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巨峰の概念が変わる、2本の新作ワイン


「第2の故郷」ニュージーランドへ

今年の3月から4月にかけて、ニュージーランド南島の都市、ネルソンへワイン造りに行ってきました。
ネルソンは、私が高校〜大学時代を過ごした町です。

大学時代の私。「ニュージーランド耕起選手権にようこそ」
おそろしく地味な「耕起選手権」の様子

私は、高校時代からワインの醸造家を志していました。
ゆえに、SHINDO WINESのアドバイザーであるアレックスさんがネルソンにワイナリーを所有し、そこでワイン造りを経験できるのは感慨深いものがあります。

学生時代はワイン造りを夢見て、いまはワイン造りに励む場所。
同じ町にワインを通じて毎年帰れることに、ただならぬ縁を感じます。

ワイン造りを志すきっかけとなった、アルバイト先のタイ料理店

今年のネルソンは、過去50年間の最高レベルで乾燥した年とあって、3週間の収穫シーズンの滞在中は、一度もまとまった雨が降りませんでした。
ブドウは湿気がもたらす病気にかかることなく熟し、最高の状態で収穫できました。

ネルソンのソービニヨンブラン

現地でのワイン造りは、きわめて過酷なものです。
日が昇るのが遅く、作業開始は朝の8時ですが、そこからが本当に長い。
遅いときは深夜2時まで、その日の作業が続きました。

日々のルーティンは、手作業での収穫から始まります。

ブドウがたわわに実った柵を、端から端まで移動しながらブドウを摘んでいくのですが、一列が500メートル以上もあるのです。
スタート地点から終わりの場所が、遠すぎて見えません……。

一列終わったら、また一列。
炎天下のなか、この作業を朝から夕方まで8時間以上をかけて行い、日々繰り返します。

収穫が始まったころはみんな楽しそうでしたが、1週間を越えたあたりから疲労が溜まり、誰もががモチベーションを保つのに必死。
音楽やポッドキャストを聴きながら気分を上げ、なんとか作業をこなしました。

このころは自撮りする余裕がありました

休みなし、ブドウにまみれた3週間

夕方ごろに収穫作業は落ち着きますが、それで終了ではありません。
ワイナリーに移動して、その日に収穫したブドウの仕込みを行います。

仕込みのプロセスは、日本とそこまで大きく変わりません。
しかし収穫量が圧倒的に多いので、スピードを求められます。

ワイナリーには、作業のリズムや道具の使い方など、それぞれの「くせ」があります。
たとえば飲食店の厨房は、働く人に応じて設計がカスタマイズされていますが、それと同じことがワイナリーにもいえます。

去年も同じワイナリーで仕込みを行ったので、効率的に作業が進みました。

自分のワイナリー以外で作業を行う場合、この「くせ」を瞬時に理解し、最適な動線を把握するスキルが、ワインメーカー(特に、複数の拠点で製造を行うフライングワインメーカー)には大事だと思います。

滞在中の3週間はほぼ休みがなく、毎日がブドウとワインにあふれた生活でした。
日中はブドウと格闘し、暗くなったら世界各国から手伝いに来たワインメーカーたちとワインを空け、あれこれ語り合います。

一日の終わりのこの時間が、本当に最高でした

とても楽しくて成長につながる経験になりましたが、日本での収穫が始まるまで、ブドウはしばらく見たくないのが本音です(笑)。

ニュージーランドでの体験記は、またの機会に詳しく書こうと思います。

巨峰ワインの新たな発見

話の舞台を、日本に戻します。
SHINDO WINESでは、福岡県うきは市産の巨峰を使い、人的介入を最小限におさえたワイン(low intervention wine)を2021年から造ってきました。

立ち上げ当初、巨峰を使ったワインは「フレッシュでライト、キャンディー香が高く、少し甘めのワイン」に仕上がるだろうと考えていました。
要は、ブドウジュースにアルコール分が含まれた、カクテルのような味を想像していたのです。

しかしながら最近、2021年にアンフォラで仕込んだ未発表のワインを久しぶりに空けてみたところ……。
当時は上記のイメージどおり、巨峰らしいライトで軽い口当たりだったのが、濃厚な味わいになっているのです!

