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しりとり手帖

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しりとりをしながら、最後の音節で始まる言葉をテーマにした何かを担当メンバーが発信します。
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記事一覧

えにっき 担当:はおまりこ

えにっき 担当:はおまりこ

人に話したら笑われそうな、それでも、今も時折蘇っては胸を締め付けられる記憶がある。

小学校低学年の頃だったと思う。
自宅でピアノ教室を営む先生のマンションから、レッスン後の帰り道。
あたりは暮れかかり、オレンジ色の光に満ちていた。
マンション前の急な坂道を、母に手を引かれながらゆっくり下っていく。滑り止めの為らしい坂一面の円状のくぼみは逆に幼児には歩きづらく、つまずかないよう自然足元ばかりを見つ

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記録するための絵 担当:五嶋奈津美(イラストレーター)

記録するための絵 担当:五嶋奈津美(イラストレーター)

私は写真を撮るのが苦手だ。
まず撮りたい!という衝動が起きる回数が人より少ない気がする。そして絶望的に撮影センスがない。だから集合写真を私のスマホで撮らなくてはならない時などは戦慄してしまう。それでも言われれば一生懸命撮るのだが、私の写真はいつもアングルがおかしかったり、ぶれていたり、誰か目をつむっていたり、とにかく本当に下手くそなのだ。

そんな私でも自主的に写真を撮りたくなる時がある。近所の散

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1回休み :担当 寺橋佳央

1回休み :担当 寺橋佳央

今回のしりとり手帖はお休み。
ま、そんな事もあるよね。そしてまた私です。
ただの休みじゃつまらないので、我々の馴れ初め話でもしようかと思います。
今から8年前。私と須田さんが、文章を書く講座に通っていたのが馴れ初めの「始め」です。

この講座の授業で私は「なぜ書きたいのか」がテーマの発表をしました。
「自分はリア充死ねとか思うような人間で、何も満たされていない。だけど私は私の存在を認めて欲しい

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今日のコンドーム自販機 : 担当 寺橋佳央

今日のコンドーム自販機 : 担当 寺橋佳央

とんでもない題名だが、私はこんな名前のポストをXで毎日続けており、Twitterの頃からすると、もう8年目になった。基本的に毎日続けていて、うっかり日をまたいだとか、体調不良で寝込んだとかでポスト出来なかったのは、ほんの数日。

今日のコンドーム自販機のポストは、正面、左右等から自販機を撮影した写真を1日1枚ポストしている。1つの自販機で5.6枚、1ヶ月で5〜7台の自販機をポストしている計算

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暗渠 担当:須田さ紀え

暗渠 担当:須田さ紀え

 上京してきたばかりの頃のわたしをイラつかせたもののひとつ、それは
「至るところにあるうねうねした道」
だった。
 18歳まで過ごした北海道では、こっちに行けば目的地に着くはず、と確信して進んだ道の先があらぬ場所につながっている、ということなんてほぼなかった。街の道路はだいたい碁盤の目状に整備されていたから、どんなにぼんやりしていても方角さえ間違わなければ目的地にたどり着けていたし、それが当たり前

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酒瓶のミニチュア : 担当 だまだま

酒瓶のミニチュア : 担当 だまだま

 昔からミニチュアが、特に食べ物のミニチュアが好きだった。中でも覚えているのが、某お人形が某ハンバーガーショップ店員になって働くセットだ。
 精巧なメニュー表に小さなビッグマックの箱、ツヤツヤしたバーガーのバンズに赤い箱のポテト……ハンバーガーショップなんて生活圏にない田舎住まいだったので、それらのメニューを私はミニチュアで先に知った。
 中でも不思議だったのは長方形の箱に入ったアップルパイ。アッ

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ビニール傘 担当:ヤナイユキコ

ビニール傘 担当:ヤナイユキコ

時が経ちすぎたのもあって、
未だにあれは現実に起きたことなのか、
それとも妄想の類いだったのか、
曖昧な記憶がある。

私ひとりでは到底入る機会もない、
仄暗いラウンジバーだった。
鼈甲色にぼんやり灯る照明は、
近距離でしか表情が読み取れないほどに心許ない。
あまり周囲に顔を見られたくない人たちにとっては都合のいい明るさなのだろう。
お忍び向き、ひと言で言えば、そんな店だった。

