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遺品整理を請け負った時の話

次女が幼稚園に入ったタイミングで、そろそろ仕事でもしたいなぁ。と思った矢先。長女の同級生のママから仕事を手伝って貰えないか?の話が舞い込んできた。

彼女は個人事業主でハウスクリーニングの仕事をしてるとのこと

空きアパートやマンション、一戸建て等をクリーニングするという

時給800円土日休日休み。子供の行事を優先。その時の条件としては悪くなかった。

木造アパートで家賃3万円から上はその当時億ションと言われる高級マンションまで幅広く、毎回違う物件に行くので楽しかった。まぁ。体力は使ったけども。

印象に残ってる掃除体験を書いてみる。

一戸建てって、夜逃げや、借金の抵当に取られた物件が多かった。友達はいつも塩を持ち歩いていたのでなぜに?と聞いてみた。

家って住んでいた人の想いが残るもんなんだよね。だからいつも塩と酒もって清めてから掃除するの。と言っていた。

ある物件では電源が入ってない掃除機が動き出したことがあり、なんなの?このホラー感。あなたの知らない世界を実体験。おぉ怖い。

野ハトに占拠されてしまった5階建てのマンションに潜入。入居者が数人のマンションだったが、行ってびっくり。踊り場や廊下は雪が積もってる?いや雪が降るにはまだ早い時期だよね?まだ秋だもの。数センチ位積もっているハトの落とし物。

高圧洗浄で水を放出してデッキブラシで洗い落とす。一日がかりで掃除して綺麗になった時の達成感。しかし、こんな状況で人が暮らしていることに驚いたがどうやら訳ありらしい。それ以上のことは聞かなかった。

その当時高級マンションのトイレは人を感知するたびに蓋が上がり、音楽が流れる。いまや、自動で蓋が上がるのって当たり前なんだと思うけど

それを目の当たりにした時、カンゲキしたもんだ。ただ一々反応するから掃除がやりにくいったらありゃしなかった。しかもいきなりクラシックが流れだすもんで、まさか!ここでも見えない何かの仕業?とビクついたりもした。

基本空き物件なんだけど、時々例外もあった。

今日は私語を謹んで黙々と作業するからね。と言われた。普段はあれこれ話しながらワイワイ騒ぎながら楽しく作業をしていたので、今回はなんでだろう?

一般的なマンションで、玄関の前に来ると小型犬のキャンキャンと吠声が聞こえてくる。一匹じゃないな。数匹いる。いや、人住んでるの?この部屋

ねね。あたしわんこが苦手なんだけど?

マジで?掃除してるときはベランダに出してもらえるか聞いてみるから。

うううん。

入ると初老の男性が一人。おぉ。いつもわりーね。と声をかけられリビングに通された。

んんん。なんだろ?この雰囲気。

壁には紋付き袴姿の男性二人の写真が飾られてる。田舎のばあちゃんちに飾られてる孫の七五三の写真とはわけが違う。千歳あめは持っていない

背景にはでっかい家紋、○○会系○○組襲名披露? 名前は聞いたことある、有名な組ですよね?極道の妻たちで見たことあるわ。こんな写真。で? そうなの?

そーらしい。一気に緊張が走る。だって初めてだもん。本物に会うの。

そこへ、ごくろうさまっす。と若い衆が数人入ってきた。雀卓をだして来た。なにやら始まるのだろうか?

ちょ。一体どこ掃除したら良いの?小ざっぱりとして、汚れてない。もー。帰りたい

あたしは台所掃除を任された。案の定わんこが吠えまくり、絡みつく。

固まる私を見て、なんだ?ねーちゃんダメなのか?と組の長さん

ねーちゃんと言われるほど若くはないが、悪い気はしない。てかどうでもいいけど

そうなんです。苦手なんです。すみません。

ねーちゃんの方がでっかいのになぁー。と言いながらわんこを抱きかかえてほかの部屋に移してくれた。

さっさと済ませよう。早く終わらせなきゃ。と焦りました・ええ

脇目も振らず、一点を見つめて掃除に集中。

それはそれは早く終わりまして、そそくさと退散した。次の物件も終わりに差し掛かったころ彼女の携帯が鳴る。

あぁー。すみません・換気扇が?と言いながらあたしをちらっとみた。直ぐに伺いますから。

なに?どーしたの?

