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[手紙] ラヴェル ← → ストラヴィンスキー 1915.1.2 — 1915.1.10

音楽も生き方もエキセントリックだったフランスの作曲家、モーリス・ラヴェル。友人や家族に宛てた手紙、他の作曲家についてのコメント、レクチャーやインタビューなどシリーズで紹介します。
ファンタジー小説、評伝、ラヴェル本人の残したものの3部門で構成されるプロジェクト「モーリスとラヴェル」の中のコンテンツです。

4 Avenue Carnot, Paris
1915.1.2

やあやあ、なにもかもが極上のやり方で、我々の仲間(キミのことだよ)を受け入れる準備ができたていたんだよ。ペルシャ風の部屋に、ジェノアのシェード、日本の版画、中国のおもちゃ。まったくのところ、バレエ・リュスのシーズン勢揃いだな! 機械じかけのナイチンゲールまである。なのに、きみは来ない、、、あー、スラブの白昼夢だ! わたしがサント*からメモをもらったのも、白昼夢なのかな? 彼はわたしが1月の終わりにスイスに行くことを知って喜んでいた。君に以前に書いたとおり、わたしは行こうとはしているが、やつらがわたしを君たちの元に向かわせようとしているか、かなり疑っているんだ。

君の兄弟や君の家族全員、そして君自身の近況を今か今かと待っているよ。そうこうする間に、新たな年(新暦=グレゴリオ暦で)への愛のこもった想いを受けてくれ。

あなたの友、モーリス・ラヴェル

*テオドア・サント:ハンガリーのピアニスト、作曲家(1977〜1934年)

Hôtel Victoria, Château-d'Oex(スイス)
1915.1.10

やあやあ、わたしのことを怒らないでほしい。心から君に会いに行こうとしたんだけれど、経済的な理由で不可能だったんだ。届かない金を、当てにして待ちつづけていた。君以上にこっちは残念に思ってるんだ、実際のところ。それに加えて、妻が家事で疲れきっていて、家族全員で山に行こうと決めたんだ。小さなどこにでもあるようなペンションだ。そこで冬いちばんの時期(1月)を過ごそうとね。で、我々家族はここにいる。そこに突然、ディアギレフが、ローマに会いに来いと言ってきた。そんなこんなでパリに行くのが難しくなったわけだ。

サントについて:ローザンヌかジュネーブで、「ラヴェルとストラヴィンスキーの音楽をやるコンサート」があって、その半分を指揮するために、君を招こうという案があがっていた。それは行なわれるはずだったんだけど、おそらくやらないだろう。もう一つハンガリーの白昼夢があるよ。そのせいで運に恵まれない人々が、そこで大変な苦境に陥っているよ。

あなたの素晴らしい新しい年(旧暦=ユリウス暦で)を願って、この手紙を終わりにしよう。君の大切な母上が健やかでありますよう。

真心をこめて
イゴール・ストラヴィンスキー

*わたしの兄は完全に回復したよ。

(アービー ・オレンシュタイン編 "A Ravel Reader: Correspondence, Articles, Interviews"より/訳:だいこくかずえ)


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