パブコメ07

【要旨】
「子の最善の利益」と「親の監護監督義務責任」を法的に明確化する観点から、現行の民法819条離婚後単独親権制を基調とする現行法制度を、原則共同親権(監護監督義務責任を含む)に基づく法制度に改めることに賛成。
その具体化にあたっては、法制審議会家族法制部会第21回会議北村参考人提出の民間法制審議会作成 「 民法の一部を改正する法律等(案) 」 を基とすることを支持。

1. はじめに
平成25年7月4日、児童が自転車を運転中、歩行者に衝突させ、歩行者が意識不明の重態になった事故について、児童の母の監督義務者としての損害賠償責任が肯定された判決(神戸地判平成25年7月4日判時2197号84頁)が大きく報道され、自転車保険の加入促進が自治体条例化される等の大きな社会的反響を引き起こした。しかしながら、報道によると、損害賠償責任を負った「母親」は離婚による母子家庭「単独親権者」であり、その後、自己破産し損害賠償は支払われなかったとのことである。また、非親権者である「父親」についての確たる報道はない。
逆に、「サッカーボール訴訟」と俗称される最高裁判所第一小法廷平成27年4月9日判決(民集 第69巻3号455頁)では、責任を弁識する能力のない未成年者が,サッカーボールを蹴って他人に損害を加えた場合において,その『親権者』たる両親は民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったとし、損害賠償を認めなかった。
斯様に、未成年者の監督義務責任は、「親権(身上監護権)」と密接に結びついているが、現行の民法819条「その一方を親権者と定めなければならい」規定で非親権者となる一方親は「監督義務責任なし」となってしまい、単に離婚するだけで、子が違法な行為によって第三者に与えた損害を賠償する責任を負わない法的地位を得ることができる状態は公序良俗に反するのではと考えるが、今回の家族法制部会議事録及び中間試案では、このような点を法制としてどう整理するのか、管見の限りでは見出せなかった。
そのため、法務省の「父母の離婚に伴う子の養育・公的機関による犯罪被害者の損害賠償請求権の履行確保に係る各国の民事法制等に関する調査研究業務報告書」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00261.html を閲覧したところ、諸外国では、父母の婚姻状態に依らず共同親権・身上監護義務を負うことを原則とし、親として不適格な者のみ親権者として排除する法制度に変えており、理に適っていると考える。 また、同調査報告79頁によると、ドイツ民法では『身上監護からは,子を監督する義務と権利も導かれ,親は,子が違法な行為によって第三者に与えた損害を賠償する責任を負う(監督義務違反の推定:BGB832 条1項)。他方,親の子に対する損害賠償責任については,自己の事務に関する注意(BGB277 条)と同じ注意を払っていれば免責される(BGB1664 条)』と明確である。 "BGB第1664条〔父母の責任〕 (1) 親は親の配慮の行使に際し、子に対して、自己の事務に払うのを通常とする注意の限度においてのみ責任を負う。 (2) 損害について親の双方に責任があるときは、親は連帯債務者として責を負う。"


2.中間試案各項目への意見

第1 親子関係に関する基本的な規律の整理
1 子の最善の利益の確保等
【意見】
試案1(2)の「子の最善の利益」とは何なのかを条文に考慮要素、推定則規定として記載すべきである。
【理由】
家事調停にて家裁調査官に「子の最善の利益」を質問したことがあるが、回答は「子の福祉」であった。では「子の福祉とは?」と問うと「子の最善の利益です」との回答で同席していた調停委員も噴き出す事態となった。また、審判や判決で「子の最善の利益」「子の福祉」の表現を多用する裁判官もいるが、それがどのようなものかは説明しない。ゆえに考慮要素、推定則規定を条文で明確に示す必要がある。

2 子に対する父母の扶養義務
【意見】
試案2の乙案に賛成、甲案に反対。
【理由】
成年に達した子が、親の監護監督は受けないが生活保持を受ける権利のみを持つという歪な構成は不自然。成年に達した子が生活保持に困る状態の解消は、民法ではなく、諸外国のように社会保障の法制度等で別に対処すべきである。

第2 父母の離婚後等の親権者に関する規律の見直し
1 離婚の場合において父母双方を親権者とすることの可否
2 親権者の選択の要件
3 離婚後の父母双方が親権を有する場合の親権の行使に関する規律
4 離婚後の父母の一方を親権者と定め、他方を監護者と定めた場合の規律
5 認知の場合の規律

【意見】
1は甲案に賛成、乙案に反対。     
2は甲①案に賛成。甲②案、甲③案に反対。 3はB 案(注 1)の①、γ案、Y案に賛成。
5は甲案を支持、乙案に反対。

【理由】
「1.はじめに」に記載の通り、未成年者の監督義務責任は親権(身上監護権)と密接に結びついているため、親と子との間の監督義務責任が父母の婚姻状態に左右される必要性はなく、監護権者としての不適格要件を明確にすれば事足りる。また、そうすることによって親(監護権者)として不適格と判別されない限り、親としての監督義務責任を負うことが法定できる。とすると原則共同親権(監護含む)とし、不適格要件こそ法定すべきである。

第3 父母の離婚後の子の監護に関する事項の定め等に関する規律の見直し
1 離婚時の情報提供に関する規律
2 父母の協議離婚の際の定め
3 離婚等以外の場面における監護者等の定め 4 家庭裁判所が定める場合の考慮要素

