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ウクライナ情勢(国連安保理決議がもたらすUAEへの影響 その1)

 FATF(Financial   Action Task Force、金融活動作業部会。1990年にマネロン対策における国際協調を推進するために設立された政府間会合)は、3月4日UAE(アラブ首長国連邦)の監視強化を決めたことをNHKが報じています。

 今回は、このFTAFによる決定の裏側にある事情について考察してみました。

1  ロシアによるウクライナ侵攻と国連安保理決議

 国連安保理が2月24日から始まったロシアによるウクライナ侵攻を受け非難決議を審議、採決に諮ったところ理事国のうち

  中国、インド、UAE

3国が「棄権票」を投じ、その後の国連総会開催決議案を審議・採決時においても

  中国、インド、UAE

が棄権票を投ずるなどロシアに一定の理解を示す行動を取ったのです。

  ※ その後の国連総会における非難決議でも上記3国は同様の決定を下しています。

 全世界が一致してこのロシアによる蛮行を非難すべきでは?という極めて大事な局面で安保理理事国として、また国連参加国の一員として上記3国がこのような態度を示したことが米国をはじめとするロシア対抗勢力の国々に波紋を呼び、更にはこれらの国々に対してじわじわと様々な対抗策が練られているようです。

2  FATFがUAEを監視強化の対象国に指定

  米国同時多発テロ(以下「9・11」)以降、それまで組織犯罪によるマネー・ロンダリング(以下「マネロン」。資金洗浄)の対策機構として設立されていたFATFはテロ資金対策の分野でも絶大なる影響力を発揮しています。

  つい最近もFATFが日本に対して「日本国内の銀行はマネロン対策、テロ資金対策が不十分である」と9・11以降における過去20年間の日本の金融機関の対応が不十分であり更なる対策を講ずるよう勧告を出したばかりなのでFATFという組織名は記憶に新しいかと。

  そのFATFが今度は「この時期」にUAE(アブダビ、ドバイなど化石燃料で潤い、世界の金融市場をリードする首長国が存在)に対して「監視強化の対象国」として指定するという挙に出たことは注目に値します。

  ※ 現在監視強化国として指定されているのは

    アイスランド、トルコの2国です

  これまでUAEの一首長国であるドバイは、化石燃料のみによる歳入体質を脱却すべく

   🔹 国内での取引では一定の地域に限定するものの関税フリーのフリーゾーン構想

   🔹 法人税及び個人所得税は無税

などの驚くべき施策により「規制の少ないビジネス環境」をアピールして外国企業の誘致を推進するとともに世界から資本を集め、その資本を元手に極めて短期間で経済成長を遂げ、次々と世界の耳目を引くようなブルジュ・ハリファのような建築物、7つ星ホテル、世界一の規模を誇るドバイ・モールの建設、2020ドバイ万博の開催などかつてのバハレーンのような、国際金融都市プラス中東一の近代都市化を進めてきました。

 それは、これまでにもUAEがテロ組織への資金供与をしていた(あるいは現にやっている)のではないかという米国をはじめとするテロ対策分野からの疑念を孕みつつも半ば黙認状態であったためここまできていたというお話です。

 それがある意味「晴天の霹靂」で突然のFATFによるいきなりの「監視強化の対象国」指定。

 これは、国際社会(というよりも米国主導)がUAEに対してこれまで大目に見ていた金融政策に対して監視を強化し、UAE取り分けドバイが謳歌してきた施策に対して冷や水を浴びせるという極めて注目すべき対応です。

3  FATFによる「監視強化国」勧告の効果について

 監視強化国に指定されてしまうと、その国・地域やその国民・法人は、他のFATF参加国から、金融取引を規制・制限されてしまうこととなりかねないのです。この勧告を無視して金融取引を継続していると、今度は取引を許した側の国・地域がFATFの勧告に違反していることとなり、マネロン・テロ資金供与対策が不十分と見られてしまいます。

 つまり、これまでのドバイ 繁栄を支えてきた源・バックボーンともいうべき

  「規制の少ないビジネス環境」

が根底から覆されることとなるわけです。

4  まとめ

  今回の FATFによるUAEの「監視国指定」は、国連安保理におけるロシアによるウクライナ侵攻に対する非難決議採択においてUAEが棄権票を投じたことと因果関係が皆無であることは否定できないものと思われます。

  たまたま国連安保理理事国であったこと、そして非難決議での行動によりこれから先UAEが払わされる「ツケ」は一体どんなものなのか?

  それは今後の推移を見守るしかありませんが、少なくともUAEがこれまで謳歌してきた繁栄に影響が及ぶことは否めないものとみられます。

  一時期ドバイに身を置いてビジネス活動を行なってきた一人として一抹の不安を禁じ得ません。

  ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

  本編の続きは、現地ドバイからの情報など最新情報を満載して連載として行きたいと思っておりますのでご期待ください。

                           了

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