどこにあるか
→クライエントの姿に触れて生じたものなのか、セラピストの自己愛的なものなのか

前者は、本能的・反射的なものでクライエントが必要としているものはなにか、満たされていない欲求は何かを見て取りかかわろうとするもの

後者は、新しい技法の効果をしりたいといったセラピストの自己愛的な動機のことでこれだと思惑通りに効果が出なかったときにイライラしたり興味関心をなくしてしまう

事例 友人関係が形成できない男子大学生で、周囲のせいにする訴えをつづけている

「周りが変わってくれればいいのに」「きっかけさえあれば」

失敗例:いつも同じ話の繰り返しのようですが、ここでは自分がどうしたらいいのか考えたらどうですか
失敗例:このままでは何も変わらないのではないでしょうか
成功例:あなたにとって今までとは違うことをすこしでもしてみるというのはとても怖いことなのでしょう。しかしいつまでも同じことを繰り返したところであなたが望むような結果は得られないのではないでしょうか。いつまでこういったことを続けますか?
成功例:あなたは周りがかわってくれれば解決すると思っているんですね。でも、周りに変わってもらうために自分は何ができるのかという点については今まで話し合っていませんね。周りが変わってくれればと想像することで自分で行動する不安を紛らわしているのではないでしょうか 

→失敗例は、面接の成果を上げたい、技術向上を目指したいといったセラピストの利益を第一に考える自己愛的動機があることがわかる
→成功例はクライエントに感情移入し、寄り添っていこうとする素朴な援助欲求が働いている

この両者はセラピストの中にどちらも存在し、ある時は前者、ある時は後者に傾くものである。
→今の自分は自己愛的動機にどれほど傾いているかと常に自分に問いかけることで面接の「毒」となる逆転移を取り除くことができる

この4つのポイントを指針にして、「自分が進んでいる方向がどのくらい誤っているのか」を知って、軌道修正するとよい

失敗例と成功例の応答パターン

失敗例
→一方的な指示だし
→安易な励まし

成功例
→素直な感情を伝える
→クライエントの面接に対するイメージを明確化
→クライエントの考えや感情を肯定
→感情をくみ取る
→問題点を指摘

成功例は失敗例に比べ多様なパターンがある
→失敗例では、セラピストの態度が固まってしまっており、決まった内容ばかりしやすくなるといえる

成功例の特徴はバランスの良さ

陰性感情がコントロールできていないと、セラピストはワンパターンで単純な応答に陥ってしまうが、陰性感情にうまく対処できるようになると2つ以上の内容を盛り込んだよい応答ができるようになる

自分の心のなかで何が起こっているのかに気づく


「今の自分は直面化の一本槍になっていないか?」
など自分を客観的に見つめる

「それであれば、感情の受容を取り入れていこう」
などと応用が利くようになる

初心者は自分の中に不安や怒り、無力感がわくと「自分の心のなかで何が起こっているのだろう」とびくびくして落ち着かなくなる

しかし傾向と対策がわかっていれば初心者であっても落ち着いてセラピストとしての役目を果たせる
→4つのポイントをその指針として使うとよい


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