3月16日

 仕事のために健康診断に行く。交通費を払って、何故、こんな遠いところまで時間をかけて行かなければならないのか…。言われた時点で全て嫌になった。
 もっと身軽に働きたい。
 組織が大きいと、面倒臭いこともそれだけ多いのかも知れないが、短期なのにここまでしなければならないことが物凄く重かった。
 そんな大きな職場で働きたくない。
 心の中で思っているせいで、大きすぎる組織に短期でも雇われることに脅威している自分がいた。
 早く、収まるべきところに収まりたい。
 この短期中、私に何が出来るだろう。
 働くべき職場が見つかるだろうか。
 造園の仕事が未だに気になるが、休みが少ないので体力が続く自信が無い。もう少し休みがあれば…。
 就職氷河期世代が輝けるような会社を、自分で創ったり出来ないだろうか。政府は当てにならないし、それぞれが出来ることで世の中の役に立てるような、そんな会社があれば、あらゆる不幸も少しは軽減されるのではないか…。
 自分の能力に自信は無いが、あらゆる占いに、私が起業し、人の上に立つ仕事をする才覚があると書かれてある。調子に乗りすぎで、根拠のない情報に絆されているだけだと言われればそれまでだが、あまりにもあちこちに書かれていると、そんな未来がないわけでもない気になってくる。現に、アイデアは常に溢れている。実行力がなく、方法がわからないだけで、前に進めていないだけ…と書きつつ、この二つが最も重要なのだから、結局、宝くじを買いもしないのに【捕らぬ狸の皮算用】しているだけなのである。
 健康診断のために手続きに行ったが、手違いで受けられなかった。予約制で混み合っている可能性があり、行った日に出来るとは限らないとは聞いていたが、そもそも順番が違っていた。とても面倒臭い遠方で、書類を提出して予約するのだと思っていたら、窓口の女性に聞かれた。
「もう予約はされていますか?」
『は?』と思い、思っていた段取りを伝えると、勤務先から渡される予定だった、予約手続きの方法が記された書類を、そもそも受け取っていないのだと知った。女性によると、それは勤務先が被雇用者に渡す手はずになっていたらしい。見ると、予約の方法や健診日程、クリニックの場所など、健診に必要な全ての基本的な情報が記されていた。結局…この書類をもらっていたら、先に自宅から予約を入れ、取れた日時の午前中に受付へ出向き、午後から受診すれば済んだのだった。
 受付とクリニックの場所までの移動には、電車に乗る必要がある。当日、受診することを想定して電車の一日乗車券を購入したのだが、結果的に元が取れないことがわかった。
 予約がいっぱいだと受けられない…という想定は少なからずあったので、元が取れなければ何処かへ寄り道して、平日の都会をぶらぶらしてから帰れば良いと思っていた。しかし、そんな気力が失せてしまったのは、勤務先の手違いで、私が二度手間を被ることになったという事実に少なからず憤りを感じたからだ。交通費が二倍になり、時間が無駄になったことに苛々した。
 丁度昼時で、私が入ろうとしている建物の中から、スーツ姿の軍団が一斉に出て来たこともストレスになった。出てくる職員の集団に「お疲れ様です」と声をかけている警備の女性が、出入り口に立っている。彼女に、目指す建物がここかどうか尋ねた私は、溌剌とした彼女の受け答えにとても好感を持ったが、「お疲れ様です」と声をかけられたスーツ達は、誰一人返事を返さないばかりか、振り向きさえしなかった。
 ここで働いているのはエリートばかりの筈だが、私はどんなに賢くても大都会で働きたくないと思った。同じ方向に向かって行くスーツ集団は、私にとって脅威にしかならなかった。
 出掛ける前、かかってきた電話にも不信感を抱いていた。前日、携帯にかかってきた後、今朝も二度、携帯に着信があったことに、電車に乗ってから気付いた。電源を切っていたので気付かなかったが、今朝、自宅にかかってきて電話を受けたので、「自宅へ連絡…ということを忘れていました」と言う言い訳に関しては、素直に受け取った。
 一方、やはり仕事の空きがあるので働いて欲しい…と言いながら、勤務先の情報などは電話では明かせないという。再び窓口へ来いというので閉口してしまった。
 既に決まりかけている仕事があることは伝えており、比較検討した結果、返答する予定だったと改めて伝えたが、それをするのにまたもや出掛けていかなければならない手間とは一体何なのだろう。そもそも、仕事がありそう…と言いながら、出向けば聞き取りだけで、雇用先があるかまだはっきりしないと言う。働いてくれと言いながら、何処で働くのか知ることも出来ないって…。
 無職でいればずっと暇で、自宅でごろごろしている。呼べば飛んでくる。そんな風に思われているのだろうか?全然そうではない人間もいる。現に此処に…。
 一日乗車券の元を取るため、乗り継ぎの駅で一旦改札を出てみた。デパ地下を一回りした後、ショッピングビルの中に大きな本屋があったことを思い出して、てくてく歩いているうちに、面倒になって翻そうとしたエスカレーターから、目的の本屋が見えたのでそのまま入った。
 映画に出掛けると、空き時間に近くの本屋で翌月の占いをチェックしていたが、コロナでめぼしい新作が公開されず、足も遠のいていた。来月の占いをチェックしたら帰ろうと思い、雑誌コーナーで見つけた占い特集をめくる。目に入った気になる記述を無視できなかった。
【4月…不本意な転職の可能性あり。】
【5月…諦めていたチャンスが到来。新しい出会いに期待。】
 いずれも仕事運で、一部抜粋だが、いつも当たらない占いなのに、ちょっと現状と通じている気がする。
 不信感だらけの転職に、ずっと晴れないモヤモヤを抱えているが、来月働き出したとしても、翌月には状況が変わるかも知れない。
 昨日たまたま読んでいた本にも、私がこの一年、自分自身に呪文のように言い聞かせ続けた言葉がふたつ、しっかり刻まれていた。
【目の前のことをひとつひとつ一所懸命熟していたら、道は開ける。】
【辿り着くべき場所に、必ず辿り着く。】
 同じく一部抜粋の独自解釈である。
 出来ることから…しかし、将来を決して諦めない。
 二日続けてくたくたになったが、今までずっと、家にいても走り続けていた。糸が切れたように何も出来ない日が、二日くらいあっても仕方が無いと、今夜は自分を甘やかすことにした。

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