換気扇が動かないんだってさ。あんた?なんかした?

ぎゃーーーー。どーしよ。全く身の覚えがないけど。ねね。あたし、小指を差し出さなきゃダメ?

うける(笑) そんな事あるわけない。あの人ね。余命宣告されて長くないんだよ、そんでさ。案外あの世界の人は堅気の人には優しいから。大丈夫だよ

あらそ。そして大病患ってらしたのね。元気そうに見えたけど。

またもや組長のところに到着。とは言え、心臓バクバクですけども。

若いのが換気扇回そうとしたら動かいからよー。どうしたかと思ってよー

すみません。確認します。とのぞき込んだら、電源抜かれたままですた。

換気扇は電源抜いてから掃除するのがお約束。

ほんと、ご迷惑かけました。丁重にお詫びを申し上げた。

またよろしくなぁー。って。どやされると思っていたけど、優しく対応してくれて良かったよ。思わず小指を握りしめた。

で、いよいよタイトルの話。

この仕事って三月四月は繫忙期で、まぁーともかく忙しい。。だけど五月になるとパタッと仕事がなくなる。で、その時はなぜだか。4月の中頃から仕事がほとんどなくなっていた年だった。

ある日、友達からいつになく深刻な声で電話が来た。

相談があるんだけど

はいはい。なんだろうか?

仕事の依頼が来たんだけどね。この仕事がちょっとあれなの。

あれ?とは?

マンションの掃除なんだけど、掃除はしなくって良いんだけど、その部屋のものを一切合切処分するのよ。

うんうん。それが?あれなの?

その部屋の方が亡くなられててね。最近発見されたんだけど。数か月放置だったもんだから、その。あれなのよ。もちろんご遺体は警察が運んでくれたんだけど、この時期だからだいぶね。いや、相当にね。あれなのよ。。風呂場で発見されたので、まだね良いんだけど。ただ、液状になってるモノがまだ残っててさ。。ユニットバスだから全取り換えなんだけど、それでも多少はきれいにしないとダメらしいのよ。

あの当時、特殊清掃ってそんなに知られていなかったんだよね。そして借主の親族が対処するもんだと勝手に思い込んでた。

気軽に受けるよ。とは答えられない。どうしようか。

友達はすぐに返事は出せないだろうから、一日考えてみて。と言う

いや、どんな光景なんだろうか?そして、臭いはどんな?腐った玉ねぎとは聞いたことがあるけども、その玉ねぎの臭いを嗅いだこともない。

旦那に相談すると、やめとけ。と言う。そこまでする必要があるのか?て。

友達にとっては死活問題で生活がかかってる。断ればそこから仕事がもらえなくなるようだし、世話になってる人だから受けたいと思ってるみたいだ。

受けるとしても時給800円の仕事じゃない。この金額で受けることは出来ないな。そして、どんな装備で行うのか?

その旨を話してみたら、もちろん特別手当として支払うよ。そして防護服と、防護マスクも用意する。布生地だと臭いが染みついてしまうらしくとてもじゃないが着ていられないらしい。ゴーグルも必要。目を開けてられないんだって。臭いが強烈で粘膜がやられるとのこと

分かった。やるよ。引き受けた。

マンションが近づくにつれ臭いが漂っている。周辺の人はたまったもんじゃないだろうな。

完全防備、そして鼻にはメンソレータムを塗り込んだ。←ネット情報

口で息をするように集中した、絶対臭いを嗅ぐのは避けたい。

腹に力をいれて、ここは勢いつけて入る込むしかないっ!

部屋は亡くなったその時のままだった。部屋一面におびただしい数の虫が生きてたりしんでたり、あんな大量なハエを見たのは後にも先にもあの時だけだ。

臭いだけは嗅ぎたくない。そこに集中してたけど窓が開けられない上にちょうど梅雨明けも近かった時期。むわっとした空気。呼吸が苦しくなって、鼻が緩んだその時に怒涛のように言いようもない臭いが襲ってきた。焦った。

このマスクをしていても? うわぁ。ちょっとパニックになった。ポケットに入れておいたメンソレータムを目を閉じてマシマシで塗った。全く役に立ってないじゃんか!

