銀行員の仕事   (営業係)_4_年金獲得

年金は、昔、60歳から支給されてい

た。

今は、65歳かららしいが、田中が年金

を受給するのは、まだまだ先の話であ

り、あまり実感がない。

営業係の田中の1日の大半は、前述した

期日管理と年金の獲得だ。

半期(6か月)ごとに、本部から

支店にノルマが通知される。

当時は、年金獲得が最重要ノルマであっ

た。

本部から紙ベースで、顧客情報一覧が送

られてくる。

その中から、自分の担当エリアで60歳

以上、かつ年金の受け取りが自行で

ない顧客をピックアップし、管理資料を

作成する。例によって、持ち帰り残業

だ。

田中の訪問先は、期日管理5件、

年金獲得15件、その他数件という毎日

であった。

期日管理には、すぐ慣れた。

しかし年金獲得は、困難を極めた。

「こんにちは、九州銀行です。今日は良い天気ですね」

「何回、来られても年金は農協から変えないわよ」

「そこを何とか、お願いできませんでしょうか」

「帰ってちょうだい」

「また、伺います」

来る日も来る日も、この繰り返しであっ

た。顧客が年金の受け取り先を、農協

(他行)から、九州銀行に変える

メリットがないのだから、必然的にお

願い営業になる。

上記の繰り返しを、顧客が根負けする

まで行うこと。

それが営業チーフからの唯一の指示であった。

週に1件ペースで年金を獲得するのが、

ノルマだ。

毎週、金曜日の夕方、ノルマ未達の者

は、営業チーフから詰められる。

「田中、年金のノルマ、出来て無いけ

ど。どうすんの。」

一緒に見込み先を訪問するか?

といった建設的なアドバイスは無い。

「年金、取れるまで、帰ってくんなや」

日が暮れた中、田中は再度、年金獲得

の為、顧客を訪問する。

「何回来ても、無理なもんは無理」

途方に暮れながら、20時頃、支店に帰

る。

「来週は、年金2件、獲得出来るよう、

土日でしっかり考えてこい」

21時過ぎに退行した田中は、

暗い気分のまま自宅に帰った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?