見出し画像

お客様相談センター窓口係を辞めました

お客様相談センター窓口には、色々な電話がかかってくるそうだ。
以前勤務していた会社の同じビル内にはコールセンターがあり、たまたま知り合ったかたが、そこに勤務していらっしゃった。
お話を聞くと、驚くような内容が盛り沢山で、よく冷静に対応できるものだと尊敬の念を抱いたほどだ。

私は、自分で言うのもおかしいが、人当たりが良くて、話しやすい人物のようだ。
Ditoさんには、何故かこんな事まで話してしまうとか、気付いたらここまで話してしまっていたとか、相手に驚かれる事もある。
それは、私にとっては嬉しい事で、些細な事でも話してくれたり、喜びや悲しみも共有できる事はありがたい。

しかしここ数年、私がいつも以上に疲れている事に気付いてくれたパートナーが、何か困っていることがあるのかと声を掛けてくれた。
その時、私は全く気付いていなかったのだが、私の悩みの多くは、他人の悩みから発した悩みだったのだそうだ。
私は自分に相談してくれる人々の心のケアに時間を取り過ぎて、自分自身のケアが追いつかなくなっていた。

ねぇ、Ditoが誰かのために何かをしてあげたい気持ちは素晴らしいし、誇りに思うよ。
でもね、Ditoは自分をKummerkastenにしちゃいけない。
誰だって悩みがあって、時にはそれを自分で解決することも必要なんだ。
いつでもDitoから優しい言葉をかけてもらったり、不機嫌をぶつけるだけの存在になったり、一緒に問題を解決する事が習慣になってしまうのは、まずはDitoにとって良くない。
そして長い目で見たら、相手にも良くないことだよ。

Kummerkasten。直訳すると苦情箱。
ドイツ語版のお客様相談センターと言えるだろう。

えっ?私は苦情箱なの?
私はその言葉を聞いて、驚いてしまった。
相手の気持ちに応えてあげたくて、自分の時間を削り、頭を悩ましていたのに。

でもたしかに、私がどんなアドバイスをしても、でもね、だってね、と言い訳ばかりを並べて行動に出ない人も大勢いて、何も改善していない事に思い至った。
他人の欠点ばかりに焦点を当て、延々と誰かの文句を言い続ける人もいる。
なるほど、文句や不満を聞いてくれる相手が欲しいだけの人もいるのだ。
それはまさに、苦情箱と言えるだろう。

私の事をよく見ているのだなぁと、私はパートナーの視点に驚かされる。

それから、私を疲弊させていたのは、不機嫌を撒き散らす人だ。
私の近くにいるいつも不機嫌そうなある人は、周りを自分のペースに引きずり込む。
わざと大きな音を立てて物を動かしたり、高圧的な物言いをする。
その人がいるだけで、場が重く感じる。
私は、毎日その負のエネルギーを間近で受け続け、自分を疲弊させていた。
その人をこれ以上不機嫌にさせないようにと、私は考え付くあらゆる手段を講じていた。

嫌われる勇気、という言葉を初めて目にしたのは、いつの事だっただろう。
私はその言葉を見て、ドキッとした。
私には、この勇気が足りなかったのだ。

私の左側の席には、その人が座っているからなのだろうか。
ストレスを溜め込み過ぎると、私は左半身に痛みを感じるようになっていた。
その痛みは、時には息が出来なくなるほどの激痛になり、寝返りを打つ時も私を困らせ、熟睡することができなくなっていた。
生理も止まり、偏頭痛に悩まされた。

もう、やめよう。
あの人の不機嫌さに、私はこれ以上覆い尽くされたくない。
嫌われてもいいじゃないか。
そう思った途端に、ずっと重く感じていた左肩が、スッと軽くなった。

あの人だけではない。
世の中には、不機嫌ハラスメントをする人がたくさんいる。
人よりちょっと敏感な私は、そんな人が近くにいると、疲弊してしまうのだ。
そんな人のために、自分を疲弊させるのは、もうやめよう。

人をけなす必要などない。
疲弊する必要もない。
どこにでも同じような人がいる。
私は、それらの人を空気のように扱う術を、少しだけ学んだ。

正面からぶつかると、面倒な人たち。
周りを嫌な雰囲気に引き摺り込む、コミュニティクラッシャー。
他人のエネルギーを吸い取るかのような、エナジーバンパイア。
人をけなすことでしか、自分の立場を守れない人。
驚くような淺ましさで、他人を利用する人。

そんな人とは距離を置き、同意を求められても、決して賛同しないこと。
なぜなら、私『が』それを言っていたと誇張して吹聴されるからだ。

私は勝手に背負い込んでいた肩の荷を下ろし、心が軽くなった。
誰にでも優しくするより前に、私は自分に優しくあるべきだ。

置かれた場所で咲きなさい。
この言葉のように、私はその場で頑張る事を良しとしていた。
どんな人とも良い関係性を築くことを、どこか目標にしていたのかもしれない。
しかし、私は成熟し、種を作り、たんぽぽの綿毛のように飛んで行ってもいいのだ。
その場が私の新しい『置かれた場所』になる。

これからも、大切な人の為には時間を作る。
でも、もしただの苦情箱の役割ならば、私でなくとも良い。
別の苦情箱を探してもらおう。

お客様相談センター窓口係、卒業宣言だ。

この記事が参加している募集

眠れない夜に

今こんな気分

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?