そしたらスースーしすぎて涙目になって目が開けられなくなった。完全に塗りすぎだ。わぁー。落ち着け。落ち着け。

いまだにかすかに残ってる。鼻の奥のほうに。あの時嗅いだあの臭い

2Dkの部屋。なかなかの広さだ。一人暮らしの男性だった年齢は30代。

ひたすらごみ袋に詰める。貴金属や貴重品と思われるものに注意しながら、一心不乱で作業した。一分でも一秒でもココにいたくない。早くここから帰りたい。その一心で。そして後悔の念が襲ってくる。引き受けるんじゃなかった。あぁーーん。ヤダヤダ!! いい人って思われたい気持ちがそうさせたんじゃ?全く自分でも嫌になるわ。ほんとにあたしって上っ面な女だわ。

いつの間にか自分を責めながら作業していたその時

一枚の年賀状を手にした。

その部屋の住人の母親からの年賀状。東北地方からこの土地に仕事で赴任してきたようだ。

体に気を付けて、来年は帰っておいで。そんな感じで書かれたいたと思う。

止まった。そのまま動けなくなった。

あぁ。。。。こんな状況を親が掃除出来るわけないよな。しかも遺品整理だなんて酷なこと出来るはずないわ。まだまだ若いのに突然こんなことになってしまって辛かっただろうな。そんなことを思ったらその年賀状をも捨てることが出来なかった。そして、今、あたしのしてることって役に立ってることなんだな。とシミジミとした。

やけくそな気持ちで作業していたけどこの年賀状を目にして、気持ちが変わっていった。

楽しく!って訳にはいかないけど、明らかに無の境地になった。淡々と作業に没頭していった。やるしかない。やるんだ。その気持ちになった

そんな時だ、あるものが目に留まった。

それは、熱烈にハマっている某アイドル事務所のアイドルグループの推しの主演のドラマDVDが封を開けずにそのまま残ってるじゃないかっ!なぜに?ここにあるのだ?違う意味で気持ちが高ぶる。

買うか買うまいか?迷っていたところなのだ。シリーズ全巻買えば数万円なもんで。

亡くなった方は男性である。いや男性であってもそれはいろんな趣味嗜好があるのだから良いのだけども

あのさー。このDVDは捨てるんだよね?

うん。だね。まさか?欲しいの?とちらっと見た友達。

ええうざいくらいにあたしの推しの話を聞かせていたのでそこはすぐに反応した彼女

あらー。これ欲しいでしょ?(笑) 大丈夫だよ。捨てるもんなんだから。貰ったら?

あぁ。この場で何とも不謹慎。不届きものな上に罰当たりだ。でも迷う。

作業の手も止まり、ひたすら悩んだ。よりにもよってこんな場所でお目にかかるとは。

しかしだ。ここにある何もかもに臭いが染みついてるのだ。

普通に呼吸は出来ないけれど、臭いにだんだん慣れていく自分がいた。

いや、やめとこう。頂けないわ。と未練を断ち切るようにごみ袋の奥のほうに押し込めた。あぁー。良いの?ほんとに?とささやく声が聞こえるけども(笑)      自分で買えよ。ええ。自分で買うわ。

大型家具や家電を下ろし終わり、部屋が片付いていく。

ねね。お風呂場はどうしたら良いもんなの?部屋がこの状態ならば現場のお風呂はどんな感じなのだろう。想像したくないけど。

掃除しなくっても良いって連絡が来たのよ。あぁーーー。胸をなでおるす。

作業時間は5時間ほどだった

着ていた服を全部脱ぎ捨てて、着替えをしたけど、体中の細部にわたって臭いが染みついている感じ。家につき、風呂場に直行。

湯船につかった。あぁ”---------。と声がでる。なんとなくだけど、またこの作業をしたいか?と聞かれたら戸惑うけども。心地よさも感じていた。あの年賀状のおかげだとおもった。

この体験が後々発揮する出来事が起こるのである。それはまさに当事者側

この話は、また後日に書いてみたい。








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