【意見】
1は甲案に賛成、乙案に反対。 2は甲②案に賛成、乙案に反対。また、2(3)法定養育費制度の新設は、民法ではなく社会保障法を根拠として制度化すべき性質のものであり反対。 3・4は、第2の理由で述べた通り、まずは監護者としての不適格要件を明確にした上で、それに沿って必要な規律を明文化すべきである。 また、中間試案補足説明57頁で婚姻費用について言及しているが、これのあり方についても不同意別居の強行等婚姻破綻原因を作ったものが法律上は婚姻状態であるからと婚姻費用を要求する行為が認められているなど、現行法実務は判断基準が不明瞭であり、抜本的に議論しなおすべきである。

【理由】
共同親権(監護権を含む)は原則として「子の最善の利益」に適うとの推定則規定を設けた上で、 父母の一方のみを監護者とする場合、それが「子の最善の利益」に適うと裁判所が判断する基準、 考慮要素を条文に明示するべきである。更に、単独親権(監護権を含む)を主張する者が、それが「子の最善の利益」であるとの立証責任を負うものとする。 「子の最善の利益」、「親権(監護権を含む)の判断」の考慮要素を、条文として定めるべきである。

第4 親以外の第三者による子の監護及び交流に関する規律の新設
1 第三者による子の監護
2 親以外の第三者と子との交流

【意見】
1・2とも規律を新設することに賛成。
【理由】
フランス法やドイツ法を参考にして民法を作った国では、祖父母等の面会交流権は慣習・判例として認められ、子の出自を知る権利等の子の権利の観点からも祖父母等親族や養父母等の未成年子と関係がある者は、子の福祉に適う限り面会や交流を認める明文化を進めているが、我が国民法にはこのような明文規定ないため、我が国裁判所は人格的利益の存在は認めつつも法に定めがないから「権利とはいえない」と主張しているので、子の成長に寄与させる観点からの規律とその手続きの新設が必要である。

第5 子の監護に関する事項についての手続に関する規律の見直し
1 相手方の住所の調査に関する規律
2 収入に関する情報の開示義務に関する規律
3 親子交流に関する裁判手続の見直し
4 養育費、婚姻費用の分担及び扶養義務に係る金銭債権についての民事執行に係る規律
5 家庭裁判所の手続に関するその他の規律の見直し

【意見】
賛否保留
【理由】
手続法の課題であるから、まずは民法そのものの子の監護の考え方の方向性が定まらないと仮定に仮定を重ねる議論となってしまうため意見保留。ただし、わが国には別居開始や離婚成立前の規律がないため、試案第3の「2 父母の協議離婚の際の定め」の甲②案の詳細として新設を含めた見直しは必須である。

第6 養子制度に関する規律の見直し
1 成立要件としての家庭裁判所の許可の要否 2 未成年養子縁組に関するその他の成立要件 3 養子縁組後の親権に関する規律
4 縁組後の扶養義務に関する規律

【意見】
1は甲案③に賛成、乙案に反対。 3は反対。 2・4は意見保留。
【理由】
養子縁組は相続制度とも密接に関係しているため、普通養子縁組制度の存否そのものを含めて見直すべきである。家族法制部会では相続権に触れずに議論することとしたことは承知しているため、論点はいわゆる代諾養子縁組と、普通養子縁組した際の養親の親権の有り様が課題と考える。 まず、未成年子養子縁組は、未成年子の身分と扶養義務者に直結するため、代諾養子縁組は廃止し、子の最善の利益にかなうかの確認の意味も含めて裁判所許可事項とすべきである。また、そうしなければ、未成年子の身分や権利の保障手続きが骨抜きとなってしまう。 つぎに、養子縁組後の親権に関する規律であるが、試案3は「(注1)1)試案の本文は、上記第2の1記載の離婚後に父母双方が親権者となり得る規律を導入するか否かに関わらず、すべからく未成年養子縁組について適用される規律を提案するものである。」ため反対である。 この考え方は、家族法制部会第9回参考資料9-4で示されているステップファミリー論での昔ながらの「代替型」を明文化し「継続型」を否定するものであり、いわば「家制度」の復活ともいえる考え方であり、強く反対する。逆に、「継続型」を前提とすることが諸外国でも普通であり、その諸外国では連れ子から見ての継親は実親の配偶者として子と生活を共にする者として日常監護権を持つのみ(その日常監護権の範囲内で子の監護監督義務責任と損害賠償責任も負う)形を取っており、離婚等で子と常時生活を共にできない実親の親権(監護権含む)との棲み分けと相続権が複雑とならない仕組み(法制度)を作っており、子からもても監護監督責任を負う者が途切れることがないため、合理的ですらある。よって試案3(注1)の考え方には根本的に反対である。 また、試案第1・第2とも深く関係するが、実親が不適格ではない限り親権(監護権含む)を持つのを原則としたときに、子を日常的に監護する者に日常監護権のみの法的地位を与える規律を検討すべきである。

第7 財産分与制度に関する規律の見直し
1財産分与に関する規律の見直し
2財産分与の期間制限に関する規律の見直し 3財産に関する情報の開示義務に関する規律

【意見】
2は【現行通り】に賛成し、3は開示義務に関する規律の強化に賛成。
                       

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