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実家の猫、人間説。


もう今年で15才になる実家の猫。
朝から昼は祖母の膝の上で眠り
母が帰ってきたら料理中も足元から離れない
お客さんが来たらスッと隠れてしまう猫様だ

そんな猫が一昨日、死んでしまった
悲しい知らせは朝いちで母から届く
動物霊園に火葬する前の写真が添付されていた

本当に眠っているだけみたいだった
ちゅーるを2本といつものカリカリを持って
花で埋め尽くされていた
本当の本当に死んでしまったのだと実感した

15年前に我が家の裏庭でガリガリの状態で
倒れているところを母に保護された

当時20年近く生きたワンコが死んだ直後で
喪中な雰囲気の家だった
そんな中突然迎え入れられた手のひらサイズの猫

すぐにダンボールで保護して動物病院で検査して
薬やミルクをもらい世話をした

父が帰宅して猫が大嫌いな父が眉間に皺寄せていた
「来週、芝犬の譲渡会見に行くって言うてたやろ」
と母に文句を言っていた

だが実家のルールブックは基本、母。
最終的に猫派4票で可決

「そんなん言うても…こんな子ほっとく訳にはいかんやろ」

猫の安全が保障された
手を近づけるとシャー!シャー!と威嚇してくる
シャーシャー仔猫だった

それでも手を出すと噛まれた
プチっと細い牙が指に刺さった
画鋲みたいな傷で、か細い痛みだった

家族全員が帰宅して名前を考えた

「みーつめる…キャッツアイ」と兄が呟き
…♩(マジィック プレイイン ダンシィンッ)
「緑色に光〜るぅ」と私が歌う

目が緑色だったのだ

ルイ、ヒトミ、アイから名付けることになった
最終的には父が決めた

のちの【推しの子】でいう究極で無敵のアイドル、金輪際現れない一番星の生まれ変わりの名をもらう。

アイ。


あれだけ反対していた父も今ではメロメロだ

猫専用のシャンプーを買い
一緒にお風呂に入っている

コロナの時に父が在宅勤務の時は
猫も父の布団で寝ている
たまにリモート会議で急に話し出した父に驚き
部屋中を走り回りドババババ!!!と音を立てて
最終的には画面に乱入していたそうだ

あと父の布団は猫のゲロ場だ
ほどよい加齢臭が吐き気を助長するのかもしれない
人間が顔を近づけると便器に対する嫌悪感から
吐きやすいのと同じ原理で

1階の祖母の部屋で遊んでいても、オグッ!っと
なれば途端に階段を駆け上がり
父の部屋に飛び込んでビシャ!っとする

そして何事も無かったように立ち去るのだ

不在時にやられることが多いので、最近はそれを見越して父は布団にブランケットを掛けるようになった

年々、猫は喋るようになった
これだけ聞くとやばい人のように思えるが
基本はニャーだ、ニャァのニュアンス。

母を呼ぶ時は「ニャニャ(ママ)」
祖母を呼ぶ時は「ニャー(婆ぁ)」
父を呼ぶ時は「ニャーイ(オーイ)」
ご飯の時は「オアン(ごはん)」

に聞こえるのだ
あとは「はーい」と返事もする
右手も上げるのだ、驚きだった


猫は空気を読む
私たちが帰省した時にはソッと出てきてくれる
猫が大好きな息子の相手をジッと耐えてくれた

しっぽを触ったり耳をツンツンしたり
近くで大声を出して「にゃんにゃん!」と驚かす
猫のご諸法度に触れるが許してくれた

孫3人が集まる賑やかな日は冷蔵庫の上に避難して
ふんっ!と鼻を鳴らして見おろしていた

帰り際に玄関に出てきて1ナデだけさせてくれた
またねと言ってくれているようだった


去年から隙間に隠れることが増えたらしい
死期を予感していたのかもしれないと母は言う

だけど
死ぬ前日はずっと祖母の膝で眠りこけ
死ぬ日の朝は父からちゅーるをもらって舐めた
トイレは最期まで自分で行った

本当の最期の時は母がお風呂から上がってくるのを
待ち、スッと立ち上がって対面式の台所の木の部分にハァハァ言いながら乗り「ニャァ」と小さく鳴いたそうだ

母には「抱っこして」と聞こえたという
同じ目線でお願いしてくる猫
すぐに抱きすくめたという

最期は下顎呼吸になり息が細くなって
母の腕の中で固くなっていった
完全に冷たくなりその生涯を終えた
いつも通り母と眠って
次の日火葬された


余談だがうちで買っている動物たちは
毎回、母の帰宅を待って天国へ逝く
ワンコも寝たきりだったが最後に上半身だけ
起こして「クゥン…」と言って尻尾を一回振ってから呼吸が止まった

