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旅先での怖い体験

ひとり旅が好きなのだけど、旅先で怖い思いはしたくないので、そのテのウワサがあるところには近づかないようにしている。
子供の頃から怖いもの好きで毎年夏の恐怖特番を楽しみにして育ったけど、自分自身が怖い体験をするのは、できれば避けたいのだ。
ただ、そうは言っても、見たくないものに出会ってしまうコトもあるにはあって、できるだけ気にしないように、悪い方には考えないようにしている。
気にしないと言いながら、旅の途中で出会った怪現象の記憶は、なかなか消えないものである。私には、そういう体験が少なくとも3つある。
という話。

怖い体験エトセトラ

ひとつは、夕暮れの峠道での出来事。
コーナーが続く峠道を、夕暮れ時に車で走っていた時のこと、タイトなコーナーを曲がると少し先にモヤモヤと白っぽい人が何人か歩いてこちらに向かってくるのが見えた。何かの宗教の集団か山伏の修行だろうか、と思いながら速度を落として慎重に進んで行った先で、白い集団は消えていた、
ということがあった。
脇道もないようなところだったので、たくさんの人が「消えた」ことをうまく理解できずドキドキしたが、真相はわからず。あれはなんだったのだろう。
後から調べたら、この峠道は心霊スポットだった・・・。
この峠には、その後も何度かひとりドライブに行っているけど、明るい日中に行くようにしている。

二つ目は、出張先で宿泊したホテルでの出来事。
禁煙の部屋のはずなのに、突然、煙臭くなり、火災かもしれないと思いフロントに連絡したのだが、何事もなく、部屋を変えることを勧められた、ということがあった。
フロントの人の淡々とした対応や、そのホテルの場所柄から、たぶん、これはアレだよなあと思いながら、部屋を変えてもらったら、その後は何事もない一晩を過ごした。
不思議と、嫌な怖さは感じない出来事だった。

そして三つ目は、とある地方の観光ホテルに泊まった時のこと。これは、後味の悪い出来事だった。

「某所観光ホテル」での体験

「観光ホテル」と言うだけあって、団体客人数を収容できそうな建物だったが、雰囲気は古いビジネスホテルのようなもので、それなりに広いロビーの片隅に不釣り合いに小さなフロントがあり、館内がものすごく暗かった。観光シーズンなのに閑散とした、古びたホテル。
チェックインをして、エレベーターを降りると、そのフロアの廊下も薄暗くて、部屋の鍵をあけるのに目を凝らしたほどだ。
開錠して扉を開けると、室内に黒い人影があったので、「まだ部屋の清掃中だったか」と思い、すみません、と声をかけたのだが、人影はふっと消えた。
その日は一日中、車の運転をしていたので、疲れていたのかなと思うことにして、部屋に荷物を置くや、大浴場に行った。
(この時に、室内をしっかり確認しておかなかったことを、のちに後悔する。)
大浴場に行くまでの廊下も薄暗かったのだが、風呂場は明るくて清潔感もあったし、他に入浴している人もいなかったので、ひとりでゆっくりと入浴して、部屋に戻った。
それにしても、館内では不思議なほど他の客に会わない。
部屋はシングルルームだったけど比較的広くて、お風呂あがりに缶ビールを飲んだら、疲れがどっと出てきて、割と早めの時間にベッドに入った。

夜中に、「ドボドボドボ、ゴゴゴゴ、ボコっ、ジャアアアアアアア」というような水の音がして目を覚ました。時計を見ると、午前0時15分だった。
部屋のユニットバスの方から音が聞こえるので、確認してみたが、洗面台もバスもトイレも、水は流れていなかった。
古いホテルでは、上の階の水の流れる音が聞こえることもあるので、それかなあと思ったのだけど、私が泊まっている部屋の上の階に客室はないはず。
給排水設備が古いのかもしれないと思うことにして、再びベッドに入ったのだが、ジャアアアアっというシャワーのような水の流れる音が、また、聞こえる。
それも、明らかに、私の部屋のユニットバスの方から。

