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寸借詐欺

息子も社会人となり久しいですが、こんなこともあったんですねぇ・・・

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息子が高3の時の事だが、たまたま持ち合わせが無くて3000円借りた。
ワタシは借金という行為を心底憎んでいる。
ゆえに、ずるずるというのは沽券に関わる。

なので、
「明日、給料日だから帰ったらすぐ返すよ」

そう言って借りた。

3学期は殆ど受験のために費やされる。
翌日は午前授業だった。

昼前、学生服の男がワタシの勤務先の窓口にまっすぐ近づいてきた。
息子であった。
ワタシは忙しかったので、ギロリと一瞥した。

「どうしたのよ」
「3000円」
 
息子は手を差し出した。
 
彼は昨日のワタシの約束を覚えていて、取り立てに来たのである。
期限はその日の夕方ではないか。
なのに厳しい取立てなのであった。

後日、推薦入試で高校は休み。
なのに息子は朝、一緒に出るという。

「どうしたのよ」
「きのうバスに財布落として、運転手が拾ってくれて学校に電話が来たんだ」

バスセンターまで行くという。
「よくよくお礼しなさいよ」
「へいへい」

財布には4000円入っていたという。
何故昨日のウチに言わぬ。何かお礼など用意したのに。
このご時世、落とした財布が無事に届くありがたさを知るがよい。
いや、知っているか。
彼は、小学校の頃、通学の時何度も財布を拾い、そのたび交番に届け
煩雑な手続きをして、落とし主の恩人であった。
「そんなに落ちてるものなの?」
 
いつだったか5万円も入った財布を拾ったこともあった。
落とし主は、寒い中わざわざ御礼に来た。

それはともかく
昼、又ヤツは窓口に来た。

「どうしたのよ」
「昼メシ」

財布は無事に戻り、もうすぐ昼なのでワタシに奢らせに来たのだ。
娘はまず来ないが、息子はよくそうやって来るのでいつもみんな言う。

「信じられない、高校生の息子とランチなんて!!!」
「可愛い息子さんだねー」

違うのだ。
彼はお金がらみの用事ばかりだぞ。毎日ぎゅうぎゅうに詰めたお弁当を持たせても、足りないと言い
「昼飯代」
そう言ってワタシから寸借詐欺を重ねてきた。
いくらのものを購買で買って食べたか知らないが、お釣りが返ったためしがない。
 
ワタシは何度詐欺にあっても学習できない愚かな被害者だ。
哀れなワタシはそれでも奴を待たせておき、程なく昼休みになると、若いニイチャン(息子)とロビーを嬉々として歩いて外に出るのであった。

ヤツは、カルボナーラの大盛りを食べてコーヒーを飲んで帰宅した。

夕刻、帰宅したワタシに

「メシは」
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むろん、ヤツが作ってくれていて
「メシ食べるか?」
ではない。
早く作れというのだ。
ったく・・・どうせこんなもんさ。
 
そういえば私がインフルエンザで寝込んでいた時も、
「センター試験代」
とか言われて出した気がする。
寝込んでいたのでお弁当をサボった時も
「昼食代」
と、息子だけでなく娘にも徴収されていたような気がする。

そしてワタシは自分で書いた、息子との蜜月の遠い昔の記事を読み、
時の流れの無常を知るのであった。

息子は高校を卒業し、隣県の大学へ進学し、地元に戻って就職しひと頃は家から通勤していたが、一年ほどして別に部屋を借りてやっと自立した。

ある夜
「髪切ってくれよ」
と来た。

髪はついでで、ご飯にありつこうとの魂胆である。
しかし、なんだかおかしいので聞いてみると

休暇明けなのに夏風邪をひいて熱を出していた。しかし休まず仕事に行っていて、熱を測らせると37度5分であった。夫と交互に

「今日は泊まれば?」
「明日は休めば?」

しかし休みもせず、ご飯食べて髪を切ってシャワーをして自分の家に帰っていった。

そういや一昨日も昼に突然現れた。疲れた顔をしている。

「毎日残業で10時過ぎなんだ」
「そりゃご苦労さん、ご飯まだでしょ」
「うん」

ありあわせの粗末なご飯でも、文句を言わないでガツガツ食べている。
サラリーマン生活は、付き合い加減がまだよくわからないから、断れずに飲み屋に連れていかれたりして、働けど・・・だと容易に推察できるが、流石に親にはもう一切お金の話はしないのが、憐れにおかしいのであった。

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