マガジンのカバー画像

|小説|

22
連載小説です。 2020/4/14〜2020/9/22
運営しているクリエイター

#いま私にできること

歌にもならない夜を

 池袋の路上に、小さなうさぎがいた。  軽く手を上げて、ラブが駅の人混みの中へ消えていく…

44

いつか来た場所で

 「ビリーが昔言ってたんだよ。燃え尽きられなかった人間ほど悲しいもんてないっすよ、って」…

46

あの頃のクズ達に捧ぐ

 どうしてこういうライブハウスのトイレは、みんな壁が真っ赤なんだろう、と、どうでもいいこ…

41

永い夢を見ていた

 鍵穴に鍵を差し込み、ゆっくりと玄関の扉を開ける。中は真っ暗だ。蒼介は眠っているのだろう…

44

Living Behavior

__________    あの日、事務所ビルのエントランスから出てきた蒼介の表情は、横山…

41

瓦礫の中に生まれて

 __________  横山は約束の十三時ぴったりに会議室に現れ、蒼介達の前に腰を下ろ…

46

適当な嘘をついてくれ

 ライブの翌日、早速横山との約束の日取りが翌週の火曜日に決まった。  あの夜、チヒロとビリーはメンバー以上に喜び、頼まれてもいないのに四人全員にビールを振舞った。  蒼介以外のメンバーは突然訪れたビッグチャンスに浮かれているようだったが、蒼介はどこか実感が湧かない様子で、何となくふわふわしたまま週末を迎えていた。  日曜日の午後、夜勤明けの蒼介が起き出すタイミングを見計らって、私は蒼介の家へ向かった。部屋の隅には、新しいアルバムの在庫と、今回初めてグッズとして作ったTシャツ

雨が降り始める前に

__________   七年前の六月、空気が湿度を帯び始めた金曜日だった。  その年…

49

暮れない昼、音のない部屋

__________  『Giraffe』は二年前に閉店した。渋谷のライブハウスも、都市の再…

58

君が選ばなかったやり方

 『Parade』より幾分か広い『Giraffe』のフロアを、私は茫然と見渡していた。ほとんどの出演…

56

そしてパーティーは続く

 もしも蒼介が今の私の記事を読んだら、あの日と同じように「こういう質問くだらねえよな」と…

51

街は黙り込んでいる

 学校を辞めて以来、蒼介の生活は以前にも増してめちゃくちゃになっているようだった。タクシ…

65

夏のぬけがら

 社会とのほんの僅かな接点を繋ぎ留めるかのように、蒼介はひたすらライブをし、私は小さな喫…

58

うさぎたちの行方

__________  街中が巨大なサウナになった夏休み、しなびたキャベツと人参をぶら下げて校庭に向かう。砂ぼこりと熱風がまとわりついて口の中がパサパサになって、くの字に曲がった蛇口を上に向けなまぬるい水道水をジャボジャボ飲み続ける。ぷはっと顔を上げると誰もいない校庭を亡霊のようにさまよう記憶の残骸。私はサヤカちゃんを待っていたのだけれど、いつまで経っても彼女は現れず、心細くなってくる。視界の隅でせっせと巣へと列をつくる蟻。私は退屈で、うさぎ小屋に向かって話しかけた。