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モンスターボールを99個集めないと気が済まない

自分がゲームの趣旨から逸れた遊び方をしていて、取り返しのつかないところまで来ていることは、小学三年生の私でも、気付いていた。

ゲーム「ポケットモンスター」は、今でこそ多様な遊び方ができるが、初代と次世代までは「ポケモンを集めること」と「ジムリーダーに勝って、ポケモンリーグに挑むこと」に重きを置かれてゲームが設計されていた。ポケモンの数は初代「ポケットモンスター赤緑」では181匹、次世代「ポケットモンスター金銀」では251匹であった。

しかし、私はモンスターを集めることよりも、別のことに熱中していた。それはアイテムを集めることだった。「モンスターボール99個」をはじめとして、すべてのアイテムを99個揃えることに、情熱を注いでいた。

一人で遊ぶゲームは危険だ。マリカーやスマブラのように大人数で遊ぶゲームでは、変なプレイをしていたら、「お前、その遊び方はおかしいよ」と言われて気がつくことができる。単独プレイでは、そのまま突き進めてしまう。で、私はそうした。

「赤青」でほとんどのアイテムを99個集めた私だが、「金銀」では壁にぶち当たった。「金銀」では、ポケモンが「持ち物」を持つことができる。そのため、アイテムの初代に比べて種類がうんと増えた。しかも「金銀」では曜日や時間システムが導入され、ドロップするアイテムも日付が変わるのを待たなくてはならなかった。

例えば水曜日には、地下通路に「にがいこな」「ちからのねっこ」などの漢方系アイテムを売るおじさんが出現するから、行かなくてはいけない。「オボンの実」「クラボの実」などの木の実は、街や道路にある木をゆすると、手に入れることができるが、一日に一回だけ。まとめてプレイしてクリア、ということができなくなっていた。そのため私は毎日、「そらをとぶ」を使って様々な街や道路に行き、アイテムを集め続けた。

当然、ゲームに日常が侵食されることになる。かつてないほどに、私は忙しかった。今まで習っていた英語をやめたのも、母親には「お友達と合わないから」と嘘をついていたが、本当はプレイ時間を確保するためだった。

友達から遊びに誘われても「ちょっと今日は無理(ポケモンで忙しいから)」という始末である。部活をやっていればゲームから引き離される時間もあったのだろうが、あいにく私は部活動は「集団で同じ時間に、同じことをする」ということが苦手だったので、入らなかった。

何も感じていなかったわけではない。「部活の先輩と遊んだ」という話を同級生から聞くと、胸が痛んだ。本当はそうやって生きるべきだということは、小学生の私でも分かっていた。ゲームで木をゆらして、木の実を99個集めている場合ではない。「ジェントルマン」や「おとなのおねえさん」と対戦をしてお金を手に入れて、ハイパーボールを99個になるまで買い続けている場合ではない。やるべきことが、他にあるのだ。

でも、そうせずにはいられなかった。アイテムがたくさん入ったリュックは、私にとって聖域だった。成績がちっとも上がらないのに中学受験を勧めてくる両親とか、人気者だけど嫌いな女子グループとか、いやな目つきをした担任の先生に侵されることのない、大事なコレクションだった。

この話は、誰にもしていなかった。自慢するようなものでもなかったし、おそらく当時SNSがあっても、発信はしていなかったと思う。今思えば、ある種の自己慰安だったのだろう。アイテムが一つ一つ増えるたびに、99個に近づくたびに、あの頃の私は救われていった。

かつて小学生だった私も、今では母となり、小学二年生になる長男がポケモンをプレイする様子を、眺める日々を送っている。彼もポケモン集めたり、ジムリーダーに勝つのは一切興味がない。彼が熱中しているのは、「食材を集めて、料理をして、ポケモンとピクニックをする」こと。もちろんゲームの進行には、何の貢献もしない。メリットといえば、ちょっとポケモンが喜んでくれる程度だ(たぶん)。それなのに毎日、色んなレシピサンドイッチを作っては、せっせとポケモンに食べさせている。

夫は横から見ていて「ポケモン捕まえなよ、パパは181匹集めたよ」とか「ジムリーダーに勝ちなよ、四天王に挑戦できるよ」とか口を出すが、長男は一向に気にしない。血を感じずにはいられない。夫は不思議そうな顔をしているが、私は、そのままでいいんだよ、と思う。

自分だけが価値を感じるコレクションが、人生にはあってもいい。それは誰かに自慢したり、手に入れた方法を教えることでお金を儲けたりするものではない。そういったものにまみれていると、生きるのが苦しくなるし、ぱっくりと口を開けている「深淵」に飲み込まれてしまった時に、自分を守るものがなくなってしまう。

他人に侵されることのない、自分だけの聖域。「自分はこれが好きだ」と言う芯のようなもの。それらを持っていれば、本当に困ったことが起きたり、ボロボロになって疲れ果ててしまっても、大丈夫。ふとした夜にそれが輝いて「もう一晩だけ、生き延びることができそうだ」と、あなたを包んで、きっと守ってくれるから。


おまけ

今、私がハマっているものはポップコーン。色んなポップコーンを食べていて、ディズニーランドでも全種類食べるほど好きです。私がディズニーに行く目的はポップコーンなので、あまり乗り物は乗りません。うちの子どもたちは、ディズニーランドをポップコーン屋だと思っている節があります。

最近感激したのは、このポップコーン。軽いし、甘さとしょっぱさが絶妙です。代官山青果店で買いましたが、カルディでも買えるみたいです。

ポップコーンパパ!の、うめかつお味も美味しかった。店舗は大阪ばかりなのに、なぜか広尾にある日赤医療センターの売店で買えます。謎。


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