同じ年に造ったほかのワインも飲みましたが、すべて香味が深くなっていました

もしかすると、巨峰で造ったワインは熟成期間が長くなるにつれて、香味が複雑で飲みごたえのある「本格的なワイン」に化ける可能性があるのかもしれません。

もちろん、十分な年数を重ねて検証したわけではないので、まだ確実なことは言えませんが、巨峰ワインの熟成にはポテンシャルがあると信じるようになりました。
「巨峰は品種的に熟成に向かない」と、決めつけていた自分が恥ずかしいです。

これまで、その年に発売されたヴィンテージはほぼ全量を出荷してきました。
しかし今後は少量を倉庫にキープし、ある程度の熟成期間を置いてからリリースするのも面白いのではと考えています。

さて、今回は5月1日に新しくリリース予定のワインを2本ご紹介します。

巨峰の概念を覆すオレンジワイン

Égalité 2021 
これが前項で記した、2021年にアンフォラで仕込んだワインです。

ワインの前では、人種や立場を超えて、誰もが平等であるべきと考えております。
そこで、フランス語で平等を表す「Égalité」(エガリテ)と名付けました。

SHINDO WINESでは、リリースの第1弾として「UKIHA BUBBLES 2021」を2023年4月に発売しています。

このワインも同時期のリリースを予定していましたが、ある事情から見送ることになりました。

今でこそ言えますが、ワインをアンフォラに入れて数ヶ月が経った時点では、おいしいとは全く感じられなかったのです。

その後熟成が進み、徐々に味に深みが出てきたので瓶詰めしました。
しかし瓶詰め後もボトリングショックで味が雑になってしまい、一時期は商品化をあきらめていました。

昨年末、ダメ元で抜栓してチェックしたところ、パイナップルや南国果実の香りがボトルから飛び出してきたのです。
軽くフレッシュなイメージが強い巨峰ですが、長期熟成で香味にさらなる深みが生まれたことに、驚きを隠せませんでした。

熟成から2年の歳月を経て、このワインは大きく化けました。
この劇的な変化をみなさんと共有したく、リリースに踏み切った次第です。

ここからは、醸造ノートになります。

一般的に、オレンジワインは白ブドウや赤ブドウを醸して造られます。
「Égalité」に使った巨峰は黒ブドウですが、一般的な赤ワイン用の黒ブドウと比べると色素が薄く、成長期に高温にさらされる状態が続くと、熟しても色が黒くならないことがあります。

本商品は、しっかりと熟度はあるものの、色は少し赤みがかった巨峰で造ったオレンジワインです。

わかりづらいかもしれませんが、赤みがかった巨峰です

醸造はまず、スキンコンタクトを行った巨峰を、優しくゆっくりと時間をかけてプレスしました。

前出のとおり、発酵はアンフォラで行いましたが、アンフォラは温度のコントロールができません。
自然の温度、自然のスピードで、約1週間をかけて発酵させました。

それから、以前弊社で使用していた焼酎甕で発酵させていた別の巨峰を、上記の巨峰とブレンドし、アンフォラでの熟成を開始しました。

通常は滓引きの作業を行いますが、これを省き、シュールリーという製法を用いてやさしく櫂入れを行いました。

アンフォラで18ヶ月以上の熟成を行い、2023年4月28日に瓶詰。
約1年間の瓶内熟成を経て、ようやくリリースとなります。

ラベルアート・商品名について
ラベルのイラストは、私たちのワイナリーが位置する福岡県朝倉市で明治38年より続く畳屋の4代目、MC TATAMIさんに描いていただきました。
MC TATAMIさんはラッパーやアーティストとしても活躍し、朝倉市のアンバサダーも務める多彩な才能の持ち主です。

このラベルでは、SHINDO WINESの理念である「いつ、どこで、だれとでも、楽しめるワイン」を表現していただきました。
畳の上(on the Tatami)という、私たちのなにげない日常のなかでワインを共有し、楽しむことの幸せを感じていただければ幸いです。

・野生酵母使用
・無濾過、無清澄
・補糖、補酸も一切行っておりません
・ブレンド時と瓶詰め時に、それぞれ極少量づつ亜硫酸を使用しております

まるで、純米吟醸酒のような白ワイン

pH4.3 WHITE 2022
2本目は、その名のとおりpH値が高い(=酸が穏やかな)巨峰100%の白ワインです。

一般的に、pH値が4.0を超えるワインはほとんど存在しません。

なぜならこの値を上回ると、瓶内で微生物による劣化のリスクが高まるだけでなく、酸が少ないと「味わいにキレがない」と評価される傾向にあるからです。

白ワイン用の一般的なブドウは、酸度の高いものがほとんどですが、真夏に収穫期を迎える九州の巨峰は、糖度が高くて酸度が低くなるのが特徴です。
食用として素晴らしいおいしさなので、ワインにしてもおいしくなるのではとチャレンジしました。

