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「好き」は時空を超える。

時空を超えて恋をする映画といえば、リチャード・マシスン原作の『ある日、どこかで』ですかね。

若き脚本家が、ある時気晴らしに出かけて宿泊したホテルの壁にかかっていた写真の美女に恋をしてしまう。写真は七十年近く前のもので、彼女は当時、ホテル内の劇場で公演(滞在)していた人気女優らしい。どうしても会いたくなった彼はタイムスリップの方法を調べて過去に旅をする…というようなスジだったでしょうか。

SF好きの兄のオススメで観て、10代の頃、大いに盛り上がった記憶があります。ラフマニノフの曲(パガニーニ・ラプソディ)が印象的で、ラスト前に現代に引き戻される瞬間も劇的で…。ただ、冒頭で脚本家としての一歩を踏み出し始めた彼の受賞パーティに見知らぬ老女がやってきて「私に会いに来て」と懐中時計を渡すところが鍵になっているんですが、「あの懐中時計は結局どこから来た誰のものなのか?」というSFならではの矛盾点や、時間旅行の方法に「え、そんなので?」となったりするので、感動作というより、ツッコミ要素も含めたファンタジーとしてお気に入りです。

実は私も最近、時空を超えて人を好きになっちゃいました。

外出自粛の期間中に掃除や整理をしていて、とっくに解約したはずの宝塚歌劇の動画配信サービスの契約がまだ切れていないことに気づき、「数ヶ月気づかずに支払い続けていたなんて…」と憤慨しつつ、一応配信ラインナップを見てみようとチェックしたら、25年前に上演された人気の演目があり、「まぁ、もう月の半分が過ぎているから、とりあえずちらっと観てみるか」と思って再生したら、お一人、眩しく発光している方が…

外出しづらい状況と仕事のストレスとの兼ね合いで、もうエンドレスで観てしまい、ずるずると新しい月を迎え、解約するのもすっかり忘れ…ああ、バカだなぁ。

25年前の時点で二番手スターだったその方はその後トップスターになり、退団されてから今に至るまで、ずっと女優さんとして活動されていることを知りまして。というより、その女優さんのことは以前から知っていて、ドラマなどでも結構気になっていたので、「え、あの不思議な魅力の女優さんが、あの渋いヒゲのおじさまを好演したスターさんだったの?何でもっと前から気づかなかったのだろう…なんてもったいない」となったのでした。

そして、ここから本題。

どうして人間って、いつもいつも、「なんて素敵なものを私は今まで見過ごしていたのだろうか」と後悔するんでしょう。

お店や、漫画、小説、音楽(曲)、ドラマ、劇団(演目)など、以前から存在は知っていて、少し何か引っかかりはあるものの、さほど意識しなかったものとか、人から「あれ、いいよ」と聞いていたのに興味を持たずにいたものが、ある時なにかの拍子に急に「パァ〜ッ」と光が差したように魅力がクローズアップされて見えて、深く知れば知るほど「なんでこんな素晴らしくて味のあるもの(人、場所も)に今まで気づかずにスルーしてしまっていたんだろう。自分のバカ!!」と地団駄を踏む。

最近でいうと、引っ越してきた町に対して、当初「地味なエリアだなぁ、まぁでも住宅地なんだからしょうがないか」と思い込んで、ろくに周囲を見渡さずにいて、ある時ふとしたことで風景が違って見えて「なんて魅力的な場所に暮らしているのだろう!!」と、いてもたってもいられなくなってしまって、勢いだけでガイドブックを作った件もそのパターンなのでした。

後になって魅力に気づくのは、何も自分の外にあるものだけじゃない。自分自身の中に既にある「好きなもの」に気づくこともあるんです。

昨年の秋に『ハニホ堂つうしん』というのを作って、イベントやお店に来られた方にお渡ししているのですが、半年以上経っても続きを作る気になれなくて。でも、何人かの方から「あれ面白かったよ。続きはまだ出ないの?」と声をかけてもらって、最近ようやく重い腰をあげたものの、書きたいことがあるわけでもなく。A3用紙の表裏をどうやって何で埋めようかと…

でも作業を始めたら思い出したことがあって。

小中学生の頃、担任の先生が美術系だったこともあって、学芸会の台本や修学旅行のしおり、文化祭のプログラムの挿絵などを頼まれて担当していた私。学級新聞では、自分の班だけ勝手に4号くらい作って刷ったような…

「挿絵やロゴなどはお任せあれ」、みたいな立ち位置だったことは、辛くて長い学校生活における処世術だった一方、今思えば、「絵を描く」ことより、何か「読み物」的なものを作るのが単純に好きだったのだろうなと。イラストを描くのは昔も今もそんなに好きじゃないのだけど、なぜか「読み物」的なものを作るのが大好きなんだよなぁって。

その後、大学生の頃から「〜通信」を状況に応じて作っては配って、を続けて今に至るのですが、昔も今も内容は薄い(笑)。けれど本人としては子供の頃と同じように無心で楽しく作っています。

現実世界がシビアになればなるほど、色んなことに心が押しつぶされそうになればなるほど、「好き」に救われます。なかなか気付けずに見過ごしてばかりの人生ですが、「好き」な何か、誰かに気づいて感謝して、この世は捨てたものじゃないと思いたいです。

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昨年秋の創刊号(画像右下)では葬儀場バイト時代の漫画を載せたりしましたが、今回は「ハホニ堂へようこそ」というお店漫画を書き下ろし掲載。

新号は7月中旬から店頭で50円で、または一定額以上お買い上げの方におまけでお渡しします〜