とある区議会議員候補の独白(独占入手)

 僕は大きな勘違いをしていた。自分が何か世間から評価されたいっぱしの文化人とでも言おうか、世間でも名の知れた人間になったつもりでいた。ただ選挙に立候補しただけだというのに。そして落選した。無残に落選した。ちなみに3回目の落選だ。
 議員が落選すればただの人になると言われるが、一度も議員になったことがないのだから僕は継続してただの人のままだ。これまでもこれからも。この選挙に僕が立候補していたことなど僕に投票してくれた人々ですら三日後には忘れているだろう。

 勝算はあった。議員の枠は48人で今回の立候補者はたったの70人。東大に受かるより確率だけで言えば遥かに高い当選率。過去の選挙のデータからもたったの2000票得るだけで当選できるのだからツイッターのフォロワーが2000人の僕なら当選できるはずと僕は票を読んでいた。票を読む。ちょっと政治家っぽい表現だ、かっこいい。落選後のショックで体が動かず横になったままフォロワーの中身をぽちぽち見ていたらほとんど地方民とbotしかいなかったのでもっとフォロワーを厳選すべきだったと反省したが時すでに遅し。

 3ヶ月前に僕はこの穴場の区の被選挙権を得るために引っ越してきた。
 それから今日まで3ヶ月の間、時間があると僕は当選した後のことを考えていた。宝くじを買っただけで当選金を何に使うか迷うのと同じ。なんせ区議会議員の報酬は月給が60万円でなぜかボーナスが3回あって。ていうか議員でボーナスってなんだよ意味わからない。そりゃ貰えるものはもらうけれど。
 ともかく年収でいうと900万円になる。たった選挙に受かるだけで年収200万円の僕が年収900万円になれるのだ。このチャンスに挑まない手はあるだろうか?
 いや、ない。

 Fラン卒のフリーターだった僕は氷河期世代であることを言い訳に、いやこれは決して言い訳ではなく政府の失策によって生まれたものであると僕は今でも強く信じているが、なんとか自分が生きるだけで精一杯の生活を送っていた。もちろん僕と同世代でも早稲田大学といったハイレベルの大学を卒業した人には年収900万円程度やそれ以上の収入を得ている人も大勢いるだろうが、この先どう転んでも僕が真っ当な仕事でそのレベルの収入を得るのは生涯無理だとこの歳になれば明確にわかる。この選挙は僕の人生の大逆転をかけた勝負だったのだ。

 僕は当選するために精一杯努力した。ググってなんとなくそれっぽい公約をいくつか探してきた。その中からネットを活用して区を活性化させることを第一の公約にした、今はみんなスマホを持っているしネットはとても大事だ。具体策?そんなんものは職員に考えさせればいいだろ!政治家は方針を生み出すのが仕事だからね。具体的な案なんか別に考えなくていいんだよ、大きな流れを示すのが政治の仕事。具体案を考えるのは公務員の仕事だ。僕たち軍師は大局を、仔細は部下に。
 後はそうだね、表現の自由を大事にしたいな、と思った。結構テレビでも話題になってたし、漫画の違法アップロードとかさ。そんなの区議会議員の仕事じゃないの?え、そうなの?まあ投票者もそんな細かいことは気にしないでしょ、僕が投票する時も別に政策なんか気にせず可愛い女性候補に投票してきただけだし。今までも、これからも。ふふふ。

 はっとした。ようやく気づいた。そうだったのだ。僕はただの冴えないメガネ野郎だ。可愛くも美しくもない。女性でもない。そんな僕が当選できるわけなかったのだ。後ろ盾のある人か見た目の良い女性、それ以外の候補が受かるはずなんてなかったのに!僕は自分の愚かさを恨んだ。
 改めて当選者48人の内訳をみると有名な党の所属以外ではほぼ若い女性しか当選していなかった。民主主義 is DEAD!
 そう、最初から僕は詰んでいたのだ。僕に投票してくれた800人(ちなみに当選には2000票必要だった)以外は反省してほしい。もっと真面目に政治を考えて投票してほしい。民主主義とはなんぞや?次の選挙までに考えといてください。

 それではみなさん、次の選挙でまたお会いしましょう。次はあなたの選挙区で立候補するかも知れませんよ?その時はどうぞ清き一票をよろしくお願いいたします!

終わり

 

  

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