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【小説】最推しに逢いたい~Sister's Wall~第3話

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「姉ちゃんいい加減にしろよ…自分の都合だけで反対するなんて子どもなのか?これは言ってみたら僕と事務所との契約に関係する問題だ。これを決めるのは僕なんだよ!」



「それで私が大人しく引くとでも思った?」
初めて手を出したものの、怯まなかった美嘉を見てさらに怒りを募らせた彼方はこれまでの恨みをぶつけた。
「大体姉ちゃんは他のメンバーとは違ってこれまで一度もミユだけを仲間外れにして僕には会わせないようにしておいてよ。せっかく姉以外からミユに会わせられる機会を作ってもらうのに、姉ちゃん一人のわがままで反対するのはやめろ!」
「こればかりは事務所の上層部からも言われた事だから美嘉の一存で決められる事じゃないの。ひとつの条件を満たせば入ってくれるのよ、会社にとっては据え置く事だけでも儲けものと考えているみたいなの」
美乃梨が追随する。どうやら事務所にとっては籍があるだけでメリットがあるのだろう。確かにこれは美嘉の勝手で反対できる案件では無いのだ。
今まで言いなりだと思っていた弟や苦楽を共にした仲間から反抗されてしまった事が余程ショックだったのか、美嘉は言葉が返せなかった。そうして美嘉はそそくさとリビングを去り自室へと向かっていった。

「なんか僕、悪いことしちゃったのかな?」
先程の行動に自責の念にかられた彼方だが、有菜はフォローを入れる。
「別にいいんじゃないの?今までリーダーだからといって結構好き勝手やってきたけど、所詮は『お山の大将』。どうにもならない事がある事を知ったんだし、ミカにはいい薬だよ。それでカーくんはどうするの?」
しかしすぐ答えを求めてきそうな言い方に美乃梨が待ったをかける。
「こらこら有菜。この返事すぐには聞かないから、じっくり自分や周囲と考えてね。今度の日曜日にまでに決めてね」
「そうそう。でも彼方くんという世界的にも優れた逸材が入ってくれたら私達も嬉しいよ。美嘉のことは気にしなくていいからね」
「君が入ってくれたら特別ボーナスくれるって言うしさ!ボク、新しいIT機器欲しいから頼むねー」
「「有菜、余計な事言うな~」」
結局は金が目的…なんだけどアイドル達の渋い懐事情を知っているので必死なのも理解していた。それに自分が意固地になって無所属を貫いて事態が悪化するのであれば、勝手知ったる所にお世話になるのもいいと感じていた。でも完全に決意するまでは少し時間は必要だった。そして猛反対している姉にも頭を冷やしてもらう事も…

 この一件以降、彼方と美嘉は口を聞く機会がほとんど無くなった。気まずさもあるが美嘉が翌日から1週間はグラビアの仕事でハワイに行く為そそくさと出て行き、家には彼方一人しかいない状態である。それでも彼方がやることは変わらない。火水と仕事と勉強と夜の推し活のルーティンをこなし、登校日の木曜があっという間にやってきた。
「…」
「どうしたんだ彼方?」
登校日のお昼、彼方は校内の学食の日替わりランチである唐揚げにほとんど手をつけないまま考えこんでいた。事務所入りするか決めかねていたのだ。
「考えこむのも良くないぞ。俺たちに話してみな」
心配してくれるトオルとケンタを見て、意を決して打ち明ける事にした。
「実は僕、CheChillと同じ事務所に入らないかと勧誘を受けたんだ」
「えー?彼方、アイドルデビューするのか?」
「声が大きい!文化人として所属するだけだよ」
「あ~そうか…彼方ってホワイトハッカーとして有名だもんな。文化人として事務所入りは妥当かもしれないな」
「でもどうしてその話をしたんだ?いきなりすぎてビックリしたよ」
「周りのみんなの意見も聞きたくてね」
事務所所属の話、最初は学友の意見を聞いてみることにした。
「いいじゃないの?たまに出る程度なら」
「俺も同じ。でも事務所に入ったら推し活は抑えるべきだぞ」
「確かに」
「「「ハハハハ~」」」
あっさりと賛成してくれて、冗談言い合いながら笑い飛ばして事務所入りの決意を固めさせてくれた学友達に感謝した。
 昼休み終了前、トイレでの用足しを済ませて出た所でこっそりと電話している裕美を見かけた。彼方は聞き耳立てるのも悪いのでそそくさと立ち去ろうとしたら、丁度通話が終わったのか裕美が話しかけてきた。
「彼方君、奇遇ね」
「奇遇も何も校舎内だよ。もうすぐ5限目だから早く準備しなよ」
予鈴が鳴り、先に教室に戻る彼方を見て裕美はほくそ笑んだ。
「日曜日が楽しみね…」

