経済学の原則から考える、ポケカの転売

最初に

私、社会人になってから仕事しながらこんなとこ通っていた時期があります。

https://www.fs.hub.hit-u.ac.jp/

所謂MBAってやつです。
といっても特に日本のMBAは行ったからといってそれ自体にいいことがあるわけではありません、せいぜい履歴書の足切りにかかりにくくなるぐらいでしょうか。

学生時代、博士課程を「足の裏のお米粒」と言われるのを聞いたことがありました。

その意味は「取ったところで食えないが、取らないと気持ち悪い」ということで、
上手いこと言うな、と思ったものです。
国内MBAもこれと同じような印象を持っています。

ではなんで行ったのか?というのは色々背景はあるのですが、一番の理由は
「単におもしろそうだったから」です。
実際におもしろかったし、そこで学んだことは役立っているので行ってよかったと思っています。

そんな経験から、もはや話題になりつくした感もあるポケカの転売について書いてみようと思います。

さて前置きはこれくらいにして本題です。

なぜ価格が高騰するのか?

これは単純な需給のバランスの問題です。
価格は需給曲線によって決定されると言われています。教科書にも良く出ている、需給曲線の交わる点ですね。

需給曲線、本当は曲線なのだが、描画するのが面倒なので直線で書きます

人気が出て需要が上がっているため需要曲線が右側にシフトします。

それに対して供給量も増えれば価格は変わりません。

しかし実際には供給量は増やしているが需要の伸びに追いついていないため、均衡価格は上がる、という構図です。

供給が需要に追いついていないのは単純な生産能力の場合と、市場価格は高い方が供給側としてはありがたい、また供給を増やしすぎると逆に価格が暴落してしまうのであえて供給力を上げない、という選択もあります。今回の場合はその両方に見えますね。

投資と投機の違い

ポケカ取引は投資か投機か、という話が出ますが経済学の観点から言えば「投機」に当たると思います。

投資と投資の違いについては、原則的にはどちらも「何らかの資産にお金を投じ、その価値の増加により利益を得ること」という点でどちらも違いがありません。原則に違いがないのではっきりとした分類が難しく議論になりやすい理由でもあります。

その両者の違いについては以下のような点があります

  • 時間の長短、長期で行う傾向があるのが投資、短期で行う傾向があるのが投機

  • リスクが低い傾向があるのが投資、リスクが高い傾向があるのが投機

  • プラスサムゲームである傾向があるのが投資、ゼロサムゲームである傾向があるのが投機

いずれも「傾向」と書いてあるのは前述の通り明確な線引きはなく、どちらにも当てはまるがその強弱が違う、という意味合いがあるからです。

最後のプラスサムゲーム、ゼロサムゲームについて解説しますと

  • プラスサムゲームとは、市場の資産の総量(お金)が時間と共に増加する市場を前提とする、つまりは参加者全員が得をする可能性もある市場

  • ゼロサムゲームとは、市場の資産の総量が変わらない市場を前提とする、つまりは誰かが得をすれば誰かが損する市場

一般的な投資、株式、債権等の投資は「世界市場は成長する」ということを前提にしています、つまり長い目で見れば、それと同じぐらいの割合で資産が増えていく、という考えで進めます(これをリスクフリーレートと言ったりします)。
実際これまでの世界経済は短期的な上下はあってもずっと成長し続けています、また今後も成長し続けるという前提で話がされています。今後世界的に甚大な打撃を与える自然災害や人類の人口が大幅に減少することにより世界経済自体が縮小する可能性はないと言えません。しかしその可能性の算定は難しく、それを考えると何も考えられなくなるため市場は成長する、という前提で話がされています。

一方ポケカ取引はどうでしょうか?ポケカが出てからずっと成長している、ゼロサムゲームでなくプラスサムゲームだ、と思う方もいるかも知れません。しかし過去にも数十年に渡り隆盛を極めていた市場が数年で没落する例など数えればキリがありませんし、一企業、一コンテンツに依存した市場というのは非常にリスクが高く、長期的に成長する市場、ということはできません。

こういったことから、ポケカ取引は投機ということができます。

投資の原則

投資は「分散投資」という考えを原則としています。

  • 大きなリターンを見込めないが損をするリスクも低い国債のような投資、

  • リターンも大きいが損をするリスクも高い株式投資

  • 株式の中でも、日経平均、S&P500などに連動した価格で取引されるETFと呼ばれる株式

  • 個別株式でもトヨタのような短期的に2倍、3倍になる可能性は低いが確実にリターンが見込める株式

  • ベンチャー企業のような上手くいけば10倍、100倍になる可能性もあるが倒産して価値が0になるリスクもある株式

こういったものを個人がどの程度リスクを許容するか、あるいはリスク好むかに応じて分散していきます。

ポケカという単一の商品にお金を投じることは、それ自体のボラティリティ(価格変動)も大きく、全く分散投資もできていないので、これはやはり投資いうことはできませんし、もはや投機ですらなくギャンブルと言ってもいいように思います。

