ドクターショッピングをしていた頃の話

前回の記事でメンタルが死にかけた話をしたが、2016年の4月から半年間、わたしはドクターショッピングを繰り返していた。個人的にはセカンドオピニオンだと思っていたのだが、確定診断を持って別の医者に意見を訊きに行くのがセカンドオピニオンであるのなら、わたしのそれはドクターショッピングだった。確定診断が出ないから身体の不調の原因が知りたくていろんな病院を訪ね歩いていた。この病院なら検査をしてもらえると確信を持って訪ねたこともあった。つまりストレスからくる身体の不調が大きな病気なのではないかと不安になって、なんともないことを少しでも早く証明したかったのである。

そもそもわたしはストレスでメンタルが死ぬまで、風邪を引いたときくらいしか病院に行ったことがなかった。2年に1回くらいの割合で胃腸炎になっていたので元々胃腸が弱めだったのだろうが、けして今ほどではなかった。現在のわたしの胃腸はストレスによってすぐに調子を崩す。それでも大分マシになった方だ。とりあえずお腹が空くので、まだ大丈夫だと思っている。前回の記事でお腹が空くうちはまだメンタルを崩し切っていないという話をしたが、食事が喉を通らなくなってからが本番だ。だからまだご飯が美味しく食べられているあなたは、全然元気に生きていける。

そもそもなぜ、忘れもしない2016年4月に病院に行ったのか憶えていない。風邪とかではなかったような気がするので、胃が痛かったから行ったのだと思うけれど定かではない。とにかくわたしは病院に行って、「胃が痛いのなら胃カメラをする」という医者の言葉に従った。けれど今になって思うが、痛い場所がおそらく胃の位置ではなかった。散々自分の身体の症状を調べまくった結果、医療従事者でもないのに臓器の位置が完璧にわかる。大体この辺が痛かったらたぶんここの臓器、という具合だ。それは現在の主治医が教えてくれた、と言うこともある。そして大体が胃腸の痛みだ、ということもわかっている。

最初に行った病院は、風邪を引いたときに受診していた掛かりつけだった。そもそも今では考えられないくらい丈夫だったわたしは、掛かりつけ医を持っていなかった。やっている日にちと時間によって、ふたつの病院を使っていた。最初の病院は祖父の主治医がいる病院で、県内屈指の総合病院の分院だった。胃カメラとエコーの結果異常はなく、胃薬を処方された。その胃薬は度々その先生から処方された、日本でよく見る一般的な薬だ。けれどそれは気休めほどにも効かなかった。そもそも、その先生はわたしの症状をストレスだと決めつけている節があり、診断する前から処方箋を持っていた。先生にとってわたしは「君は原因がないことを証明しないと駄目な子」で「本当に病気だったりしなかったりする子」だった。それは本当にその通りで、けれどなにもないと思ってもわたしの症状は改善しなかった。常々胃もたれするようになっていて、ご飯を食べてもすぐにお腹がいっぱいになってしまう。元々食べるのがだいすきだったわたしからすると考えられないことだった。そして体重が意味もなく減り始めた。

その頃のわたしはともかくこの症状が長引くごとに、胃がんだったらどうしようという不安に苛まれていた。どうにか違う要素を探したくてインターネットで検索しては、「ストレスだと思っていたら胃がんだった」とかいう記事にぶち当たる。友人にもう検索はするなと言われた。怖い記事が出てくるとわかっているのに、大丈夫だという保障をインターネット上に求めてしまう部分は誰にでもあると思う。けれどそこに正しい答えはないし、知恵袋で答えているのは8割医者でもなければ医療従事者ではない。症状を診断するのは医者だ。その頃のわたしは少なくとも2週間に1度病院に通っていた。その頃ストレスからくるデリケートゾーンのかゆみに苦しんでいて、産婦人科と皮膚科の往復もしていた。薬を塗っても呑んでも症状が改善しないので、なにか悪い病気なのではないかと思う気持ちが自分を追い詰めた。その頃は仕事のストレスと体調不良のストレスで、よく生きていたなと思う。さっさと心療内科に行けばよかったのだろうけれど、メンタルよりも身体症状方が強かった。

とにかく色々な病院に行ったので、診察券がめちゃくちゃに増えた。デュエルできるくらいでしょ?なんて笑う友人もいたが、正直その頃のわたしには笑い事ではなかった。色々な病院で様々な検査を受けた。そのどれも異常なしだった。つまり目に見える部分で診断する限り、わたしは健康そのものだった。しかし症状はある。大体の医者は最終的にストレスだと言った。そして1度ストレスだと決めつけると、その症状はストレス以上のなにものでもなくなる。叔母から紹介された病院の先生(これはわたしの3件目の病院だ)は中国人の女医さんで、わたしの話をよく聴いてくれた。この人は元々総合病院の循環器内科で働いていた先生で漢方薬にも詳しい。しばらく漢方薬を呑んでもみた。これもあんまり効果は出なかった。この先生に言わせると「本当に胃が悪い人は体重が減る」。わたしは1週間で6キロくらい体重が落ちていたが、それはまだまだ病気の範疇ではないらしかった。

