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八十三歳の花咲爺

八十三歳の花咲か爺さん

若いときは
工場で一生懸命働いた
三人の子どもに恵まれ
一戸建ての家も建てた

ある日突然
熱が下がらなくなった十才の一人息子
懸命の治療にもかかわらず
あっという間に亡くなった

哀しみの中
娘の二人と妻のため
黙々と働いた

やがて娘たちは一人立ちし
そろそろお偉いさんになろうという頃
工場にパソコン導入
使えなければ仕事にならない
それでも使いこなせなかった

いつしか精神を病み
妻は離れていった
入院と薬づけ

退院してからは花を育てた
沢山の花、庭いっぱいに
そうして元気になっていった

爺さんは、漁師の息子
花の好きな男の子だった
だけど父や兄は
男のくせに花が好きとは
なさけないと言った

戦争があった
田舎から出て来て
高度成長期を支えてきた

今は杖のお世話になっている
花づくりはできなくなったが
唯一、妻が戻ってきた

ある日爺さんが
静かに話す

5才の頃から花を咲かせていた
小学校に上がっても
花を咲かせることが大好きで
あんまり上手に咲かすもんだから
近所のおばさん達がもらいにきたって

お母さんも花が好きな人で
花を咲かせるといつも褒めてくれたって
そう言ってにっこり笑う

八十三歳の花咲か爺さんは
少年の眼をしていた

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