熟した巨峰

一般的に、食用ブドウをワインに使うときは、ワイン用のヴィニフェラ系のブドウと比べ、より糖と酸度の関係性が重視されます。

醸造時に補酸を行わないワイナリーでは、酸度を補うために熟しきっていない「青い」ブドウをあえて使うことが多々あります。

別のワインの醸造で使用した、補酸用の青いピオーネ

しかし、適熟していないブドウは口当たりがフラットなので、青臭いワインになってしまいがちです。

この問題を解決するために、本ワインでは「完熟したブドウを除梗し、一晩のスキンコンタクト後にプレスした果汁を発酵させたワイン」と「完熟したブドウのダイレクトプレス後の果汁を、発酵させたワイン」の2種類をブレンド。

そうすることで、ワインが青臭くならないようにバランスを取っています。

プレス中の巨峰果汁

また、酸度が低くてもきれいでおいしい白ワインを造るために参考にしたのが、かつて私が日本酒の製造にかかわっていたときの経験です。

吟醸酒の造り方からアイデアを得て、ブドウの発酵時に香りが華やかになるように、ステンレスタンクでゆっくりと低温で発酵させました(約12度)。

ゆえに、表ラベルには「Naturally vinified the Japanese way 」(日本的方法で自然に醸した)と記しています。

発酵中のもろみ

本ワインのpH値4.3は、一般的な日本酒のpH値と近いこともあってか、どこか純米酒に似通った余韻があります。
キリッとしたシャープな酸度こそありませんが、まるで純米吟醸酒を彷彿とさせる、熟した巨峰の優雅さを持つワインに仕上がりました。

SHINDO WINESは、酸味と香りが特徴的な「夏においしいワイン」を意識していますが、このワインは対照的に、日本酒のように通年で楽しめる1本となりました。

暑い九州で収穫された巨峰でしか表現できない、極めてまれなワインに仕上がったと自負しております。

・野生酵母使用
・無濾過、無清澄
・補糖、補酸も一切行っておりません
・瓶詰時に極少量の亜硫酸を使用しております

ラベルアートについて
ラベルアートは、鹿児島県在住のメキシコ人デザイナー、パブロ・ピネダ氏にお願いしました。

このワインは、今までにない新しい試みで造られました。
そこで、いろいろな価値観や考えかたが尊重されるニューヨークで、長年活動されていたパブロさんに、このラベルを作ってもらうのがぴったりだと考えました。

ラベルの上部から下部にかけて、文字色のグラデーションが変化しているのは、実験室で使うpH試験紙をイメージしています。

これは、ブドウが発芽から成長していき、完熟するまでの様子を表現しています。

ワインごとにラベルデザインを変える理由

SHINDO WINESでは、新商品が出るたびに、毎回違うアーティストさんにラベルのデザインを依頼しています(ヴィンテージ違いは除く)。

私たちのワイン造りは、まだまだ巨峰の可能性を探っている段階です。
考えつく限りの製法を駆使してワインを造っているため、商品ごとに味がガラリと変わり、個性としてはバラバラです。

であれば、ラベルのデザインも然るべきではないでしょうか。
毎回、異なるアーティストさんに話を持ちかけてコラボすることで、ワインのイメージに合ったデザインを追求することにしました。

仕込み方法が確立された段階で、いつかはデザインのテイストも統一するかもしれません。
しかし、それはまだ先の話になりそうです。

もし、SHINDO WINESのラベルを作ってみたいと思う方がいらっしゃいましたら、ご連絡をお待ちしております!

SHINDO WINESの季節が始まります!

このゴールデンウィークから真夏日が続き、急に暑くなってきました。
「夏に飲みたいワイン」を目指す私たちとしては、これからが本領発揮です。

また、前回の記事でご紹介した「ASAHA ROSE」「ASAHA RED」も瓶内熟成が進み、さらにおいしさが増しております。

今回の記事で紹介した2本も、夏にピッタリの仕上がりになりました。
ぜひ、最寄りの酒屋さんなどでお買い求めください。

長い記事を読んでいただき、誠にありがとうございました。
今後は月2回をメドに更新していく予定ですので、よろしければフォローをお願いいたします!

SHINDO WINESの最新情報は、阪本のInstagramで随時お伝えしています。


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