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ドイツの卒園式と入学式

日本は春が卒業・入学のシーズンだが、ドイツは秋が新学期のスタートだ。
正確には、夏休みが終わってからがスタートなので、例えば今年のNRW州では、8月7日が小学生の入学式となった。

数年前に、姪っ子が幼稚園を卒園した。
ビデオ通話をする度に「幼稚園から放り投げ出される日まで、あと○○日なの」と話して聞かせてくれていた。
それが卒園式を指す事は分かっていたが、その日に動画が送られてきて、ようやく本当の意味を理解した。

姪っ子は、幼稚園の玄関前で二人の先生の間に立ち、脇の下と足を持たれ抱え上げられる。
そして、先生がたは姪っ子を空中で左右に揺らし「さあ、あなたを幼稚園から放り出すわよ!」と歌うように台詞を言い、前方に敷いてあるマットの上に「放り投げる」のだ。
(もちろん、放り投げる訳ではなく、そっとマットの上に置かれる)

姪っ子はマットから起き上がり、両親に向かって駆け寄ってきて「放り投げられたよ!」と嬉しそうに話すところで、その動画は終わっていた。

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姪っ子の小学校の入学式が迫った夏休み、果たして何名が式に参加できるのか、私達はその決定を待っていた。
その年、コロナの状況は悪化する一方で、入学式会場への参加は、人数制限があるだろうと予測していたからだ。

姪っ子は、Ditoは入学式に来てくれるよね?と何度も聞いてくる。
たとえ式に出席できなくても、もちろん会いに行くと約束した。

8月の終わりに、ようやく入学式の参加者人数の決定が下された。
参加が認められるのは、1生徒につき4人まで。
残念だが、仕方のないことだと諦めるしかなかった。

しかし、みんなから、Ditoは入学式に参加してねと言われ、私は心底驚いた。
私抜きで、家族内ですでに話し合いがされていたようだ。

義理の弟夫妻には3人の子供がいて、今回入学する姪っ子は末っ子。
私は、上の2人の入学式には参加できていない。
家族のみんなは、自分自身で小学校の入学式を体験し、保護者として上の2人の入学式にも出席している。
だから、一度もその経験をしていない私に、是非その様子を見せたいと言ってくれた。

本当に私が参加してもいいのかと、少しばかり悩んでしまった。
しかし、これは家族みんなが決めた事で、何よりも姪っ子が私の参加を望んでいると説得され、ありがたく参加させてもらう事に決めた。

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ドイツの小学校の入学式。
子供達は、三角の円すい形をしたプレゼントをもらう。
Shultüte シュールトゥーテと呼ばれるもので、直訳すると 学校 と 袋 の意味だ。
この中にこれからの学校生活で使うもの、おもちゃ、お菓子など、子供達の大好きなプレゼントが入っている。

姪っ子は、あんぱんまんに続き、最近はピカチュウがお気に入りだ。
入学式にプレゼントしようと、ピカチュウグッズを探し回った。

入学式当日、姪っ子の家に向かうと、いつもよりオシャレをした姪っ子が、玄関前で待っていた。
緊張しているのか、ちょっぴり口数が少ない。

入学式は、二部構成。
まずは、教会でのミサから始まる。
姪っ子は、時々私達のほうを振り返り、笑顔を見せてくれる。
入学式にミサがあることは、子供を持つ友達から聞いていたものの、とても新鮮だった。
キリスト教を信仰していない人はどうするのか聞いたところ、ミサには参加しなくとも良いのだそうだ。

本来は小学校で催されるという、在学生達が演出するウェルカムセレモニー。
人数制限のために小学校に入れないことから、その年は教会内で行われた。
2年生から4年生まで、それぞれの学年の生徒さんが、新入生歓迎の歌やダンス、詩を披露してくれた。

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場所を小学校に移し、子供達だけが教室に入り、初めての授業が30分ほど行われた。
それから、両親だけが教室に向かう。
保護者達の手には、シュールトゥーテがある。
このプレゼントが、教室内で渡されるのだ。