展示場の担当になったことでストレスフルになった、と前の記事で書いたが、これが終わりに近づき体調が若干回復した頃、遂にわたしは現在の病院に辿り着き、主治医に出逢う。最近体調がいいなぁと思っていた矢先、便の先に鮮血が付着していたのだ。しかも結構大量に。ビビッて女医先生のところに駆け込んだ。大腸検査ができますよ、と病院のHPに書いてあったからだ。先生は検査の方法には3つあると言った。①腸にバリウムをいれてレントゲンを撮る方法。ただしこれは放射線なので、これから妊娠するかもしれない人にはお勧めしない。②大腸内視鏡検査。③大腸CT。大腸内視鏡は嫌だなぁとこの期に及んで思っていたわたしは③を選んだ。その検査ができる県内唯一の病院が現在通っている病院である。そしてわたしは名医に出逢った。

現在通院しているその病院は入院施設のない街のクリニックだ。高齢者が多い田舎なので、クリニックでも医療設備が充実している。先生は元々総合病院の医局長をしていた方で、おそらく外科医だ。そして専門は外科と消化器外科だが、総合内科医でもある。診れないのは耳と目と歯と産婦人科系くらいで、乳の症状まで診てくれる。ここは主治医のお父さんが院長先生だった頃、子供だったわたしが何度かお世話になった病院だった。地元では評判のクリニックで、小児科も併設しているので子供からお年寄りまで、いつ行っても混んでいる。主治医はわたしの症状に関してストレスだと決めつけなかった唯一の医者だった。そして症状に色々な疑いを持ってちゃんと検査して大丈夫であることを証明してくれる。わたしにとっては救世主だ。

2016年は12月に再び胃カメラをした。鼻から入れる胃カメラをわたしは今までで3回経験しているが(4回かもしれない)、正直言って結構つらい。鼻からだから楽だ、と先生は言ったが、わたしは鼻の気道が細く、終わったあとで鼻血が止まらなくなった。胃酸が多いので結局えずいて吐く。もう身体の力を抜いてトドのようにひたすら無になる、というのがいちばん楽であることに気付いた。それで初めて慢性胃炎という診断がついた。それから1年後、逆流性食道炎が持病になった。ストレスでぶり返したりはするけれど、今は薬で症状が改善している。月に1度薬を貰いに通院している。

ちなみに大腸内視鏡検査は昨年の11月に受けた。これはわたしがメンタル死にました宣言をしたあと、腸から血が出た原因を調べるためにやった。マンモグラフィも死ぬほど痛いが、大腸内視鏡も死ぬほど痛かった。身体の中が滅茶苦茶痛い。出産の痛みってこんな感じ!?という感想だった。ちなみに出産はしたことがないからわからない。大腸CTのときに下剤を体験していたけれど、このときは正直呑み切れなかった。2時間かけて呑んでください、と言われていたが絶対無理だと思ったので3時間かけて呑んだ。キンキンに冷やして氷を入れて、とにかく冷たくして呑んだ。15分で1杯を目標にして無理はしない。呑み続けているうちに便意もないのに水が出る。不思議な感覚だった。これから下剤を呑まれる方はしっかり冷やした方がいい。不味さが激減する。それと水を間に挟んだ方がいい。どうせ流れ出てしまうので、腹がいっぱいになるなんてことはない。特に異常のなかったわたしは過敏性腸症候群という病名に確信を得た。下痢と便秘を繰り返し、卵白みたいな便が出たこともある。先生には良性疾患の潰瘍性大腸炎かもしれない、と言われたが、そうでなくて本当によかったと思う。

様々な病院に行く利点もどこかにはあるのだろうが、ひとつの病院を見つけて通い続けた方が、自分の症状の変化がわかるなということに気付いた。いろんな病院でいろんな検査をしても、結局検査結果はそれぞれの病院が所持していて共有されることはない。それから薬は効くと信じないままに呑んでも効かない。この薬を呑めば大丈夫という気持ちが必要だ。わたしの主治医は正直誰から見ても名医なのかと訊かれるとよくわからない。けれどわたしにとっては間違いなく名医だ。優しくて気さくで明るいので、この人に「たいしたことない大丈夫」と言われると本当に元気になる。だからわたしは健康を買いに病院に通っている。病は気からと言うのは本当だと思う。

病気になっても病院に行かない日本人が多い世の中だが、原因はストレスだと自分で決めつけるのはよくない。病院に行け、と強く言うわけではないが、大丈夫だとわかるだけでも症状がかなり緩和されることもある。そして健康な人ほど自分を甘く見ている。風邪だと高を括っていた友人がこの前熱中症でぶっ倒れた。これだから健康な奴は自分を甘く見過ぎてる、と正直そのときは思った。体調不良の人間は自分の過信で周りに迷惑を掛ける可能性をしっかりとわかって行動しなければいけない。具合が悪かったら休む、といういちばん大切なことを、どうして日本人は忘れてしまっているのか。自分の身体以上、命以上に大切なことなどこの世にありはしないのだ。


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