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警察留置場をめぐる諸問題(広島中央署での岡山・警視正自殺事案を受けて)

岡山県警から広島県所在の中国管区警察学校に出向していた故岩本警視正が公判中に広島中央署の留置場内にて縊死した事案(以下「広島事案」)に関する考察です。

大阪府警における留置人の自傷事故と愛知県警における留置人への特別公務員暴行陵虐罪容疑事案について考察してみました。

1 広島事案の他にも過去に留置場事故が複数

  殺人事件の容疑者が留置場で首つり自殺した案件です。

  当時の日経新聞は、事案関係者の処分について次のように報道しています。

  この事案の問題点は

 ◎ 留置場勤務員が職務懈怠により十分な巡視をおこなっていなかった点

 ◎ 上記事実を隠蔽するために虚偽の報告書を作成した点

です。


https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221213/k10013921281000.html

  警察留置場にて被留置者を100時間以上も戒具(報道では拘束具)を使用したうえに食事も十分に与えなかったばかりか、複数の警察官により殴る蹴るの暴行を加えて死亡させたという事案です。

3 広島事案及び大阪・愛知事案の背景にある留置施設法という法律について

平成18年に監獄法が全面改正されて「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下、「刑事収容法」)」という名称に変わり、同時に刑事訴訟法などで用いられていた「監獄」という用語も「刑事施設」に改められました。

かつて「代用監獄」と呼ばれていた制度も、現在は「代用刑事施設」です。

刑事訴訟法によれば、勾留の場所は「刑事施設」であり(64条1項)、全国の拘置所・拘置支所等に収容すべきことになります。

しかし、刑事収容法により、勾留される者を「刑事施設に収容することに代えて」警察署の留置場に収容することが認められています(同法3条、15条)。

留置場を代用できる条件については何も規定がないので、拘置所が原則で留置場は例外という位置付けにもなっていません。  

そこで、捜査中の被疑者については広く代用刑事施設を活用する運用が一般的になり、現在に至っています。

活用される一番の理由は、捜査のためにも被疑者の防御(特に弁護人との接見)のためにも便利だからです。

しかし、捜査機関自身が身柄を押さえながら取調べを続けることには自白の強要などの危険もあり、昔から問題視する声が強いところです。

そのため、警察署内部で留置担当の部署を独立させ、留置担当官と捜査官を分離する仕組みも取られています(刑事収容法16条3項)。

4 身柄の変遷(警察身柄から検察身柄へ)

  上記のとおり、平成18年に監獄法が全面改訂されましたが被留置人に対する処遇は改善されるどころか冒頭の大阪事案及び愛知事案のごとき言語道断の処遇が行われていることが明るみにでました。

  被留置人の身柄の流れからご説明しましょう。

  被疑者の逮捕(警察身柄)  ☞  48時間以内に釈放するか?検察庁に送致を判断する(警察身柄)  ☞  検察官が裁判官に対して勾留請求、勾留裁判後勾留が認められた場合(検察身柄) ☞ 以後公判まで検察身柄

  ここで注意すべきは、
    身柄の元請けは警察から検察に移っても留置される場所は同一

 という点です。

  しかも、留置場所は警察署内の留置場です。

  つまり、警察の留置場内には

   検察身柄と警察身柄が混在

 しているということです。

  では、何故検察身柄でありながら身柄は警察の留置場内に留め置かれるのでしょうか?

  それは、

刑事が被疑者(被告人)の取調べを行う際の便宜


 というただ一つの理由に基づくものです。

  つまり、拘置所に勾留した場合事件の補充捜査と取調べを行う際にわざわざ拘置所まで刑事が出向き、時間的な制約のもとで業務を行わねばならないという煩わしさが生ずることから、警察署内の留置場に身柄を拘束して好きな時に留置場から身柄を出し、取調べるという捜査サイド優先のシステムなのです。

 今後世界でも稀な非人道的なこのシステムが我が国で続く限り、将来にわたり同種の留置場事故の絶無は絶望的かと思われます。




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