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「三人で漕ごう」 町子さんと小太郎
三人乗り自転車で、サイクリングにでかける。
小太郎は学校があるから漕ぐのは私と町子さんだけだ。私が先頭に乗り、町子さんが真ん中、三番目は空席のまま海沿いの道を走る。
太陽が照りつけているので、こげ茶色のサングラスをかけて髪の毛を一本残らずピンで留めた。こうしておかないと、ほどけたところから海に吸い込まれて海草にされてしまう。
できるだけゆっくり漕ごうと思っていたのに、後ろで町子さんが
【小説】ハッピーアイスクリーム・⑩ 最終回
動画 タイトル 怪談その後
こんにちはー。
いや、この前は怖かったですよねえ。Mさんはともかくとして、いちばん怖かったのはゲストさんでしたよ。
話の途中で急に黙ったと思ったら、何も言わずに帰っちゃったんですから。トイレかなあと思って待っていたんですけど、いつまで経っても戻ってこないから見に行ったら本当に帰っちゃってたんですよね。
あとで本人から連絡がきまして、あの話、嘘が混じってたとか言
【小説】ハッピーアイスクリーム・⑨最後の一人が殺せない
残り七日になった。
有給の残りをすべてそこに当て、午後からも休みをもらった。
シバタはスマホをデスクの引出しに残し、社屋を出た。この三日で合わせて六時間くらいしか寝ていないというのに、最後の章はちっとも進まず、ただ机の前でぼんやりするばかりなので、タイマーを五分おきにかけてみたが、音が鳴る度に驚くだけだ。
駅までもう少しなのにもうこれ以上立っていられないくらい眠たくて、シバタはそこか
【小説】ハッピーアイスクリーム・⑧主語というやつは
ちょっと買い出しに行ってくると店長が言い残して出かけてから、もう四十分以上経っている。
店じまいした後で新作メニューを作っていることは、時給を倍にしてもらったから構わないのだけれど、せっかくのハヤシライスを味見してくれる人がいないのでは意味がない。
スマホを持っているだけでほとんど見ない店長なので、先に帰りますと書置きでも残そうかと考えながら後片付けをしていると、ドアノブが回されるがち
【小説】ハッピーアイスクリーム・⑦そんな人、いませんでした
動画 タイトル 怪談つづき 20××年7月投稿
こんにちはー!
今日も前回に引き続き怖い話をしたいと思います。
僕はまったく霊感が無いんで、人から聞く専門なんです。
で、奇特にも直接お話してくれるという人が現れました。こういうのって、やっぱり体験したご本人が話すのがいちばんですから。
―それでは今日はよろしくお願いします。
―あ、どうも。あんまり自信がないんですけど。
(女性の声が
【小説】ハッピーアイスクリーム・⑥ロイホにいる通り魔
日曜日、朝の十時までぐっすり眠ってしまったシバタは、パソコンを持って駅前にあるロイヤルホストに行った。家にいたら、寝るか食べるかネットをつないでいるかになってしまう。前回喫茶まりもでまるで書けなかったことを考えると、どれくらいの進捗が望めるかはわからないが。
メニューを持ってきた女性に、シバタはその場でナポリタンスパゲティとドリンクバーを注文した。
隣の四人掛けテーブルには、飲み干され
【小説】ハッピーアイスクリーム・⑤世界史教師と怪談とけしごむ
「わかったよ」
いきなり片田さんが、頬杖をついていた葛飾の手を外しにかかった。黒板の上にかけられた時計を見ると、とっくに五時間目が終わったところで、もう教室には自分と片田さんしかいない。自分はまた眠っていたのだろうか。
「何が?」
「昨日の四限にハッピーアイスクリームって叫んでたのって、生徒の誰でもなかった」
「どういうこと?」
片田さんによると、あの日、あの時間に体育の授業はなかったという。
【小説】ハッピーアイスクリーム・④夢の男と記憶の男
やってしまった。
カーテンの隙間に、矢のような光が見える。朝だ。昨日は結局まりもで全然書けなくて、コンビニでビールと明太子と春雨スープを買って帰った。一人の部屋でビールを飲みながら、残り少ない日数で雑に仕上げるくらいならこの原稿は次に回すという手もあるんだよな、とこの半月ほど繰り返したことを性懲りもなく唱えているうちに、眠ってしまった。
残りの十三日を、仕事意外すべてこの原稿に費やせば間に合
【小説】ハッピーアイスクリーム・③こっくりさん、それから
店からもらってきた売れ残りのハンバーグをレンジに入れて、温まるのを待っていたら、こういう無為な時間をつかって筋トレするんだよ、と帰りのバスの中で話していた女の人の言葉を思い出した。しかし、疲れているから電子レンジを使っているので、そんなことはしたくない。無為であるというのは同意するが。
一分にセットした残り時間が刻々と減って行く。口裂け女は一分間でどれくらいの距離を走れるのか。
それにしても
【小説】ハッピーアイスクリーム・②食べなきゃ、書けない
喫茶まりものドアを開ける前にシバタが腕時計を見ると、ちょうどデジタル画面が変わって5時35分になった。
この店は駅から離れた住宅街にあるせいかいつも空いており、好き勝手に座ってくれというシステムなので、ドアに近い二人掛けのテーブルを選んだ。ひとつ離れた席では、女子高生が教科書を広げつつあまり集中していない様子で飲み物を飲んでいる。たしかここでバイトをしている子だ。シバタも何度かコーヒーを運んで