斉藤あや

小説をアップします。

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最近の記事

ショートショート 『その女、ずぶ濡れにつき』

夜になると月や星が見えて あなたの隣にはあなたを想う私の気持ちがあって 距離感を間違えて嫌われてしまいました 私はもっと仲良くなりたかったな 人としての格が違うと関わってはいけませんか あなたの踊っている姿が素敵です 気にするところと気にしないところが正反対ですね あなたが私を弱いと思っているように、私もあなたを弱いと思っています その服はどこで買いましたか 知らない方が好きでいれるかな 「すごい良かったです」 僕は、DJプレイをし終わり店の外に出てタバコを吸ってい

    • ショートショート『ミスアンダースタンド』

      喜んでいた君の表情も 怒っていた君の無表情も 好きだから嫌味や不機嫌に対して辛抱強く振る舞ったこと 白い光をテーマにした手作りの写真集をもらって泣いたこと 柄にも無く映画館の一番後ろの席で頭を肩に乗せてきた 寝たのかと思った。って茶化したら、せっかく勇気出したのにってすねていた 海老の天ぷらを食べてる途中に、パスタが食べたいって。なんでそんなこと言うの 霧が濃く出た夜十二時過ぎ、等間隔で並ぶ街頭のせいで道がトンネルみたいだった 「今夜はノームがすごいですから、気をつけ

      • ショートショート 『世界が香る日』

         みつきさんは、シュッとその純度の高いホワイトチョコみたいな色の肘をカウンターに乗せて二重まぶたを上手に使い数回瞬きをしたあとに、上目遣いでこちらを見て俺の眉間の辺りに焦点を合わせた。俺はもうその時点で実際にチョコを食べたときに活性化するのと同じ脳の部位が熱くなったため、甘い味がした気がした。直後、客席の上向きに開けた木枠の窓から厨房の換気扇に向かって、良く晴れた六月中旬の細長くて黄緑色の風が二本通ってそれらを鼻腔に感じながら、いつも通り裏切らない角度でカーブする彼女の頬は今

        • ショートショート 『アダルトチルドレン』

          気付かぬうちに変わっていく人格。もっと幼くなって、それどころか、マウントお化けに変身。何を問いかけても上の空。続かないLINE。Likeジョニー・マルコ。もう本当には何にも興味がない。目がヤギみたいに力無い。お前は孤独だから俺の方が上だ。俺みたいなやつと一緒にいる時点でお前も一緒だ。あいつは一生孤独で退屈な主婦だ。ああ、それは孤独だ。会社でアスペのおじさんをイジメてる。ちょうど良かったわ、そのうち殺してやろうと思ってたし。あいつが一番成功してる。俺たちは二十代で何もしてこなか

        ショートショート 『その女、ずぶ濡れにつき』

          短編小説 『豊川海月希のハッピーライフ』

           海月希さんが取ってきた伝票を確認する。アクアパッツァ風パスタ。ちょうどこれから夏が始まるので昨日今日あたりから急に気温が上がり出したことと、南国を連想するアクアパッツァという名前に、海月希さんがとても似合っていると思った。 「ねえ。今日の夜はまかないじゃなくて、あの海沿いにできた新しいカフェ行かない?」 三組の客の相手が一段落した海月希さんが、カウンターにもたれかかりながら言った。まだ六月半ばだが、彼女はもう半袖黒色無地のオーバサイズTシャツを着ていて、そのこともアクアパッ

          短編小説 『豊川海月希のハッピーライフ』

          小説 『さみこのままで』

          第一章 佐美子  本当は無理だとわかっているのに答えが出るまで諦めない人間は他の動物より頭が良いはずなのに動物と同じようにバカだ。私なんかは男と女両方イケるわけだから、二倍バカを見ることになるわけだけど特に今回は無理がある。彼女の名前は佐藤凛。彼女より優しい人は見たことがないし、人間不信だった私を救ってくれた恩人であり、趣味が豊富で、頭が良くて、可愛くて、酒飲みで、そしてストレートだ。当たり前だけど、女が好きな女が、女が好きな女を好きになるとは限らない。私は運の悪いことに小

          小説 『さみこのままで』

          小説 『軽音部の先輩』

          「晴天の霹靂」 初めて彼女を見たのは、大学内にあるコンビニに行ったときだ。商品棚の間でとんでもない美女とすれ違った。 「え?」 思わず心の中でそう呟く。入学してからあんな美女は初めて見たし、幼く芋くさい連中しかいないことに慣れ初めていたオレにとっては青天の霹靂だった。  午前最後の講義が終わったので、オレはクラスメイトの川崎と藤谷と一緒に講義室を出た。 「なあ、けんちゃんはニックの講義何個取ってるの?」 そう聞いて来たのは愛媛から来た川崎だ。 「オレは二つとも取ってるよ」

          小説 『軽音部の先輩』