見出し画像

警察よもやま話(刑事と公安)

 映画「踊る大捜査線」で出てくる刑事部門と公安部門はあまり仲が良いように描かれてませんよね?本当のところはどうなんでしょうか?今回は、刑事警察と警備公安警察の思考プロセスの違いという観点からこの問題について考えてみたいと思います。

1    刑事警察の捜査プロセスと考え方

  刑事警察は捜査が基本です。捜査とは

  🔹 現場に残された物証(毛髪、皮膚痕、血痕、足痕、指紋、唾液などの目に見えるものから、「微物」と呼ばれる目に見えないような小さなものも含みます)

  🔹 風評や周囲の人々からの聞き込み、参考人の取調べ、犯歴調査

  🔹 被害者の生い立ち・交友関係、最近の生活状況、私的公的な怨恨関係の有無など被害者に関する情報

などを経験則と先入観を排して常に初心を忘れず、虚心坦懐に一つ一つ証拠・証言を収集して捜査することですね? そしてそれらの証拠を真摯に積み上げて犯人に辿り着くことができたら逮捕・送致(マスコミなどでは「送検」と言ってます)で一応一件落着ということになります。

  このように一つ一つの証拠(動かぬ事実)や既定の事実を積み重ね結論(事件の首謀者、犯人)に辿り着く思考方法(帰納法、Induction)が刑事警察のものの考え方です。

  後述しますが、刑事警察が警備公安的なものの考え方で犯罪捜査をしたらどうなるでしょう?

2   警備公安のものの考え方

  一方警備公安の業務の進め方と考え方は刑事と全く真逆です。それは例えば

  🔹 今次の横浜市長選挙では、誰が勝利するか?どの党がどれくらいの得票率を獲得するか?

  🔹 イスラム国が次のテロ事件を起こすのはどの地域のどの国で、それは大体いつ頃か?

  🔹 北京冬季五輪での国際テロ脅威は存在するのか?あるとすればどのような脅威か?

  🔹 次期総理は誰がなるのか?それに伴う警護対策はどのようにやるのか?

  🔹 外交問題に発展する虞のある発言が閣僚からなされた場合、国内外の治安対象勢力はどのような動向を見せるのか?

  🔹 現在北海道の不動産を諸外国とりわけ中国が買い占めているようだが、今後どのような事態に発展しそうか?

  🔹 イスラエルとハマスとの抗争はいつ頃再び勃発しそうか?その時期或いは規模、発生場所は?

といった国内外の治安問題に関する命題に対して

公刊情報、一般協力者情報、特別協力者情報、国内外の情報機関や政財界に布石した協力者からもたらされる確度の高い情報

を数多く収集し、総合的に分析して最も現実味があり、発生する可能性(危険性)の高い治安情勢判断を演繹(Deduce)するプロセスがすなわち警備公安のものの考え方です。刑事とは見事に真逆の思考プロセスだと言えませんか?

3   刑事と警備公安

  上記のように、業務に関するものの考え方が全く真逆なのですから一方が他方を受認することは困難なのかもしれません。刑事と警備公安は仲が悪いのですか?という質問をよくされますが、問題の根本はこの考え方の相違に起因しているように思います。

  大切なのは、一方が他方を非難するのではなく

互いの違いを知り、互いの欠陥を補完し合い、良い意味で牽制し合う

ことだと思います。元々思考法が異なるのですからその違いを理解することから始めることが重要で、ややもすれば感情的になってしまい互いを嫌悪或いは攻撃し合い勝ちですが、かかる低レベルでの摩擦は組織にとってマイナスにしか作用しません。

  この点をうまく調整・説明できる幹部が存在する時期は良いのですが、どうもこの刑事と警備公安というのは「積年の恨み」のようなものが存在しているようで、一朝一夕にはこの問題は解決しそうにありません。

  お互いがこれまで陥った過ち(刑事であれば誤認逮捕、無罪事件。警備公安であれば情報量、情報力不足による情勢判断の誤り)を真摯に反省しつつ、同じ過ちを二度と犯さないためにも互いに良い意味で牽制しながら業務を進めてもらいたいですね。

  現役を離れた一納税者としてそう思います。

  最後までお読みいただき、ありがとうございました。

  このシリーズでは警察に関するあれこれ、よもやま話を独自の切り口でご提供していきたいと思っています。引き続きどうぞご愛読のほどお願い申し上げます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?