実際に行ってみないと分からないことが沢山あると思っている。いくつかの選択肢の中から、何かしらの理由で一つを選んで行動する。選ばなかった事柄は無いかというとそうでもないらしい。今どきの言葉で言えばパラレルワールドと言えるのかもしれない。
 
 姫神様たちが、
「今まではパラレルワールドと定期的に交わる点があり、選ばなかった選択肢を選びなおすことも出来なくはなかった。でも、これからは殆ど接点がなくなります。敢えて、今、敢えて、苦手な人に会いなさい。」
と言われてしまった。ルーズな人とか、偉そうな人とか、愚痴の多い人とか、何種類か苦手な人があるが、努力に努力して、会うようにしている。しかし、嘘みたく、その人達との縁が消えていく。丁寧に丁寧に準備をして会う算段をつけるのだが、不思議と会えない。新宿東口の交番前でアルタの看板を見ながら待ち合わせしてるのに会えない。間違えようがないのに、1時間も陽射しに照らされながら待ってるのに、すれ違ってしまうのだ。空間が交わらなくなっていくのだ。会えるか会えないかギリギリの人に会えば会うほど、その軋みを実感できる。どっちが偉いとか、選ばれた人間とか、そういう括りではない。世界線の接点が無くなっていくのだ。自分がどこに行きたいのか、どこに居たいのか、明確にしとかねばいけないなと思った。今まで、いろんな種類の人間に会うことが出来て、どれだけ学びになっていたか実感している。
 割けるチーズを食べる私に姫神様たちが
「これよ、これ!パラレルワールドといってもイメージするものはそれぞれかもしれないが、この割けたチーズが元に戻らないように、別れていってしまった世界に戻れなくなるんだ」
とのこと。そう言われても、なお、分かるような分からいような、わたしです。

 新宿西口を歩いていたら、路上ライブしている女性の声に心を掴まれてしまった。知らない人だし、知らない曲。好きな曲ですらない。だけど、引き寄せられるように彼女の前に立ち、聞きほれた。そのうち涙が出て来てしまった。私の身体に彼女のお父さんが居るのが私は分かる。お父さんが泣いているのだ。でも外から見たら私が号泣している。ライブの終わった彼女は、泣きじゃくる私の背中をさすってくれる。
「私の歌が届いて、ほんま嬉しいです。」
と、こてこての大阪弁で言う。私も言葉を選んで伝える。
「私って、エンパス体質なので、なんか、あなたのお父様が一緒にいるような感覚で聞いてしまって、心を奪われました。」
と言うと、彼女は驚いた顔をして
「父は5年前に亡くなりました。最後の曲は父との思い出を歌った歌です。父は歌手になりたかったけど、家族のために夢を諦めました。私は父のためにも歌手になりたくて歌ってます。」
私の身体を使って、彼女のお父さんが彼女に触れる。お父さんは泣きながら伝えたいことを私に伝える。私も、恥も外聞も捨てて、お父さんが言う通りに伝える。
「あなたが生きていてくれるだけで私は嬉しい、そのうえ歌ってくれてるなんて、とても嬉しい。自分の生きたいように楽しく生きて下さい。いつも遠くから見守っています。」
初めて出会った彼女と泣きながら抱擁した。

 知り合いの青年が、国防に志があり、大手企業を辞めて自衛官になった。転職お祝いで一緒に食事したときも、それは起こってしまった。突然、私の身体に誰かがスポッと入ってしまった。その青年のことが愛おしくてたまらないらしく、しかも自衛官になることへ抵抗があるらしく、涙が止まらない。
「私の身体を使って行動、発言はお断り!!」
と、叫んでしまうほど、青年に抱きつかんばかりの勢い。
「せめて、せめて彼の手を触りたい」
と言うから
「絶対だめ!私が変態になってしまうだろう!!」
と私のなかでは大騒ぎ。
 帰宅してから、私に入った人に話を聞くと、平安時代、彼の恋人だったが、防人に行ってしまい、会えなかったとのこと。ずっとずっと彼のことを思い、成仏できなかったようだ。手だけでいいから触りたかったと言うが、そうはいかない。
「一応、あなたの想いは伝えておきますね」
と言い、手紙で伝えた。改めて万葉集を読み、悲恋の人達のことに思いを馳せた。


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