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【SS】賑やかな静寂

白い靴下は足袋の代わり。分かっていても目の前を歩く着物の女性がすり足で響かせる音と私の歩く時の音は何か違う気がした。久しぶりに参加するお茶会は大寄せの茶会なので洋服でOKとのこと。事実男性の大半はスーツ姿なのだが、女性は洋装が少ない。何だか肩身の狭い思いをしながら末席で小さくなっていた。今年こそ一人で着物を着られるようになろう、と毎度お馴染みの守られない誓いを立てた。
着付けはできないが、お茶会に参加するのは結構好きだ。色々な珍しいお道具を眺めるのも好きだし、お茶会のためのお菓子も毎回楽しみだ。そして毎回なにがしかの発見がある。今回は「音」だった。柄杓を蓋置に置く時の音。茶碗を温める時のお湯を注ぐ音。抹茶を茶碗の中でさばき、茶杓で茶碗を軽く打った時の音。茶筅でお茶をたてる時のシャカシャカという音。手前というのは意外と色々な音がして賑やかではある。だけど、音がすればするほど妙に静けさを感じるのは何故だろう。そんなことを考えていた。
「どうぞ。」
そう言われて我に返る。大寄せの茶会なので次席以降は点て出しになる。私の目の前にも茶碗が置かれた。周りの人に挨拶をしてお茶を頂く。抹茶の香りが鼻孔をくすぐり、抹茶の味が口一杯に広がる。私はゆっくりゆっくりお茶を味わった。最後の一口を飲み切るときにズッと音を立てて吸いきる。また「音」だ。
お運びの方がお茶碗を引く頃、お点前が終わる。漂っていた緊張が解ける瞬間だ。人々の話し声やすり足の音がし始めた。賑やかだけど静寂はきえたようだ。
玄関で白い靴下を脱ぎながらホッと息をつく。心地良い緊張感。そこから解放されてちょっとだけ背筋が伸びるようだった。先ほどの静寂を思い出しながら私は帰途に就いた。


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このお話はフィクションですが、私自身がお茶会で経験したことを元に書きました。長いこと茶道を習っていて、一時はフラダンスと並行して習っていました。色々な事情で続けられなくなり、現在はお休み中ですがまたいつか茶道を習ってみたいな、と思っています。

ヘッダー画像はみんフォトの宗匡/茶道思考×化粧品原料技術者さんの作品を使わせていただきました。ありがとうございました。

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