ハルカ

近現代日本文学やポップカルチャーをフェミニズムの観点から研究していました。今は会社員。

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    まっすぐでない世界から見えることを書きます

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    観た映画の感想です

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パラダイスはどこか―『地方にこもる若者たち』

 昨年夏、「モールの想像力」という企画展を見に行った。「ショッピングモール」が若者の集う場となっていることや、文学やミュージックビデオで重要なモチーフとして度々登場していることを取り上げており、小さい展示ながらとても面白かった。  阿部真大『地方にこもる若者たち――都会と田舎の間に出現した新しい社会』も、ショッピングモールが若者の重要な拠点となっている、という話から始まる。岡山県に住む若者を調査対象とし、「余暇を過ごす場所」や人間関係の満足度について聞いた調査結果から見えて

    • まっすぐでない世界②:完璧の目指し方を変える

      まっすぐでない世界    親に宛てて書くつもりで始めた「まっすぐでない世界」。親に対するLINEだけではもったいないような気がして、noteでも書くことにした。 「まっすぐでない」ということばには、前に書いたような「時間感覚」や素直に受け取れないまたは受け取りすぎることから、「まっすぐでない」世界を生きている、という意味を込めた。また、大好きな『脇道にそれる』という本も意識した。「脇道にそれる」ことは「まっすぐ」に進まない、ということだ。あと、何かと「まっすぐ」を求める世界

      • 断片的な私のタイムライン

         親に自分の「時間感覚」について説明してみた。親は私のとまらない愚痴と内省(?)に付き合ってくれており、なぜ同じ後悔を毎日繰り返してしまうのか、私が感じている時間を共有してみようと思った。 点の時間  私は時間を「点」のように感じている。基本的に、時間は「線」として未来に向かってまっすぐ伸びており、過ぎたものは「過去」であるとされていると思う。けれど、私にとって、その出来事が気になるものである限り「過去」ではない。何年も前のことでも数時間前に起こったことのように強烈に感じ

        • 種はまかれていた

           日本がどんどん戦争をする国になっていて怖い。他の国の戦争や虐殺は対岸の火事ではないし、他の国のことでも多くの人が殺されたり人権を侵害されたりしている状況に恐怖を感じる。この瞬間にも、家で暴力を受けている人や家がない人もいる。私の生き方や仕事は何ができるんだろうと思う。いろいろなことがあまりに早く変わり、知識や積み上げてきたものが追い付けない。  研究したことが身に染みてきたのは、大学を卒業してからだ。  フェミニズムという思想や運動に大学で出会い、女性差別が社会の根底に

        パラダイスはどこか―『地方にこもる若者たち』

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        記事

          ずっと誰かといなきゃだめ?

           先日の「Skyrocket Company」(TOKYO FMのラジオ)のメッセージテーマは「友だちどうやってつくる?」だった。  最近、映画を観ていると気になるのは「独りじゃだめだ!」と言わんばかりに、孤独な登場人物に仲間ができる展開だ。「ひとりじゃない」「仲間がいる」—確かに、どれも感動的であり、一人で寂しそうにしていた人物に友人ができるとこちらも涙ぐむ。でも、ひとりでいたい時ってないだろうか。  そもそも「ぼっち」だとか「パリピ」だとか、なんでこんなに極端に二分して

          ずっと誰かといなきゃだめ?

          なぜ分断されるのか 山内マリコ『あのこは貴族』

           読み終わったあと、「私は」と語り始めたい気持ちでいっぱいになった。「私は」に続くことばは、私はこうだった、私はこう思う。きっと多くの人が、この小説を読み終えたときに自分の経験を言葉にしたいと思うのではないだろうか。  榛原華子と時岡美紀という、全く違う環境で育った2人の物語だ。華子は、渋谷区松濤で、親が整形外科医をしている裕福な家で育った。結婚を望み婚活をしている。物語は榛原家が帝国ホテルで迎えるお正月という華々しい場面から始まる。ホテルや美術作品の固有名詞が次々と飛び出

          なぜ分断されるのか 山内マリコ『あのこは貴族』

          楽しいことをしていたい。『私ときどきレッサーパンダ』

           ってどういうことだろうと思っていた。ディズニー+でのみ配信されていた、ピクサーの新作がやっと劇場公開。舞台はカナダ・トロントで、13歳のメイ・リーが主人公だ。メイは我慢せずやりたいことはなんでもやる。成績は完璧。運動も音楽もできる。アイドルグループの4Townが大好きで、3人の素敵な友人もいる。そして、母親からの期待に応え続けようと頑張っている。  そんなメイが楽しく暮らし、母親との関係に悩みつつも、アイドルのライブを心待ちにしていたある日、突然レッサーパンダになってしまう

          楽しいことをしていたい。『私ときどきレッサーパンダ』

          今まで住んだ家を振り返る

           東京に来てからの7年間は、引っ越しとともにある。東京に保護者が住んでもいなければ持ち家があるわけでもない、お金のない独身として、転々としている。  一番最初の家は、大学寮だった。設備は新しく綺麗で、ほかの学生と2人で1部屋。キッチンとシャワーは共同だ。テレビのあるリビングもあった。管理人は住んでいるし、カードキー式で安全な物件だったと思う。家を出れば「自分一人の部屋」が手に入るかと思っていたので、ルームシェアなんて嫌だったけれど、案外居心地がよかった。事前のアンケートをも

