48.それぞれの道へ

 受験も終わり、みんなそれぞれに旅立つ準備が整っていった。
卒業式に向けて、準備も着々と進み、言葉に出しては言わないけれど、寂しさも少しづつ増してきた。

私は都内にあるS学園中学校に入学が決まった。
そこは仏教の学校。
今までキリスト教の学校だったから、雰囲気がガラリと違う。

みんなで讃美歌を歌うのも、最後になるんだなぁ…

予行練習は毎日行われた。
卒業証書を受け取る練習、讃美歌の練習。
音楽のH先生が決めた、ソプラノアルトに分かれて歌う讃美歌。
私は『ああ、ベツレヘムよ』という曲が一番好き。
でもこれは、クリスマスに歌うので、卒業式では歌わない。
Yちゃんとも、よくこの曲を歌っていた。

講堂の入り口に、ずらりと並べてある私たちの作品。
仲良しYちゃんと見に行った。
Kくんのクッションと私のが並んでいるのを見て、彼女は何か言いたそうな笑顔で、私の肘を突いた。

「そういえばさ、そめの図工の作品、灰皿やめたの?」
と言った。

S先生がね、
あれはダメだって!
みっともないって言われちゃった

「え〜⁉︎ ひど〜い!
あれ、お父さんに作ってあげたんでしょ?
私は、あの灰皿、好きだよ。」

彼女のその言葉に、私はとても救われた。

さすが我が親友!!
わかってくれてる、私の気持ち〜!
 
世の中には、自分の気持ちを理解してくれる人が一人いればいいって言うけど、こういうことなんだ、
しかも、それがYちゃんだったことが、私には一番嬉しい。

彼女のひとことに、落ち込んでた気分が、一気に晴れた。

ただ…
例えば、ここに灰皿が並べられてたとして…
みんなの目に映る灰皿は、今ここに並べられているものと比べたら…
どうなんだろう。

自分の好きなものと、人が思う “いいもの” とは、違う。
やっぱり、S先生の言うことは正しい。

ずっとS先生に頭きてたけど、冷静に考えたら納得できる。
Yちゃんは、やっぱり凄い。

Yちゃんがいつかくれた、銀のペンダント。
ハート型で、二つに分かれている、普通なら彼氏とペアで持つものなのだろうけど、それを彼女は私にくれた。
男の子と女の子の顔が彫ってあって

「私は男の子みたいだから、女の子の方をそめにあげる。
このペンダントを見たら、私を思い出してね。」

今でも、そのペンダントは大切に持っている。
ペンダントを見ると、この灰皿エピソードを思い出す。

 3月10日 卒業式

少し肌寒い、青空が見え、とてもよく晴れた日。
制服に袖を通し
「この制服を着るのも今日が最後ね。」
母が言った。

そうだね。

学校に着いて、教室に集まった。
いつもと違った風景に見える。
みんなの話し声が遠くに聞こえる。

これは現実なんだろうか

オルガンの音と共に、私たちは一列になって先生と一緒に講堂に入っていく。
いつもの少し狭い講堂、今までで一番明るく見えた。

予行練習の通りに歩いた。

転ばないように…
一歩づつ…

ここに入るのも今日で最後。
校長先生の優しい声も、もう聞けない。
誰かが読んだ答辞に、いろんなことを思い出す。

サッカーが一番上手かったMちゃん、
漫画家を目指していたNっち、お誕生日パーティーにもお誘いしてくれた、
私と一緒に運動会が無くなればいいと思っていたK子さん、小学生とは思えない大人の絵を描く人だった、
クラスで一番勉強ができたけど、お片付けが苦手のIくん、いつも先生に叱られてたね、
サッカーでポールと一緒に一回転しちゃったお肉やの息子Sくん、
お医者一家の息子Nくん、
ピンクレディの振り付けを手解きしてくれたOちゃん、
図工室の前の廊下で、みんなで踊ったね、
そしていつも面白い話を聞かせてくれるY先生、
お姉さんみたいなT先生にK先生、
優しくて包み込んでくれる保健&家庭科のM先生

一瞬涙が出たが、今日で最後、泣いてる場合じゃない。
ここの生徒でいるのは今日で最後なんだから。

M学園に初めてきた日
私はE先生に案内されて、誰もいない校舎を見て回った。
最後に三階の講堂の前で立ち止まり、廊下の窓から校庭を見た。
「うちの学校の校庭、狭いでしょ。」
先生が笑って言った。

私はこの学園、そしてE先生に救ってもらった。
2年半しかいなかったけど、それまでの人生で、一番充実した、幸せな日々だった。
たくさんの笑顔に囲まれて、時には喧嘩もしたけど、いじめじゃない。

一番楽しかった山登りのない遠足。
マザー牧場で、長い長い滑り台があって、それがとにかく楽しかった。
みんなでお弁当を食べていると、いたずらっ子Wくんが
「お前たち、いつも一緒にいるんだな。」
と、Yちゃんと私に向かって言った。

「へぇ〜、Wくん、私たちが羨ましいんだ!」

「別に!!」

彼は、大人になった今でも言ってくる。
仲の良いのはいいことだ。

E先生は体調を崩されて、最後の遠足には来られなかった。
いつも写真を撮ってくれていた先生は、代わりに教室でたくさん撮ってくれた。

あの頃は、何をしても楽しかった。
それまでの小学校生活から比べたら、天と地の差。

ふと仲良しYちゃんを見たら…
わんわん泣いてた。

そうだよね、
彼女は6年間この学園に通っていたのだから、思い出は私の3倍近くある。

みんなで歌う最後の讃美歌、最後の校歌。

こうして私たちは、旅立ちの日を迎えた。
そして、それぞれ道へ…。

…続く……🌻


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?