しばらくすると、姪っ子が教室から飛び出してきた。
大きなシュールトゥーテを抱えて、輝くばかりの笑顔だ。

小学校から家まで、姪っ子の通学路になる道を、みんなで手を繋いで歩きながら家に戻る。
初めての授業で何をしたのか、クラスメイトのお話、先生のお話、一緒の幼稚園に通っていた大好きな男の子の隣に座ったの、と嬉しそうに話してくれる。

一生懸命に話す姪っ子を見ながら、私は色々な事を思い出していた。
初めて会った時、母親の後ろに隠れ、そっと顔を出し様子をうかがっていた姪っ子。
今は、Ditoが入学式に来ないとダメだと駄々をこね、会えた時にはたくさん我がままを言い、私を引っ張り回してクタクタにさせる。
今は日本語で自己紹介と、5までの数字が言えるようになった。

姪っ子が「私は今日ね、休憩時間もなく授業を受けたよ!」と得意そうに話し、私達は思わず吹き出して笑った。
たった30分の授業だから、休憩時間はなかった。
姪っ子は、学校では『授業』と『休憩時間』があると教わっていたそうだ。
だから、休憩時間がないまま一日が終わったので、とても頑張ったと感じたのだと説明してくれた。

それは、本当にその通りだ。
入学式前の緊張した顔、初めて会うお友達、環境の変化を身体いっぱい受け止めていた事だろう。
緊張のあまり泣き出してしまう子もいた中、姪っ子は、とても頑張った。

家に着いてから、私達からのプレゼントを渡す。
ピカチュウグッズに、歓喜の声をあげる姪っ子を見ると、探し甲斐があったと私まで嬉しくなる。


全部のプレゼントを開け終わると「初めての宿題があるの」と、姪っ子が一枚のプリントを出した。
自分の名前を書き、線をなぞったり、同じ形のものに印を付けたりする課題だ。
姪っ子は、初めての宿題を、みんなに囲まれながら一生懸命に解いている。

まだ使い慣れないペンケース。
色とりどりの鉛筆を使って宿題をしているのだが、鉛筆を一回一回大切そうにペンケースにしまう。
そんな几帳面な姪っ子が、本当に愛おしい。

課題の最後は「あなたの家族から、あなたの入学式の日の願いを書いてもらいましょう」というものだった。
姪っ子は、私のパートナーに、それを書いて欲しいと渡した。
その後に「Ditoは日本語で書いてね」と言い、私に課題を渡した。
「あのね、先生に会ったら、Ditoが書いた文が読めるか聞くの。きっと分からないだろうから、私が説明するの!」
何とも可愛いらしい計画だ。

小学校でたくさんの楽しい思い出ができるように、心から祈っています

みんなは、私が書く日本語を、不思議そうに覗きこむ。
「ねえ、この点々の意味は、なぁに?」
「どうして、こんなに難しい文字をスラスラ書けるの?」
私にとってはドイツ語を書くより簡単だと答えると、アルファベットのほうが簡単に決まってる!と子供達が反論する。

「ところで、この文章の意味は、なぁに?」

私は、ゆっくりと日本語でその文章を読み上げてから、ドイツ語でその意味を教えた。
姪っ子は小さな声で繰り返してから、こう言った。
「先生に教えてあげなくちゃ!」

この日の主人公は、間違いなく姪っ子だ。
そしてこうして私に、子供達の成長を、家族の一員として見守らせてくれる幸せに、心が震えるようだった。
姪っ子だけではなく、私にとっても、この入学式は忘れ難いものになった。

さぁ、姪っ子が私の身長を抜かすのは、いつになるだろう。
すでに足のサイズは同じだ。
あと数年で、私は家族で一番のおチビさんになる。
そして、その時が来るのを、私は今から密かに楽しみにしている。

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甥っ子、姪っ子達との思い出

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