好きになるのは初

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磯遊び 担当:中村文

磯遊び 担当:中村文

愛してやまない磯遊び。その面白さに目覚めた日を、今でもはっきりと覚えている。

小学二年生の時、遠足で真鶴の三ツ石海岸に行った。潮の引いた磯場に降りると、足元の潮だまりの中でなにかが動いている。キラキラ光る水面の下で、巻貝がサーッと移動していた。その素早さに違和感を感じて恐る恐る手に取ってみると、細いカニのような足が出ている。ヤドカリだ。それまで図鑑でしか見たことのなかった生き物が今自分の掌に乗っ

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とうめい 担当:かわかみなおこ

とうめい 担当:かわかみなおこ

とんでもない話だが、まずは、右手が消えた。

朝ベッドからむくりと起きあがり、そのまま洗面台へ向かい顔を洗おうとした。洗顔フォームに手を伸ばすと、袖から先にわたしの手はなかった。
しかし洗顔フォームのチューブを掴むことはできる。
目の前の洗顔フォームは、ふよふよと浮き上がっているように見えた。

そうか消えたのではなく透明になったのだ、と寝ぼけた頭で気づき、一度ベッドに戻った。幸い今日は土曜で予定

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プレゼント 担当:寺橋佳央

プレゼント 担当:寺橋佳央

プレゼントを貰うのが苦手だ。
そもそも私は自分の気持ちを口や表情に出すのが苦手だ。もう大人だけど。そしてプレゼントを貰うということは、当然だが感謝の気持ちを表明する機会。それはすごくよく分かっている。

更に女性へのプレゼントには、バスグッズかボディケアグッズを贈られる事が多い。わかる。これで疲れを癒してねとの気持ちがとても良く分かる。
しかし残念ながら、バスグッズもボディケアグッズも私にとっては

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クレープ 担当:ビロくん

クレープ 担当:ビロくん

散歩が趣味な私は気分転換にと、
適当な駅で下車して、街へと出かけた。

しりとり手帖に飛び入りで参加するビロくんです。
普段は会社員をしながら珍スポット巡りや雑貨作りの趣味と、大阪にあるミニコミ専門書店シカクのスタッフもしています。

いつも通り街を探索していると、青い看板に描かれたファンシーなイラストから視線を感じた。アウターのポケットからデジタルカメラを取り出し、何枚か写真を撮っていると、店内

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ティーバック 担当:はおまりこ

ティーバック 担当:はおまりこ

「ティーバックのさ、あの紐の所あるじゃん」
「ええ…?!う…うん。」
「あれ、なんであんなに切れるんだろうね」
「切れる…の?ほどけるんじゃなくて?」
「ほどける?…ああ〜〜たしかにほどけるタイプもあるね。ほどけるのもほどけるのでなんかボロボロになるし、しかもすぐ茶色くなってヤダよね〜。」
「ちゃいろ…?…って!!ええええええ、そういうのまじで言わない方がいいよ?!」
「え?ならない?なるよね?」

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ルイボスティー 担当:須田さ紀え

ルイボスティー 担当:須田さ紀え

しりとり手帖、今年最後のお題は「ルイボスティー」。
ノンカフェインのお茶はいろいろあるけど、私の中では「あるとうれしい」度が一番高いお茶かもしれないです(最近は扱っているコンビニが増えてきてるし、もしかしてひそかにブームが来ているのかも?)。
今回せっかく「る」が回ってきたことだし、これをきっかけに深掘りしてみようと思ってたくさんルイボスティーを買ってきました。
しかもただレビューするだけでなく、

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BEER(ビール)  担当:ヤナイユキコ

BEER(ビール) 担当:ヤナイユキコ

AM11:15

「セットのお飲み物はいかがなさいますか?」

来た、この時が。
ケイコは滑らかにそれがいつものように

「グラスビールで」

と、言った。ついに言った。

「グラスビールですね、かしこまりました」

主婦であろう女が、意外だと思われただろうか。
店員の表情が気になりそちらを向くと、バチッと目が合い、微笑み返された。
ケイコもマスクの下で笑みをつくり、心の中で呟く。「今日は歩きで来

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