今回もそうだった
猫は死期を悟るのは本当らしい
うちの子は野生に消えなかった
最期まで甘えんぼの猫でよかった

拾った年にはいろんな不幸が起こった後だった
兄は怪我で2度入院、手術してボルトをいれて
父は倒れて内科に入院していた

何となく家族がギスギスしていた
あ、あの時差し入れた書店で買った小説の代金もらってねぇ。いいけど。

そんな時にひょっこり幸せを運んだ猫だった
猫を中心に家族の会話が増えたし
食事も猫がいるからと同じ場所で摂るようになった
心なしか同棲先から家に帰る頻度が上がった

猫の好きな場所は毎年変わっていたが
困ったのが仏壇の上だ
お盆にお経をあげてもらう時にいつものように
トンッ、トンっと昇られたらちょっと困る

母と祖母が相談して仕方なく
お坊さんがお経をあげにくる前に
ゲージに閉じ込めた時には猛抗議だった
「なにもしてないぞ!私は無実だ!」
と言いたげなニャァ!!だった

ゲージの中で暴れ回ったのは言うまでもない


昨日は母と祖母が心配で電話した

90歳の祖母が泣いていて「アタシより先に逝くなんて…」と笑えない冗談を言う

そんな祖母に母が「みんないつか死ぬんやで」と笑う
死生観がイカれていると言うより
デリカシーが死んでいるのだ

私も「人の致死率は100%」だと思っている
不老不死は存在しないのだ
要はタイミングと順番だと思っている
でも口には出さない


「母に猫用品片付けるの辛いなぁ」
というと
「そやなぁ〜…ゲージとかどないしょ」
「気合いでめっちゃドデカいん買うてもうたわ」
近いうちに帰って解体を手伝うか

そして家中に猫ハウスがあり
猫はいつも好きなところで眠っていた

2階の出窓の1番日当たりのいい場所
祖母の部屋のベッドの隣
リビングの窓際
食卓の下
脱衣所の隅
1階のトイレ
父の部屋のデスクの下

家中至る所に三角屋根のフェルトのお家や
四角の猫用ソファーがある
全部にブランケットが入っている
置き過ぎである
その分愛が溢れているだけ

たぶん思い出になるまで触れないと思う

「いないけどいる気がするし匂いもする」
そんなふうに話していた
多分、まだいる

猫は家につく
それに猫は毛皮を着替える
昔から人の猫に対する思いは言葉に残っている

お骨は持ち帰らず合同葬にした
人間のお墓に入れないからそうしたらしい

本人には口が裂けても言えないが
もしも祖母が亡くなった時は
遺骨ジュエリーを作ろうと思っている
祖母のように裁縫や編み物の得意なマメな母になりたい

少なくともシーツの破れを縫うのが面倒で
とりあえずホッチキスで留める私には
今のところ無理だ

引き摺ってもいい、祖母ならたまに視えてもいい

残った餌や猫砂は猫友達にお譲りするそうだ

とにかくシャーシャー言ってたあの子が
最期は人の腕で眠ったのがよく考えたらすごい

実家を離れて長いが帰るたびに猫に会えるのが
本当に楽しみだった

いつか会える、また会えるがもうないのだ
もういないのだ
離れていても悲しいものは悲しい

もう触れないのだ
抱っこしてもあのにゅるりと抜けていく時の
何とも言えない膝を付く肉球の感触も
座布団の下で眠っていることがあり
めくってから座ることもしなくなるのだ

私が実家にいる時は爪を切ってあげていた
不機嫌ながらも切らせてくれた

私が家を出てからは伸びに伸びて
爪研ぎで念入りに研いでから
削りたての鉛筆みたいにピンピンになって
父の部屋の畳も爪研ぎにしていた

父はろくな目に遭っていない
だけど父も猫が大好きになった

兄は「ガンプラと結婚する」と公言していたのに
ある日突然、人間の女性を連れてきた
しかも美人、そして優しかった

きっかけは共通の友人の結婚式
その時に会話に困って猫の写真を見せたら
可愛いと言ってくれて
後日、猫カフェにデートに行ったのが
交際の始まりだったそうだ

そしてそのままトントン拍子に結婚した
大好きな義姉ができた
姪も2人産まれた
世界一可愛い姪が2人いる


母と祖母の毎日を元気にしてくれて
父を猫好きにして丸くしてくれて
兄の結婚相手のきっかけになってくれて
私に帰省の一つの理由になってくれた

そんな存在だった
天国で先代ワンコと会って同じ人に大切にされた仲間としてのんびりしてください

家族になってくれてありがとう
おやすみなさい
いつかまた

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無印良品のポチ菓子で書く気力を養っています。 お気に入りはブールドネージュです。