ギャンブルもこういった投機も、一部それで大勝ちする人がいて、そればかりがクローズアップされます。しかしこのようなゼロサムゲームではその裏に大量の「ゼロ」がいることを忘れてはいけません。

トレーディングカードゲーム市場は当分なくなることがないと思われるので、ポケカだけでなく他のカードゲーム、トレーディングカードにも投資をしているのであればリスクが分散されているので投資と呼ぶこともできるかもしれませんし、実際多くのカードショップは複数のカード、さらにはその量、種類を担保することによりリスク分散をしています。

その意味で、ポケカ専門店とかこんなリスク分散できていないことよくやるなー、と思います。プレイヤーとしてはありがたいし応援したいですが、基本的にはタピオカ屋やからあげ屋や高級食パン屋と同じような類の流行りに影響されやすい商売だと思っています。

「転売」という行為について

よく、商社だってモノを右から左に流しているだけじゃないか、転売と一緒だ、という話を聞きますが、それは違うと断言することができます。

これに限らず、ビジネスの原則は「その企業(個人)活動により付加価値が生まれ、その付加価値に顧客が対価(お金)を払う」というものです。

食料品であれば、人が生きていく、おいしいものを食べたい、という人間の欲求を満たすことができ、それに対してお金を払うのであるし、
ゲームであればそれによってプレイヤーが楽しい時間を過ごす、その価値に対してお金を払います。
商社というビジネスは「モノを仕入れ、運ぶ」ということに対して顧客が価値を感じ、それに対して対価を支払います。例えばですが、海外にそのモノがあり、普通の人ではそのモノを手に入れることができない、あるいはわざわざ海外に行ってそのモノを探して運んでくるには大きなお金と労力がかかります。
それを商社がモノを探し、運び、安定して供給することに高い価値があり、それに対して対価を支払うためにビジネスとして成立します。

カードショップという商売も欲しいカードを1枚ずつ探して、入手する手間、あるいは1枚ずつ売却先を探して交渉する手間、そういったものを省いてカードショップに行けば欲しいカードが手に入り、不要なカードを販売できる、そういったところに価値があるためビジネスとして成り立ちます。
人気カード、希少カードが高額で取引されることは冒頭の需給のバランスにより発生する正常な市場原理であるため自然なことであるしどうやっても発生します。

一方いま行われている転売という行為はどうでしょうか?
転売ヤーが行っていることは一般の顧客が普通に購入できるものを買占め、供給量が少なくなって価格が上がったところで販売する、という行為です。
「顧客の不を解消する」のがビジネスの原則です、しかしこの行為は不を解消するどころか顧客の不を生み出しています

これはビジネスということはできません。

最後に

このように転売行為は変動が大きく、期待値としても基本的にはゼロかマイナスであります。
自分はそれを勝ち抜ける、という自信があるのであればどうぞやればいいし、顧客の不を生み出す行為を胸を張って行える図太さがあればやればいいと思います。

私はそんな市場で得をするセンスがあると思っていないし、そんなビジネスと言えない行為をしたいとも思わないのでやりません。たまたま不要でレアリティが高いカードがでたらそれを適正価格で販売するぐらいでいいと思っています。

また、いちプレイヤーとして見れば、転売ヤーが横行するこの状況はそれほどマイナスではありません。理由は転売対象になるのは一部のレアリティの高いカードだけで、その裏では同じ効果のノーマルカードは大量に流通するようになっています。

冒頭に書いたように需給の原理からいうと大量に流通するということは低いレアリティのカードの価格は逆に下がることになります。なのでプレイするだけならパックやボックスを無理して買うよりも、必要なカードだけ低いレアリティでシングルで買っていった方が楽に安く集まるようになっているように見えます。

ただ、何が出るか分からないカードを開封する、というのがトレーディングカードの楽しみなので、それを子どもに提供しにくくなっているのは残念ですね。

数年前のジムバとかに出て、その帰りに子どもと数パック買って開封結果で一喜一憂していた、ささやかな楽しみを得ていた時代が懐かしいです。

これだけ情報の流れが速くなった現在、転売ヤーという人間が減ることは残念ながらないと思います。ただ歴史的にも経済の原則から見てもその大半は損をすることになる(あるいは得た利益に対して労力が見合わない)し、付加価値を生まないビジネスが持続しないことは歴史が証明しています。

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