ああ、これはダメな部屋に泊まってしまったのかもしれないという気持ちが、ブワッと湧いてきたのだけど、そう思うと余計に怖くなるので、何もないように、何事も考えないようにして、目を閉じた。
水の流れる音は気になったのだけど、とにかく寝なければ、という気持ちで布団をかぶっていたら、今度は、なんとなく天井に気配を感じた。
恐る恐る顔を出すと、寝ている私から見て、左側の天上の隅に、人型の黒い影が張り付いているのが見える?。
あああああ、ダメなやつや〜ん。
私は、それに向かって「ごめんなさい、私は寝ます。」と声に出して言った後、寝ることだけを考えた。

翌朝、なんとか寝ていたようだけど、早い時間に目が覚めた。カーテンは閉めて寝たはずなのだけど、開いていた。
部屋の中には、生臭い、ドブ川のような、すごく嫌な臭いがしていた。窓を開けて換気をしたかったが、空気が流れない。
顔を洗おうとユニットバスに行くと、臭いの元はそこだった。
室内全体はそれなりに新しい感じにリフォームされているが、ユニットバスの中が、異様に古い。
昨日は気が付かなかったのだけど、洗面の蛇口周りや、洗面台の淵に、「黒いもの」がベッタリとついていて、排水口からは異様な臭いが出ていた。
トイレも、それ自体が古い上に、なんとも言えない嫌な感じがしている。
洗面の水は臭くて、歯を磨くことができない。
結局、顔も洗わずに、早朝にそのホテルを出た。
チェクアウトの際に、ユニットバスの臭いについて、ひとこと言ってやろうと思ったのだけど、早朝のチェックアウトが気に入らないのかフロントの対応がぞんざいな感じだったのと、私自身はとにかく早くそのホテルから立ち去りたい気持ちの方が強かったので、ルームキーを返すと領収書も受け取らすにホテルを出た。

本当に怖いのは、ここから

改めて思い返してみても気になったので、宿泊予約サイトの口コミなどを見直してみた。
すると、驚いたことに、このホテルの口コミ評価が異様に「高い」。
どんなに良いホテルであっても、宿泊者側の思い入れや思い込みやなんやかんやで、「ここをこうしてほしい」というような評価がされたりして、少し厳し目の評価を受けることはある。
だが、この観光ホテルはそれがない。全くない。
そんなはずはないだろう。
私が泊まったあの部屋の妙な現象は別として、館内の薄暗さ、ユニットバスの古さ汚さ臭さ、フロントの対応の悪さは、少なからず低評価に値するはず。なぜ、そんなに「絶賛するような評価・コメント」しかないのか?

そんなモヤモヤを抱えていたところ、偶然にも同じような体験をした人が、身近にいた。仮にAさんという。
Aさんも、部屋に違和感があり、妙なものが見えて恐怖を感じながらも、なぜだか一晩を過ごし、朝になって、室内の異様なまでの汚さや臭いに愕然としたそうだ。
入室してすぐには危機感が湧かず、翌朝になってから驚いたという、私と同じパターン。

いわゆる「見えるひと」であるAさんは、怪奇現象についてはあまり問題視していなかったけど、こういうホテルは結構ヤバイらしい。
ヤバイというのは、それを回避する行動をとることができなかったから。
自分の中の危機センサーが鈍麻してしまう「場所」というのがあって、そういう場所に囚われてしまうのは、非常に危険らしい。
あのユニットバスの仕様は、本来は「訳あり」として宿泊者に事前に開示すべき情報なんじゃないのかと思う。だが、そもそも、本当に古かったのかも、今となってはわからない。あの一泊は、異空間に迷い込んでいたかと思える気分だ。そこが怖い。

この一件があって以降、私は、口コミ評価をちゃんと見るようになった。悪い評価が極端に少ないことに対して、警戒するようになった。
そして、この、某所観光ホテルには二度と近寄らないし、この地域に旅行することもないだろう。
ここに記したことで気持ちを昇華したことにして、この件はこれでおしまい。


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