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Pulp – Common People

今回はLONDONであった夢のような不思議な素敵な思い出のお話。

時は2000年初頭。ワーキングホリデーの後、
2ヶ月以上に及ぶ単独ヨーロッパ周遊の旅も終わり、
いよいよ明日、日本への帰国の前日に私はLONDONにいた。

LONDONの一番のお楽しみといえば
大好きな旧型のダブルデッカー(2階建ての赤いバス)の2階最前に座り、
信号待ちしている隙にロンドンっ子のように
ヒラリとピカデリーサーカスで飛び降りる。
(後ろのドアが無く、自己責任で乗り降り自由だった)

イギリスのくっそマズイ料理を回避すべく、
いつもピカデリーサーカス近くのジャパンセンターのテイクアウトか
やっすいピザ屋で食べるのが定番。

その日は最後にイギリスの美味しい紅茶が
飲みたかったのでピザ屋へ行った。

夕方の中途半端な時間のピザ屋は空いており、
私の左隣りの1席空けて女子学生が一人で勉強していた。

ピザとミルクティーを頼み、
既に帰った客の汚れたテーブルを放置して
キッチンとお喋りしているウエイターを眺めていると
右隣に男子大学生らしき2人組が座った。

片方の兄ちゃんは彼女と喧嘩したらしく、
英語がそんなに得意で無い私でも分かる位
他人からしたらどーでもない彼女の愚痴を
もうひとりのお兄ちゃんに話していた。

イギリスの美味しいミルクティーを味わいながらボーっとしていると
PULP(パルプ)のCommon People(コモン・ピープル)という曲が流れ出した。

このCommon Peopleという曲はイギリスの労働者階級のお兄ちゃんが
日常を知らないギリシャの富裕層のおねいちゃんに
イギリスの労働者階級の日常を見せてあげるっていうざっくりしたお話。
(細かく知りたい方は詳しく解説してくれるサイトがあるので調べてくだされ)

ワーホリで海外に住むのが難しいのは分かったけれども、
日本に明日帰国しなければならない私は、今このピザ屋にいる人が、
Londonを普通に生きているのがとても羨ましかった。

I wanna live like common people
(Londonで)普通に生きたいな

I wanna do whatever common people do
(Londonで)普通なことをしたいな

Wanna sleep with common people
(Londonで)普通の人と眠りたい

私は隣に聴こえるか聴こえない位の小さな声で唄っていた。

隣の兄ちゃんは相変わらず彼女トークが止まらず、
お友達のお兄ちゃんはうんうんと黙って聞いている。

おねいさんも勉強を続けている。

そして2コーラス目にかかった時に奇跡が起きた。

隣のおねいさんも小さな小さな声で一緒に唄い出したのだ。
しかし、おねいさんは本とノートを見つめたまま。
でも、確かに唄っている。

すると、隣の友達の話を聞いていたお兄ちゃんまで唄い出した。

You wanna live like common people...

しかしお兄ちゃんの目線は向かいのお友達を見たままだ。

店内の3人が目線も合わさずに
各々common peopleを唄っているという不思議な空間。

そこにお喋りしてサボっていたウエイターが
やっと私の前のテーブルを片付けにきた

You'll never live like common people...

誰とも目線も合わせていないがウエイターも小声で唄いながら
テーブルを片付けてキッチンへ戻っていった。

曲が終わって、ああイギリス人ってLondonっ子って
なんて素敵なんだろうと西日のあたる店内でボーっとしていると
勉強していた左隣りのおねいさんが本を閉じ、
私の目の前に静かに席を立った。

うわ、勉強の邪魔しちゃったかな…と顔を上げて、
目が合うとイギリス人特有の
口元だけニヤっと笑って何も言わず去っていった。

暫くして、私もウエイターに精算して帰ろうとしたら、
彼も口元だけニヤりと笑っていた。

映画やミュージカルのような私の為のリアルミュージックビデオ。
不思議な経験をさせてくれたLondonっ子ありがとう。

Londonに住めそうには無いけど、
今でも思い出すと心が温かくなります。

ここまで読んでくれて皆さんにもこんな素敵な出来事が訪れますように。

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