          今まで住んだ家を振り返る

          青が一番熱い色

           映画『BLUE GIANT』をまた観てきた。世界一のジャズサックスプレーヤーを目指す主人公がバンドを組み、東京一の場所で演奏することを目標に奮闘する。主人公、彼とバンドを組むピアニスト、ドラムをやることに決めた幼なじみ、と3人の葛藤と見せ場を作りながら、全く飽きさせず映画は進む。3人は靴もぼろぼろだし地味な服だけれど、なんて格好いいんだろう。音と映像で、この3人に夢中になる。私はジャズの曲の良さや演奏の良し悪しなんてわからないけれど、惹きつける演奏だってことは、これがこの映

          青が一番熱い色

          悪なき殺人

           元気がなく、心の底から映画が観たくなって、映画館に行ってきた。悪なき殺人。  冬のフランスのとある地方で、女性が一人行方不明になった。女性の車を見かけた者、パリで出会っていた者、隠しごとをしているらしい者、大金を稼ぐ方法を模索する者。複数の、接点があったりなかったりする人物の人生が絡み合い、1つの事件へと収斂していく。  脚本が巧みで、そことここが繋がるのか!と驚きながらのストーリー展開。確かに「悪なき殺人」かもしれないが、「悪意」はある。登場人物それぞれが誰かに向けた「

          悪なき殺人

          『花束みたいな恋をした』のレビューを『キネマ旬報』の読者の映画評に投稿したところ、今月号に載りました。恋愛映画だけれど、「仕事」の描き方がとても心に響き、その視点からのレビューです。

          『花束みたいな恋をした』のレビューを『キネマ旬報』の読者の映画評に投稿したところ、今月号に載りました。恋愛映画だけれど、「仕事」の描き方がとても心に響き、その視点からのレビューです。

          なぜ映画が好きなのか

           なぜこんなに映画が好きなのか。楽しいから、わくわくするから、映像と音楽とストーリーの組み合わせを味わえるから……。今日、映画を観ていて楽しいと感じる瞬間に一つ思い当たった。  これまで観てきたものが「繋がる」瞬間だ。監督やテーマや俳優が意外なところで繋がり、自分の別の趣味と関連したとき。  例えば、私は数年前『愛について、東京』という映画を観た。在日中国人や留学生を主人公に、日本の中国人差別や行き場のない主人公たちを描いた映画だ。なかなか衝撃的な映像だったので、監督のこと

          なぜ映画が好きなのか

          お酒はそんなに好きじゃない

           2023年、もっと生活を充実させた方がいいのではないかという気に襲われた。これは会社員になったことが大きいと思う。4月に働き始めてからあまりに疲れ果て、休日は寝ていたからだ。一方で、毎月収入があるということは気を大きくし、仕事のあとに映画を観るという解放感は、高い映画料金を差し引いてもあまりあった。さらに、もっと人付き合いをした方がいいのではないかと感じるようになったのだ。  私の学生生活は地味だった。もっと前の時代の文學かぶれの学生みたいに、本ばかり読んでいた。サークル

          お酒はそんなに好きじゃない

          映画館にいたい

           映画が始まる直前が好きだ。この瞬間を何度も繰り返したいと思う。  私は映画が好きというより、映画館が好きなのだ。一人だけど一人ではない。2時間だけでも自由になれる。どんなにつまらない映画でもひどい映画でも、観ない方が良かったとは思わない(「それはまだ『○○』を観ていないからだよ」って言われたらそのとおり。『アタック・オブ・ザ・キラー・トマト』とか最後まで観たら後悔したかな)。  だから特に観たくない映画でも、上映時間が合えば観てしまう。とくに働き始めてからは、観たい映画より

          映画館にいたい

          ゆりかもめ

          2年前に書いたもの。   久しぶりにゆりかもめに乗った。何度乗っても、「自動運転」であることに不思議な気持ちになる。「自動車の自動運転」の話が出てきた今ではそんなに不思議なことでもないかもしれないけれど。ハイテクな乗り物が不思議だというより、窓の外に見えるビルではまだFAXを使っているかもしれない、というちぐはぐさが変な感じだ。ここだけが未来のような、それなのに取り残されているような。窓の外にお台場が見えると、「東京」にいるのだという気分になる。  小さい時は、「東京生まれ

          ゆりかもめ

          「私」から始める――2023年に読んだ本

           年々、エッセイやルポタージュへの関心が高まっている。取材したものも興味深いが、自身の経験を書いたものや生活史は強い力がある。そんな本を基準に、2023年に読んだ本から何冊か選んでみた。 1 比嘉健二『特攻服少女と1825日』(小学館、2023年)  「レディース」を取り上げた雑誌『ティーンズロード』創刊から全盛期を、雑誌を作り上げた本人が振り返る回顧録。『ティーンズロード』のことはまったく知らなかったけれど、引き込まれほとんど1日で読み終えてしまった。元旦に集まる「ヤン

          「私」から始める――2023年に読んだ本