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ほっと一息ディスインフレ

相場環境が荒れた一週間が終わった。先週から今週にかけ、特にJOLTS求人件数やADP雇用統計、公式雇用統計など雇用関連の指標が相場を大きく動かす時間帯となった。

まず以て足元の株式市場は実体景気の回復を相当程度先取りした状態にあると考えられる。使い古されたS&P500とISM製造業の連動は、足元で株価が大きく上に乖離している状態だ(図表)。ここまでの乖離は過去20年のうち、2007年か2012年しかない。前者は株価が下方向に収斂し、後者は景気が上方向に収斂した。果たして今回はどちらのパターンか、否が応でも注目が集まる。

とはいえ、2007年と2012年を分かつものはクラッシュの有無でしかなく、大抵は問題が発覚するまで市場は気づかない。投資家にできるのは、「ヤバくなったら即逃げる」しかないのが正直なところだ。

実態景気には少しずつだが減速感が出てきた。まずJOLTS求人件数だが、究極完全カンニングであるindeed求人に照らすと8月の結果は行き過ぎのようである(図表)。景気ブルムードを醸成したJOLTS求人だが、来月にはその考えも修正されるとみる。とはいえ、indeed求人自体は横ばいで推移しており、企業側の採用意欲が冷めている様子はほとんど窺えない。

そうして迎えた本丸の雇用統計だが、前月比+33.6万人と市場予想を大幅に上回り、各種市場を完全に破壊してしまう力強さを覗かせた(図表)。しかし、失業率上昇、賃金上昇率減速といったディスインフレの兆候を市場が見落とすはずもなく、結局金利は落ち着き、株価は上に舞い上がっていった。

賃金が減速した背景だが、労働参加率が上昇傾向にあることが大きいだろう。FIRE層、主婦層、高齢者層などが労働市場に滲み出てきており、労働市場の需給が緩んだものとみられる。なお、この行動は「お金が無くなったから仕方なく働きに出ている」のか、「賃金が十分に高くなったから働いても良いと思った」のか定かではなく、一概に景気が悪くなった証拠とは言えないだろう。

もう一つ、特に効いたとみられるのがパートタイム労働者の増加である。これこそ雇用増で賃金減が両立する手品のタネである。ここ3ヵ月程度、フルタイム労働者は減少し、パートタイム労働者が増えている(図表)。企業側で賃金上昇がきつくなり、パートタイム労働者で補完しようとしている様子が目に浮かぶ。

雇用統計の中にディスインフレの芽を見つけた市場は間を開けて上昇に転じた。こうした反応は今後も指標が出るたびに起きるとみられる。来週12日(木)にはCPI、17日(火)には小売売上高が発表される。米国クレジットカードカンニングは、9月の小売売上高が引き続き堅調であることを教えてくれている(図表)。市場は再度インフレ再燃、金利上昇に傾くかもしれない。

特に足元では「学生ローン支払い復活で消費失速期待」が高まっているだけに、「次こそは消費失速」を狙い向きがいつもより増えている可能性がある。過剰貯蓄についても同様の論調だ。以前から繰り返し言っている通り、預金だけでなく株や不動産も加えた資産全体は空前の規模に達しており、ある日突然消費がポキっと折れることは難しい(図表)。消費失速勢が焼き尽くされることで市場変動が荒れる展開には注意したい。

当noteの考えは景気は良いのに物価は下がるというゴルディロックスの展開であり、今回の雇用統計でようやく市場の認識もそちらに一歩近づいた。先週まで意味不明に上がっていた原油価格は中国の人流増加による燃料需要増加を受けたものである可能性がある。今後の世界景気は、サービス業が徐々に減速する一方で製造業が持ち直し、インフレ率も低下する展開になると予想する。

※本投稿は情報提供を目的としており金融取引を推奨する意図はありません。

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