運命の日曜日、彼方は着慣れないスーツと今まで入った事のない大きな会議室に緊張していた。
「大丈夫よ彼方君。意思を固めたんならあとは契約書を読んで締結するだけよ」
「そ、そうだね」
某大手芸能事務所の会議室には彼方の他に美乃梨と有菜が在室していた。美乃梨が彼方を宥めていると、会議室のドアが開き一人の女性と秘書らしき人物が入室する。
「はじめまして、和泉彼方さん。本日はお忙しいなか弊社にお越しいただき誠にありがとうございます。私が今回、あなたの事務所所属の手続きを執らせて頂く副社長の長浜(ながはま)みずきです。宜しくお願いします」
「よ、宜しくお願いします」
「そんなに畏まらなくていいのよ。基本的にはこちらからのお願いに応えて、我が事務所に所属してくれるだけで大歓迎なのだから。手続きも渡される書類に目を通してサインと捺印するだけだから。あとご両親の許可はひとまず口約束で了承頂けたと聞いているから承諾書も後日送っていただけたらいいので、早速始めましょう」
緊張する彼方をよそに緩急をつけて接する長浜みずきという副社長は、スムーズに事を進めれるように手筈を整えてくれていた。そのこともあり渡された契約書を丁寧に説明してくれ、彼方も早く理解できた。署名と捺印を済ませて晴れて事務所所属の文化人・和泉彼方の誕生となった。
「これで契約が締結されました。我が事務所へようこそ和泉彼方さん。これからよろしくお願いします」
副社長が締結と歓迎の言葉を告げた。彼方にとってはそこそこ時間を要したがあっという間にも感じた。しかし違うのは彼方はこの瞬間から、ホワイトハッカーだけでなく大手芸能事務所所属の文化人になったことだ。
「さて、今回はこちらの請願で彼方さんには我が事務所に所属してもらったわけだから、彼方さんの条件も飲まなければいけない」
この一言で彼方は待ち侘びていた瞬間に直面する。これまで今まで画面越しでしか見れなかった「ミユ」とついにご対面だ。
「本当に合わせてくれるんですね」
「勿論よ。『ミユ』、入ってらっしゃい!」

副社長の指示で会議室のドアがゆっくりと動きついにミユが入ってきた。
その容姿は正統派、清純派の言葉をそのまま具現化していた。容姿、立ち振る舞いはまさに正真正銘のアイドル。そんなアイドル「ミユ」を生で見たあまり、感極まって先ほどの契約以上に緊張している彼方はぎこちなく挨拶をする。
「は・・・はじめまして、本日より同じ事務所に所属することになりました和泉彼方です。『ミユ』さんのことはデビュー当初から大ファンでした。部門が違うので接する機会はそうないと思いますが、一緒に仕事する機会がございましたらよろしくお願いします」
緊張している彼方を見てミユはいたずらに微笑む。
「ふふふ・・・まだ気づいてないの?」
「え?」
まるで前から彼方を知っているような口ぶりで話を進めるミユ。
「私よ、同じ高校に週1であっている米原裕美よ!」
正体が彼方のクラスメイトだったのだ。これには彼方も驚いた。
裕美は普段マスクで口を隠していたから気づかなかったのだ。彼方はマスクが外れたところを一度拝んだことがあった。その一瞬の記憶を呼び寄せると確かにミユに似ていると感じたが同一人物とは思ってもみなかった。

「なんだよ~最近『ミユ』が身近にいるってこういう事だったのかよ」
前にエレナと栞が言っていた真実をこういう形で知った彼方は今までの緊張していた疲れもあり地面にへたれこむ。最近ではあるが、ミユがそばにいた事は確かだったのだ。
「ようこそ私たちの事務所へ。これで学校だけでなくこの世界でも縁ができたね、彼方君」
裕美は手を差し伸べながら彼方に改めて挨拶をする。彼方は裕美の手を取り立ち上がると今後の事を質問した。
「う…うん。これから宜しくお願いします…なんて言えばいいのかな?ミユ?裕美?」
「学校では『裕美』、仕事では『ミユ』と使い分けてほしいな」
「わかったよ、『ミユ』さん」
「よろしい!」

「カーくん喜んでるね」
「しかし大変なのはこれからかもしれないわね」
美乃梨と有菜は裕美と彼方のやりとりを見守りつつもこの先を懸念してた。
ついにミユこと裕美と対面を果たした彼方。これにより遮る壁はなくなった・・・わけではない
あくまで支援者による回り道で避けたにすぎない。
ミユこと裕美と繋がりができた今、手を取り合いその壁を突破する事になるのはまだ少し先の話だ。

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