見出し画像

婿殿異聞

帰宅して、麦茶をすする。

娘はオタオタしていたが、私がYちゃんにLINEして、返事が来てそれを見せるとやっと落ち着いた。

「何にしてもさ、私はアンタに強くは言えないのよね・・・」
嘆息すると、聞いていた夫がニタニタしていた。
「娘がどうのというより、娘が母に似ただけだ」

そんな顔である。
「何よ」
と言うと
「別に」

言いたいことは分かっているのだ、チクショー。

この夏は異常な暑さで、北国なのに毎日37度である。熊谷あたりの最高気温が毎年話題になるが、今年はこちらの方が断然暑いし、朝晩も暑いままである。エアコンは24時間点けっぱなしだし。

私は夏でも冷たい飲み物ではなく、熱い物を飲むのだが、今年はエナジードリンクとか、スポドリ系、そしてまさかの氷系のアイスを多用してしまっている。夫も夏場だけはアイスを食べるが、フルーツ系の氷菓である。

今年は一時期「白くま」にハマっていた。そこらで売っているのではなくコンビニにある、少し豪華な方だ。普通の白くまより、コンデンスミルクが多く実にうまい。しかし、冷凍庫には凍らせたペットボトルなどこの時期満杯で、毎日買い出しに行くのも躊躇われ、ミルク氷を買っていたら、それがまた実にキーンと美味い。

「結局ね、コンデンスミルクなのよ」
という結論である。

「Sさんも暑い中忙しいんでしょ、家ではどうしてるの?」
「だらっとしてるよ」
「そりゃ疲れて帰るだろうからね」
「そうじゃなくて、ゆるゆるしてるよ」

婿殿と相まみえたのは、3度だが、いつの時も背筋が伸び、姿勢が崩れることがなかった。

「ダラダラゆるゆる? いつもきちんとしてるじゃない」
「それは時と場合でしょ、ウチではお尻まで出してるよ」

娘が笑いながら言う。

「えっ・・・お尻?」

どういう状況でのオシリ出しだろうか。全く想像がつかない。

「それはどういうことなの?」
「部屋着のズボンのゴムが緩いんでしょ」
「緩いんでしょってアンタ、直してあげなさいよ」
「いいのよ、本人はその緩さがいいみたいだし。パンツが見えたり、お尻まで下がってたりするよ」

「お尻まで下がったら不便でしょ」
「面白いよう、意に介してないもん。寝てるときは・・・」

こんな顔してたり、こんな様子だったり・・・とウヒャヒャと笑いながら説明する。

「まったくもって信じられない」
「それからね、走るのよ、アイス持って」
「アイス持ってって、買ってきて融けるから?」
「違うよ、冷凍庫から出して走るの」
「走るってなんで」
「早く食べたいんでしょ」
「アンタんとこ、冷蔵庫からテーブルまでそんなに離れてるの?」
「そんなことないけど、いつも走るんだ」
「で、どうするの」
「嬉しそうにアイス食べてるよ、アイス好きだし」

私は、婿殿が半パンツ、半ケツで緩い部屋着でアイスを持って走るという姿が想像できない。

「信じられない」
「どこもそんなもんでしょ、家だもの」
「風呂上りはどうなの」
「そのまんまだよ」
「隠さないの?」
「何で隠すの」

思わず夫を見ると
「普通だぜ」
とニタニタしていた。


走る婿殿。アイス手に。


娘は
「とにかく面白いよォ」
と満足そうである。

そんな時、娘のスマホがチロリンと鳴った。

「もすもす、あ、おつかれさんです、どこ? ほう、ならあと一時間ちょっとだね。ウンウン・・・へいへい、んじゃ気を付けて」

婿殿は隣県に日帰り出張で、帰途に着いたところだそうだ。

娘は
「じゃそろそろ帰るかな」

娘と婿殿の帰宅はほぼ同じ時間帯になる。私は、おかずをいくらか詰めて、持たせた。

「じゃあまたね」
「気を付けてね、暑いからね」

帰宅後は、風呂か食事か、そのあとは部屋着で、冷蔵庫からアイスを取り出して走って・・・。

婿殿も四角四面の理系ではなかった!!!

私は娘の車の音が遠ざかるのを聞きながら、笑うまいとしても笑えて来て仕方が無いのであった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?